9 新パーティーの結成


 ミノタウロスの斧がカンナのいた位置の床を叩き割った。

 俺は間一髪のところでポルターガイストでカンナを掴んで斧を避けた。

 そしてハルニレにカンナを預けて言った。「二人は下がって!」

 ハルニレとカンナが空間の奥に行ったのを見送って俺はミノタウロスと向き合う。

 斧の届かない位置からポルターガイストを伸ばして足を引っ張った。

「うわっ」

 逆に俺の体が浮いて転びそうになった。

 当のミノタウロスは不思議そうに自らの足を見ている。

 ポルターガイストが見えないのは確定したものの、俺の体重が軽すぎて攻撃にならない。

 俺の思案の最中にミノタウロスは突進してきた。
 ポルターガイストを飛ばして壁の出っ張りを掴んで浮き上がる。

 ミノタウロスは相手を見失って右往左往している。

「なるほど」俺は着地と同時にポルターガイストを飛ばしてミノタウロスの肩を叩いた。「こっちだ!」

 後ろを振り帰ったミノタウロスは再び俺に突進してきた。

 あらかじめポルターガイストで壁の出っ張りを掴んでいた。それを縮めて俺は宙に浮いた。
 そしてミノタウロスは壁に激突した。そしてそのまま伸びて地面に横たわった。

「やった!」
 と叫んだもののだいぶ安易な方法で撃退したので勝った実感はない。

 背後から柔らかい何かが俺の体を包む。

「凄い! 武器も使わないでミノタウロスを倒しちゃった!」ハルニレは俺の頭を胸で挟んで言った。正確にはただ抱きしめただけだが。

「待って」とカンナは警戒しつつ短剣を倒れたミノタウロスの方へと翳した。「来る」

 ミノタウロスは起き上がる動作と同時に再びこちらに突っ込んできた。

「ヴァジュラ(雷神雷刀)!」という掛け声と共にカンナの短剣から雷の刀が伸びてミノタウロスの胴体を切り裂いた。

 焼け焦げた胸から血が噴き出すもミノタウロスは一瞬の躊躇いの後に再び突進を開始した。

「え? 嘘でしょ!」カンナは狼狽えて棒立ちに近い。

 俺はポルターガイストを伸ばしてカンナを天高く上げた。

 カンナは俺の腕の動きと自らの胴体を掴むポルターガイストの感触を確かめてから言った。

「遠隔セクハラ!」

「えええ!」

 誤解だと言いたかったがよく考えたら誤解ではない。

「助けてもらってそれは無いでしょ!」ハルニレは剣を携えてミノタウロスに向かって走り出す。

 手負いになったとはいえミノタウロスの怪力にハルニレの剣が通じるか疑問がある。

 俺はカンナを下ろしてハルニレの動向を見守りつつポルターガイストを近くに配置した。

 驚くべきことにハルニレはカンナのヴァジュラとおなじ軌道で剣を振るった。「チキサニ(炎刀荒神)!」

 ハルニレの刀によりミノタウロスの体は真っ二つになった。

 俺はポルターガイストの必要がないと知った。

「やったよ! ユカラ! 褒めて!」

 そう言ってハルニレは再び俺の体に抱きついた。

「ああ、凄いぞ。ハルニレは強かったんだな」

 ハルニレは不意に体を剥がしてカンナに向き直る。「あなたの一撃目を利用したから勝てた。チキサニ(炎刀荒神)は一度辿った剣筋をトレースする技だから」 
 ありがとう、とハルニレは頭を下げた。

「え。あ、うん」とカンナもまた頭を下げた。「こちらこそ」

 一時は(俺のせいで)険悪になりかけたのに互いに認める展開になったことを俺は素直に喜んだ。

「このままダンジョンを三人で攻略するのはどうかな?」

 俺の提案に二人は顔を見合わせてから握手した。

「でも」とカンナは俺の耳を掴んで言った。「一刻も早く私の体を忘れなさい!」

「いたたたたたた」と俺は叫んだもののこれで済んだのならまだ平和的だと安心した。



 ダンジョン踏破に向けて出発したものの俺には懸念事項があった。
「ハルニレの仲間達はまだこのダンジョンにいるんじゃないのか?」

「そうだった!」とハルニレは忘れていたとばかりに頭を抱えて言ったがすぐにケロッとした表情で「まあ合わないでしょ」と言った。

 空間を抜けて洞窟を進むと再び部屋がある。
 その扉の手前に佇む集団がいた。