4 カンナはパーティーを抜ける

 勇者・カーカはユカラを押した手のひらを眺めて言った。

「いやあ、ほんの冗談のつもりだったのにな。オッサンの体、軽すぎだぜ。干からびているんじゃないのか?」
  
 その言葉に一同は笑った。

「くっ」カンナは皆の注意が向かないように注意深く短剣をユカラの下に滑らせるように投げた。それは亡き父の形見の品だった。幸いいつ失くしても良いようにとユカラからそれに似た短剣を譲り受けていた。

「万一の時に備えた方がいい」とユカラは常に言っていた。

 ユカラ様。今がその時です。
 そう考えてからカンナはカーカに言った。

「すみません。私、このパーティーを抜けます」

「ああ? なんだ一体? お前さ、俺にいくら借金があると思ってるんだよ?」

 勇者・カーカは醜悪に顔を歪めて叫んだ。

 カンナは冒険者だった父の死後、奴隷として売られた過去がある。それを買い取ってパーティーメンバーに加えたのが勇者・カーカだった。幼少時から雷撃が使えたので奴隷の身の上になっても我が身を守ることができた。勇者・カーカから何度も触れられそうになったがその度に撃退してきた。

「借金は必ず返します」

 そう言ってカンナはダンジョンの横穴に入った。実はかつて父と秘密裏にこのダンジョンには潜ったことがあった。前人未到は公式見解である。
 確かあの部屋にはアークスパイダーがいた。ユカラ様の実力なら短剣があれば凌げるはず。あの部屋の先に行けば。

「言っておくがパーティーから離れた時点で利息が付くからな! ギルドに報告して公文書にしておくぜ! 逃げたらその時点でお尋ね者だ!」

 勇者・カーカの叫びが遠くに聞こえた。

「急がないと‥‥ユカラ様。‥‥私の将来の旦那様」

 カンナはユカラから貰った短剣の鞘を握りしめて言った。