7 カンナは俺を好きだった

「何か言い残すことは?」とカンナは言った。

「綺麗な体だった」と俺は正座してまたしても馬鹿正直に答えた。

「え? どういうこと?」と隣でハルニレが動揺して訊いた。

 ことの経緯を俺は簡単に説明した。

「こんな子供に見られたくらいで騒がないでも良いんじゃない?」とハルニレはカンナを嗜めた。

 中身はオッサンだけれどな。

「私にとっては大切なことなの」と何故か少しモジモジとしてカンナは答えた。

「ところで」といってハルニレは俺の耳を引っ張った。「あの子は『綺麗な体』なら私はどうなの?」

「いたたたたたたた」俺は何やら理不尽な展開を感じつつも急いで言った。「ハルニレは、興奮する体だった!」

 ハルニレは俺の耳を解放して言った。「それ、褒められている?」

「とにかく!」と気を取り直したのかカンナは短剣をこちらに向けて言った。「私はユカラ様にしか体を見せる気は無かったの! だからあなたには死んでもらう」

「ユカラ?」とハルニレはいち早く反応した。「同名?」

 そうなのか? カンナは俺を好きだったのか? 俺、オッサンだぜ? いやしかし、時折黙って俺を見つめる視線に気づいてはいた。

 正直涙が出そうなほど嬉しい。だが俺はハルニレの手前、今の俺がオジサンから脱皮した姿だと公表するわけにはいかない。

「め、珍しいなあ。俺と同名の人がいるんだなあ」と俺はやっと答えた。

「あなたもユカラって名前なの?」とカンナは短剣を下ろして訊いた。

「ああ、そうだ」

 ふーん、とカンナは俺をマジマジと見る。「じゃあ半殺しに負けてあげる」

 やったー! 半殺しだあ!

 となる訳がない。

「ちなみにそれってどれくらい痛めつけられるんた?」と俺は一応訊いた。

 人差し指を顎に触れて中空を見つめつつ少し考えてからカンナは言った。「全治三ヶ月くらい?」

「それほぼ全殺しだろ!」俺は思わず叫んだ。

「多少調節は効くよ。電流と電圧を調節すれば死なない程度にすることは、‥‥多分できると思う。もしかしたら記憶も飛ぶかも?」

 自信なさげにカンナは言った。

 一応全回復があるのでカンナの気持ちを沈めるためならと俺は観念して言った。「本当に死なないんだな?」

「そんな要求は飲む必要はないよ」とハルニレは突然言った。そして剣を構えた。「ユカラは私が守る」