19 すこし前の勇者・カーカ
アートは巨大なモンスターの足につかまり最後に言った。「アート、ユカラを虐める奴は許さない」
巨大モンスターと共にアートは飛び去った。
「なんなんだ‥‥」勇者・カーカは茫然自失したまま空間の上を見上げて言った。
※
勇者・カーカは巨大モンスターと共に去ったアートとの会話を思い出していた。
「何でユカラが出てくる? あのオッサンにそんな価値があるとは思えないが」
空間の先には通路があった。
「この先まで行ってマーカーを描けば良いか。あまり深入りしてモンスターに出くわしてもな」
勇者・カーカはアートと連れ立った巨大モンスターを思い出して怖気に襲われた。
通路を行く内に奇妙な出来事が起きた。真っ直ぐ歩けない。
「なんだ」
しばらくすると立っていられなくなる。
「毒か。クソッ! どこでやられた?」
勇者・カーカはここで座り込むとモンスターの餌になると本能的に悟った。
ズズズ、ズズ、と通路の奥から何かを引きずる音がした。
「ヤバいな。お出ましか」
背中に無数の花が咲いているトカゲのような目の無いモンスターが現れた。
トカゲのようではあるが後ろ足がない。胴体を引きずるように前足だけで歩いているのだ。
「あの花から麻痺ガスが出ているのか」
おそらく狭い空間で独自進化したモンスターだった。動きが鈍いのを背中に生えた花からの麻痺ガスで補っているのだ。
「あのスピードなら逃げ切るのは容易い。だが」
勇者・カーカは膝立ちになってハンカチで口を覆う。
ささやかな衣擦れだったがそのモンスターは敏感に察して首を向けた。
おそらく視力はない。だが音に敏感だ。
麻痺は残っているが体力がある内に逃げた方が良さそうだ、と勇者・カーカは思った。
自分の体勢とモンスターの体の向きから勇者・カーカは大胆な決断をする。
「行くぞ!」とあえて声に出した。
モンスターは一直線に勇者・カーカに向かってくる。
先程まで胴体を引きずっていたのに勇者・カーカが声を出した瞬間から蛇のように体をうねって俊敏に動いた。
「何だそりゃ、反則だろう!」と言いつつ勇者・カーカは勘でバランスを取りつつモンスターに向かって走った。
そしてモンスターが口を開けた瞬間にその手前でジャンプした。
モンスターの進むスピードと勇者・カーカのすれ違うスピードが足し算となりあっという間にモンスターは見えなくなった。
「ははっ、ざまあみろ!」と叫んだ勇者・カーカであったが毒が回ったままでバランスが取れずにいた。
通路の先に水音がした。
ザーッという音から地下水が流れているのが分かった。
通路の先はそのまま橋に繋がっていた。
橋には手摺がない。
勇者・カーカは走るスピードのまま橋から転げ落ちた。
「ぐあっ」落ちる間際に叫んだ声が地下水の洞窟内に響き渡った。
幸い水深は深く、落ちても怪我をせずに済んだ。
ただ毒による麻痺のせいでうまく泳げない。
流れるままに身を任せるとやがて浅瀬に出た。
「た、助かった‥‥」
びしょ濡れのまま浅瀬に立つと不思議と麻痺は消えていた。
どうやら呼吸器から効く麻痺ではなく皮膚に付着して効く麻痺毒だった。
「ここは‥‥何処だ?」浅瀬から横手に伸びる通路に入った。
通路の十字路を曲がると足に電流が流れる。
「クソッ! なんだ今のは!」
思わず悪態が口から出てきた。
「おい、誰かいるのか! いるなら出てこい! カーカ様の刀の錆にしてやる」
通路の先には女が三人いた。
一人はカンナだった。
アートは巨大なモンスターの足につかまり最後に言った。「アート、ユカラを虐める奴は許さない」
巨大モンスターと共にアートは飛び去った。
「なんなんだ‥‥」勇者・カーカは茫然自失したまま空間の上を見上げて言った。
※
勇者・カーカは巨大モンスターと共に去ったアートとの会話を思い出していた。
「何でユカラが出てくる? あのオッサンにそんな価値があるとは思えないが」
空間の先には通路があった。
「この先まで行ってマーカーを描けば良いか。あまり深入りしてモンスターに出くわしてもな」
勇者・カーカはアートと連れ立った巨大モンスターを思い出して怖気に襲われた。
通路を行く内に奇妙な出来事が起きた。真っ直ぐ歩けない。
「なんだ」
しばらくすると立っていられなくなる。
「毒か。クソッ! どこでやられた?」
勇者・カーカはここで座り込むとモンスターの餌になると本能的に悟った。
ズズズ、ズズ、と通路の奥から何かを引きずる音がした。
「ヤバいな。お出ましか」
背中に無数の花が咲いているトカゲのような目の無いモンスターが現れた。
トカゲのようではあるが後ろ足がない。胴体を引きずるように前足だけで歩いているのだ。
「あの花から麻痺ガスが出ているのか」
おそらく狭い空間で独自進化したモンスターだった。動きが鈍いのを背中に生えた花からの麻痺ガスで補っているのだ。
「あのスピードなら逃げ切るのは容易い。だが」
勇者・カーカは膝立ちになってハンカチで口を覆う。
ささやかな衣擦れだったがそのモンスターは敏感に察して首を向けた。
おそらく視力はない。だが音に敏感だ。
麻痺は残っているが体力がある内に逃げた方が良さそうだ、と勇者・カーカは思った。
自分の体勢とモンスターの体の向きから勇者・カーカは大胆な決断をする。
「行くぞ!」とあえて声に出した。
モンスターは一直線に勇者・カーカに向かってくる。
先程まで胴体を引きずっていたのに勇者・カーカが声を出した瞬間から蛇のように体をうねって俊敏に動いた。
「何だそりゃ、反則だろう!」と言いつつ勇者・カーカは勘でバランスを取りつつモンスターに向かって走った。
そしてモンスターが口を開けた瞬間にその手前でジャンプした。
モンスターの進むスピードと勇者・カーカのすれ違うスピードが足し算となりあっという間にモンスターは見えなくなった。
「ははっ、ざまあみろ!」と叫んだ勇者・カーカであったが毒が回ったままでバランスが取れずにいた。
通路の先に水音がした。
ザーッという音から地下水が流れているのが分かった。
通路の先はそのまま橋に繋がっていた。
橋には手摺がない。
勇者・カーカは走るスピードのまま橋から転げ落ちた。
「ぐあっ」落ちる間際に叫んだ声が地下水の洞窟内に響き渡った。
幸い水深は深く、落ちても怪我をせずに済んだ。
ただ毒による麻痺のせいでうまく泳げない。
流れるままに身を任せるとやがて浅瀬に出た。
「た、助かった‥‥」
びしょ濡れのまま浅瀬に立つと不思議と麻痺は消えていた。
どうやら呼吸器から効く麻痺ではなく皮膚に付着して効く麻痺毒だった。
「ここは‥‥何処だ?」浅瀬から横手に伸びる通路に入った。
通路の十字路を曲がると足に電流が流れる。
「クソッ! なんだ今のは!」
思わず悪態が口から出てきた。
「おい、誰かいるのか! いるなら出てこい! カーカ様の刀の錆にしてやる」
通路の先には女が三人いた。
一人はカンナだった。

