20 勇者・カーカとの共闘

「カーカ」カンナは短剣を構えて言った。「何故ここに」

「まだいたのか。早く帰って借金の為に身売りでもなんでもしてくれ、俺の為に」
 そう言ってカーカは笑った。

「ゲスが」パーティーを抜けたせいか、カンナは思った事はハッキリと口に出すようになった。

 俺は現在女の子の姿になっている。だからユカラだとバレる心配はない。この状況を活かして何か復讐する算段をする。

「なあアンタ」と俺はカーカに訊いた。「この先がダンジョンの最奥部になる。一緒に攻略しないか?」

「あ? なんだガキ?」とカーカは俺に気づかずに言った。「最奥部だと?」

「なっ」という声がカンナの口から漏れた。「こんな奴と組む必要はない!」

 俺はカンナに向けて頷いた。大丈夫、カンナの分も意趣返しはするという意味でしたつもりだった。

「分かった。指示に従う」カンナは半分納得して半分は渋々答えた。

「ハルニレも」と一応小声で言って彼女の方を見たら顔が変わっていた。「えっと、良いかな」

「勿論」とハルニレは親指を立てた。醜女とまではいかないが、元の端正な顔立ちからは想像もできない型崩れを起こしていた。ミミはハルニレの頭の上で知らん顔をしている。

 何か理由があるのだろう。俺は再びカーカに向き直る。「どうする?」

「女子供ばかりか。足手まといになるならすぐ切るぜ」とカーカは露骨に俺たちを見下して言った。「マーカーだけのつもりだったが、‥‥そうかもう最奥部か」

 おそらくダンジョンマスターが強い場合は俺たちを犠牲にして逃げるつもりだろう。最奥部と聞いて意見を変えたのはそういう事だろう。顔に書いてある。
「じゃあ行くか」

 ふと見るとカーカは抜け目なくマーカーを描いていた。
 普通マーカーを描く時はその場にいた皆に了承を得るものだ。

 ちなみにマーカーがあると魔法探知で誰でも位置情報が探れる。そしてマーカーを訪れた人がいると付けた人物にギルドからその都度謝礼金が入る。効率良く稼げるのでモンスターとは極力戦わない「マーカー職人」なる冒険者までいる。

「普通マーカーを付けるなら訊かないか?」とカンナは刺々しく言った。

「攻略を頼んだのはそっちだぜ」カーカは当然とばかりに言った。

 カンナの肩が震えている。
 俺はカンナに耳打ちした。
「ダンジョンマスターを倒せば今のマーカーは無効になる」

 カンナは振り向いてやっと笑顔を見せた。
 
 俺たちは通路を進み扉の前に着いた。
 扉自体に何の仕掛けもなくすんなりと開いた。

 広い空間内部は荘厳な伽藍のように極彩色の装飾がなされていた。
 その中央に少女が立っていた。
「待ちかねました」

 そして出所のわからない突風が吹いた。
 俺はハルニレをポルターガイストで抱えて避けた。カンナも避けた。カーカは直撃して吹っ飛ばされた。

「ざまあ!」とカンナは思わず本音を吐いた。

 俺は一応ポルターガイストでカーカの腕を掴んだが‥‥、ついでなのでその腕を折っておいた。

「ぐああああああああ!」とカーカは叫んだ。