11 ハルニレとカンナは衣服を交換する

「嘘でしょ」とハルニレは洞窟の奥に引っ込んだ。「ミミ。幻覚パターン2」
 そう言ったハルニレの顔が老人のようになった。

 どうやらハルニレがいたパーティーに鉢合わせてしまったらしい。

「いや、同じ甲冑を付けているから気づくんじゃないか?」と俺は言った。

「あああ、そうだった!」そう言ってハルニレは手早く甲冑を脱ぎ捨てた。

 ハルニレは顔だけ老人で体は肉感的な女性という恐ろしい見た目になった。

「事情はよく知らないけれど格好を変えればいいのね」とカンナは着ている服を脱ぎだした。「ユカラはあっち向いて!」

「はい!」と返事をした俺は回れ右をする。

 回れ右をすると部屋の前で話し込んでいる集団が垣間見える。「あれって‥‥」

「もういいよユカラ。着替えは終わったから」とカンナは言った。

 パーティーで一緒だった頃とは違う気やすい反応のカンナに新鮮な感動を抱きつつ俺は振り向いた。

「だいぶ無理があるような」と俺は正直に言った。
 カンナのスリムな体型の服を着るにはハルニレは豊満すぎた。
「盗賊の女幹部で見たことがある格好だ」

 上衣が小さくハルニレのお腹は出ていた。
 当然胸はパンパンでなんとかそれを隠そうとカンナの防刃ベストを羽織っている。
 顔はハルニレとはまた別の女性の顔になっていた。

「まあこれで何とか」と言うカンナはハルニレのブカブカの上衣を羽織り下半身は短パンなのでまるで部屋着のような装いである。妙にエロい。
 ダンジョンを舐めた格好に見えないことも無い。

「甲冑はいいのか?」と俺はハルニレに訊いた。置いていくには随分と高価な物に見えた。

「重いし動きにくいから初めから要らなかったんだ。男になりきる為に付けていただけだから」ハルニレは甲冑を脱ぎ捨てて嬉しそうだった。

「あの集団をやり過ごしたら服は返してね」とカンナはハルニレに言った。ブカブカの服に不安があるようだった。確かに色んな隙間からカンナの素肌が垣間見える。

「ともあれ用意は整った」と俺は二人に確認を取る。

 正直あの集団をやり過ごして別のルートを通る事もできる。だがどう考えても遠回りだとカンナは言った。「最奥部手前まで行くにはあの部屋は通らないと」

 カンナは最奥部手前まで行ったことがあると話す。「その時は父と一緒だった。公式にしなかったのは他のパーティーにダンジョンマスターを倒されると報奨金が減るからね」

 裏ルールのようなものである。ダンジョンにマーカーを付けるのは別に決まりではない。

「カーカ達‥‥元のパーティーには話してなかった事だけれど」

 カンナの口振りからするに俺たはそれなりに信用されているようだった。

「ユカラ様以外から助けられたのは初めてだったし‥‥」言い訳のようにカンナは呟いた。

 そういえば俺は何度かカンナを人知れず助けている。気づいていたのか。
 逆に言えばカーカ達は同じパーティーであっても積極的に仲間を助けない。ほとんど状況的に仕方なくか、カーカに言われて渋々である。

「さて行くか」俺はどう交渉しようかと考えながらハルニレの元パーティーの集団へと足を進めた。