10 勇者・カーカは内紛を起こす。

「そういえばユカラが『ここは軍隊蜂がいるから』とか言って煙を撒いていたぞ」大剣使い・カマールは思い出したというように逃げながら皆に話した。

「続きは⁉︎」と勇者・カーカは叫んだ。

「続き? 知らん」と大剣使い・カマールは答えた。

「クソッ。役立たずが!」

 大剣使い・カマールは眉をひそめつつも出口の光を指して言った。「入口の側には沼があった。そこに飛び込め!」

 ダンジョンから出た一行はめいめい沼に飛び込んだ。軍隊蜂は水の中までは追ってこれず巣穴のあるダンジョンへと帰って行った。

「助かったな」という勇者・カーカの声に賛同する者はいなかった。
 ヘドロ混じりの沼で皆それどころではなかったからである。



 ダンジョンを後にした勇者・カーカ達一行はギルドに戻りユカラとカンナの除名を行った。

「死亡ですか」と受付に訊かれた勇者・カーカは「行方不明」とだけ答えた。

「捜索隊の依頼も出来ますが?」
受付は怪訝な顔つきで言った。

「正直なところは喧嘩別れだ。アイツらはアイツらで好きにするらしい」勇者・カーカは蔑むように言い放った。

「そうですか」と受付はその話を打ち切り、ダンジョン内の道筋を訊いてきた。「マーカーは描いてきましたか?」

 未踏のダンジョン経路の発見には報奨金が出る。ギルドの指定したマーカー(魔法陣)を後日確認してから報奨金は支払われる。

「確かユカラがこのパーティー用のマーカーを描いた筈だ」と大剣使い・カマールは言った。

「喧嘩別れした人がマーカーを描いたんですか?」と再び受付は怪訝な顔つきを見せる。

「マーカーを付けてから次の空間へ行くかどうかで意見が分かれたんだよ!」と勇者・カーカはイライラしながら言った。そして大剣使い・カマールの足を蹴った。

「痛いな」と大剣使い・カマールは不満げに言った。

「余計なことは言うな」と小声で勇者・カーカは言った。

 不穏な雰囲気を感じ取ったものの受付はそれ以上は踏み込んでこなかった。
「それで仕留めたモンスターの素材は?」

 勇者・カーカ達は顔を見合わせた。
「素材は確かユカラの荷物に入っていた筈ですが」と治癒士・ジュークは気取って言った。

「何でその時に言わなかったんだよ!」と勇者・カーカは詰め寄った。

「カーカが放っておけ、と」治癒士・ジュークは気圧されながらも事実を言った。

「もしかして無能ですか」と魔術師・モーリは小声であざけった。

「何だと?」勇者・カーカは新参の若者に訊いた。「今、俺のことを馬鹿にしたのか?」

「別に。何も言っていない」と魔術師・モーリは嘘をついた。

「何なんだ! お前ら!」と遂に勇者・カーカはパーティーメンバー全員に向かって叫んだ。「俺がリーダーだ。俺に向かってそんな態度をして無事で済むと思っているのか?」

 勇者・カーカは刀の鞘に手をかけた。