6 勇者・カーカはダンジョンから出る

「クソッ! あの女! 拾ってやった恩も忘れて調子に乗りやがって!」勇者・カーカは何もない空間を蹴って憂さを晴らした。「とりあえず目標は達した。帰るぞ」

 勇者・カーカの指示に従いパーティーはダンジョンを戻りはじめた。
「ユカラの荷物がありますねえ」と治癒士・ジュークは気取って言った。

「放っておけ。どうせ今頃はモンスターの餌だ」勇者・カーカは言い捨てた。

 一行がダンジョンを戻りはじめて半刻が経った頃、不意に大剣使い・カマールは言った。「虫が多いな。痛っ。刺されたぞ。おい、ユカラ、なんとかし‥‥は、いないんだったか」

「僕も刺された」魔術師・モーリは腕を掻いている。

「害虫忌避の魔法とか無いのか?」勇者・カーカは憮然として魔術師・モーリに訊いた。

「そんなニッチな魔法はないよ」

「じゃあ何で来る途中は虫が寄って来なかったんだ?」勇者・カーカもまた首筋を掻いて言った。

「いっそファイアボールで燃やしてしまおうか?」と魔術師・モーリは提案する。

「いいぞ。やれ」勇者・カーカは言った。

「ファイアボール!」魔術師・モーリが杖を前に翳して叫ぶと火の玉がダンジョンの行き先を真っ直ぐに飛んで見えなくなった。

「これで行き先の虫はだいぶ駆除できたんじゃないか?」大剣使い・カマールはご満悦で言った。

 しばらく進むとどこからか羽音のような音がした。
「何ですかね」と治癒士・ジュークは気取って言った。

「気にするな。先を急ぐぞ」と勇者・カーカは言った。

 ダンジョンの洞穴の角を曲がるとそこに巨大な虫の顔があった。ぶぶぶぶぶっと羽音をさせながら宙に浮いて勇者達をジッと見ている。

「さっきの虫の親玉じゃないのか?」と大剣使い・カマールは言った。

「逃げるぞ!」と勇者・カーカが叫ぶと同時に一行は走り出した。

「ファイアボール!」魔術師・モーリは親玉に向けて火の玉を発射した。
 親玉は口から泡のようなものを吐き出して一瞬でファイアボールを消し去った。

 そして親玉の後には軍隊のような虫の軍勢が待機していた。