12 王国専属パーティーと意思のあるダンジョン

「なんだお前ら」と前衛らしき棍棒を持った男は言った。

 喧嘩腰だ。まあそうだろうな。
「見たところ王国専属のパーティーとお見受けする。少し話をさせていただいてもよろしいですか」と俺は丁寧に言った。

 ハルニレのいたパーティーは王国専属パーティーである赤い羽を甲冑や衣裳に付けている。ハルニレはおそらく外したのだろう。

「子供の来るところではない。去れ」棍棒男に一蹴された。

「この先のルートを知っていると言っても?」とカンナは言った。

「またマーカー隠蔽の輩か。市井のパーティーはこれだから」と言いつつも一応聞く姿勢を示した。

「この先、巨大な空間が出現する。だが一度ドアを開けるたびに違う空間が現れる」カンナは言った。

「つまり」とリーダーと思しき老齢の魔術師は言った。「我々と貴様らが別に入れば別の空間に出るというわけか」

 カンナは頷いた。
 俺はハルニレが緊張して無言を貫いているのを確認して言った。
「なのであなた方の目的は知らないが争いになる可能性は低い。先でも後でもそのドアを通る許可を貰いたい」
 
 俺のへりくだった態度に老齢の魔術師は態度を軟化させた。
「我々の許可を取る必要はない。好きにするが良い」

 俺は頭を下げた。
 すると彼らは早速ドアを通る準備を始めた。そしていざ次の空間へと移動する間際に言った。
「ところで甲冑を付けた女騎士を知らないか? もしかしたら男に化けている可能性もあるが」

「いや、知らないですね」俺は言った。「会ったのはモンスターくらいです」
 俺の後ろでハルニレが「かはっ」とか「くっ」とか息を潜めようとしてむしろ不自然な息づかいになっているのを聞いた。

「そうか。もし会ったら王国騎士団に連絡してくれ。報奨金ははずむ。ワシの名はモシレコタネだ。名前をいえば繋げてくれるだろう」

「心得ました」  
 俺の返答を待たずにモシレコタネ達はドアをくぐった。

「バレなくて良かった!」とハルニレは崩れ落ちた。

「王国専属パーティーなら別に性別を明かしても問題なかったんじゃないのか?」と俺は出自の確かなパーティーを見てきた経験から言った。

「ちょっと別の問題があって」とハルニレは妙に歯切れが悪い。
「まあいいでしょ! それより私たちも早くドアをくぐりましょ!」

「ちなみにさっきの話は本当なのか?」と俺はカンナに訊いた。

「一応。でも多分彼らは遠回りなルートへ行った」カンナはドアの前で短剣を構えた。「我が名はカンナ。電撃を主な戦力とする」

 ドアは自動的に開きそこから石畳の道が続いていた。

「戦力を提示しないと安全だが遠いルートに飛ばされる」カンナは短剣を鞘に収めて言った。「行こう」

「まるでダンジョンに意志があるみたいだな」と俺はドアを通りつつカンナに言った。

「たまにそういうダンジョンがある。前のパーティーで当たった事はないけれど」

 カンナは控えめで寡黙だった。思い返すと俺以外と話しているのを見たことがない。

「意志のあるダンジョンの場合、おそらくダンジョンマスターで少し苦戦することになる」とカンナは付け加えた。

「苦戦?」

「戦力的な問題ではない。もう少し厄介な事が」とカンナが言いかけた時に石畳を歩く音が聞こえた。

 俺たちは戦闘体制に入った。
 ん? 足音? 人間か?

 通路の角から足音の主が現れた。
 甲冑を付けた騎士だった。だがその顔に肉は無い。骸骨面だった。

「ノスフェラトゥか」俺はポルターガイストを用意する。

 だがハルニレは前に出て剣を構えた。「たまには私にも戦わせて」