8 ミノタウロス登場

 カンナの得意技は電撃だ。剣士であるハルニレとは相性が悪い。

「ハルニレ、俺なら大丈夫だ。全回復もあるし、カンナは手加減すると言っている!」

 俺なりに仲裁するつもりで言った。

「カンナってあの女の名前? 何で知っているの?」とハルニレは妙な勘の良さを発揮して訊いてきた。

「あれ? 私名乗ったっけ?」とカンナもまた俺の言葉を聞いて言った。

 失敗した! 
 
 語るに落ちたのではない。自ら破綻した。

「あの一緒にいた男が教えてくれたの?」とハルニレは脱皮する前の俺を指して言った。

「え? 誰か一緒にいたの? もしかしてユカラ様? 髭面のダンディな人だよ。目立たないように皆のサポートをしていたけれど、本当は凄く強いの。いつも私の短剣を研いでくれていた。そしてこれはユカラ様がくれた短剣」

 そう早口で言ってカンナは俺があげた短剣を抱きしめた。

「えっと、あの人もユカラって言うのか。少しだけ一緒に行動して君の名前も聞いた。『大切な短剣を投げてピンチを救ってくれた人だ』って言っていた」

 俺はやましさで胸が張り裂けそうになりながら頑張って嘘を吐いた。
 そして大事な本音を付け加えた。

「凄く感謝していた!」

「ユカラ様がそんな事を」カンナは座り込み顔を伏せた。そして声を震わせて言った。「嬉しい」

 とりあえずカンナに気持ちを伝える事ができた。俺は満足してカンナに言った。「殺さない程度なら罰を受けるよ。さあやってく」

 その時、耳を裂くほどの爆音が響いた。
 カンナの電撃を食らったかと思ったら違った。

「クルクル」空気を読んで離れていたクルクルが俺の頭に止まり前方への意識を促した。

 カンナの後ろの暗闇から牛の頭をした人型のモンスターが現れた。ミノタウロスだ。 
 ミノタウロスは再び斧を壁に打ち付けた。またしても爆音が響いた。

「カンナ!」俺はポルターガイストをカンナへと向けて伸ばした。

「え?」カンナは音の出所が分からず訳が分からないという顔つきをした言った。