18 ユカラは勇者・カーカと再び出会う

 オッサンから少年になって今度は女の子になった。
「わけが分からん」俺は思わず呟いた。頭の上にクルクルが乗って鳴いた。「クルクル」 
 
「えっと、ユカラで良いんだよね?」とカンナはおずおずと言った。

「ああ、‥‥多分」と俺は上衣を身につけつつ言ったものの脱皮は二度目なので慣れたものである。「しかし」

 オッサンから少年になった時に俺はポルターガイストを身につけた。脱皮報酬とでも言えばいいのか。今回も何かしらの特殊スキルが身につくと期待した。

「んー」俺はポルターガイストを伸ばして壁に触れるも特に変化はない。

「で、どうなっているの?」とハルニレは笑顔で言った。「変身能力があるとか?」

「変身というより脱皮かな」と俺は正直に言った。「ほら、男の子だった時の皮がこれだ」

 俺はその皮をハルニレに渡した。

「へえ‥‥」と言ってハルニレはおもむろに裸になってその皮を身につけようとする。

「いや、何を⁉︎」俺は思わず指摘した。

「あ、着れた!」とハルニレは言うものの、少年だった頃の俺の体が間延びしてグロテスクな人間になっている。「私にオチンチンは無いから中身はスカスカだね」

「やめて! 俺の恥部を弄ばないで!」俺はたまらず顔を覆った。

「えっと、‥‥ドン引きなんですけど」とカンナは言った。
 
 むしろカンナの正常な反応に俺は安心した。

「で」とカンナは不意にジト目で訊いてきた。「この能力は隠していたわけ?」

「能力なのか? むしろ弱体化しているようで怖いんだが」俺は正直に言った。

「悪気は無いわけね。まあいいよ」カンナはずっとハルニレの股間に視線が注がれている。

「いや、だから見ないでくれ!」と俺は懇願した。

「いや、見て‥‥いるけれど。小っさ。ああなっているのかと、生物学的な興味だ!」カンナは苦しい言い訳をした。「ユカラだって私の‥‥見たじゃないか」

 それはそうだが。あと「小っさ」と言った気がしたが。

「プハッ」とハルニレは俺の元の体の皮を脱いで言った。「流石に小さいから苦しい」

 また小さいと言われた。

 現在俺は女の子だからハルニレの露わになった体を見ても変ではないのだがカンナの視線が痛い。俺は目を逸らした。
 よく考えたらカンナは俺の股間を見ていたので理不尽な話だ。

「それよりも、そろそろダンジョンの攻略に向けて本腰を入れたい」俺は服を着たハルニレとやや不機嫌なカンナに向けて言った。「カンナには道案内を頼みたい」

「分かった」カンナは言った。「もう少し進むと最奥部へのルートになる」

「ハルニレには何か不吉な夢は見なかったか教えてほしい」

「このダンジョン内では特に無いかな」とハルニレは答えた。「あまり先の事を話すと別なトラブルに変わる事があるの」

 ハルニレは重要な事をサラッと言った。俺はそれについて考えてから言った。「分かった。予知夢についての裁量は任せる」

 そして再び通路を歩き出した。ハルニレとカンナは交換した互いの服を元に戻していた。

 カンナは曲がり角や先の見えない通路では微弱な電流を流して索敵をしてくれた。

「何かいる」索敵に引っかかったらしい。

「クソッ! なんだ今のは!」
 薄暗い通路の奥から聞き慣れた声が聞こえた。
「おい、誰かいるのか! いるなら出てこい! カーカ様の刀の錆にしてやる」

 勇者・カーカがそこにいた。