俺の家には親父が一人、母さんは俺が小学生の頃に出て行ったきり帰ってこない
当時はそれなりに寂しかったけどそれよりも馬の合わない父と二人置いていかれた事の方がよっぽど辛かった
(ヤンキーとかちょっと悪い男がモテるって言うけど結局は元から優しいやつが1番良い奴なのにな)
優しい母を痛め付ける光景が今でもくっきり脳裏に焼き付いて離れない
(上手くいかないなぁ〜)
俺の前で男らしくあるよりも可愛く美人という言葉が似合う立ち居振る舞いを続けるうみくんを誘導したとして一貫した面しか見せてくれないのは俺のこの性格が少しでも関係していると思う
(う〜ん、やっぱり俺が大丈夫な所見せないとだめなのかなぁ)
他ではなくうみくんだからなのだが如何せん何をしても平行線を続ける関係を変えるにはそれしかない気がする
「ちょっとビーさ、そこ立ってくんない?」
「突然話したと思えばなんだよ」
「いいからいいから」
男性の持つ暴力的な一面を誰しもが持っているわけじゃないと分かっていても身体が反応する事は仕方がなかった
(ビーはこう見えて良い奴だからなぁ)
今までのらりくらりと躱してきた友人間の接触ですら苦手意識を持っているし人よりパーソナルスペースが広いと分かっているが恐怖に打ち勝つ為にも目の前に立ってその肩に触れる
「おい、なんだよ」
「いや、ちょっと、検証?」
「お前なぁー、人を実験台にすんなよ」
やれやれとでも言いそうな雰囲気を出しながらポケットに突っ込まれた腕が動く気配も無いし諦めたように明後日の方向を向いているのが彼が実は俺の性格を見抜いた上での対応な気がした
「手貸してくんない?」
「男と手繋ぐ趣味とかないんだけど俺」
「まーまー、後でジュース奢ってやるから」
「まじ?」
接触を極力避けてきた俺が突然手なんか繋ぐものだから訝しげな表情とその目は少し心配しているような真意を探るような動きをしている
「ビーってその見た目で実は優しいよな」
「実はっていらねぇだろ、てかつゆりがそんな事言い出すとかほんとに怖くなってきたんだけど」
身震いしながら失礼な事を言われても何も思わないのはこれがこいつなりの心配の仕方で優しさと分かっているからだろうか
「最近妹と弟元気してる?」
「人の話聞かねーなぁ、まー元気過ぎて困るぐらいには元気だな」
「また皆で飯食べよ〜ぜ」
「あー、そうだな、チビ達も喜ぶ」
握った手を意識しないように過去開催されたビーの家でのたこ焼きを思い出して楽しい気持ちになる、バンド仲間と沢山の兄弟、うみくんは妹達に大人気で可愛かったなぁ、なんて考えていると声が掛かった
「俺らいつまで握手してんの?」
「あー、じゃあ次」
「は?まだあんの?」
温度の混ざった手を離した俺に驚いてげんなりした顔を無視するとスルッと近寄ってその背に腕を回す
「ちょ、おまっ」
「うーーーん」
「いや、勝手に抱きついといて唸らないでもらっていいかな?なんか癪に障んだけど」
手を繋ぐのが案外いけたので軽い抱擁ならいけるかと思ったが違うらしく身体がビリビリして一気に口内に唾液が溜まる感覚がした
「やっぱ無理かも〜」
「おっ前ほんとに失礼な奴だなぁ、無理なら離れろよ、てかここ教室だし俺はまだ快適に学校生活を送りたい」
「えぇ〜もうちょっとがんばっ」
人によってこんなにも感じ方が違うのかと研究結果を考察していると襟首が詰まって引っ張られる浮遊感に身体が後方によろめいた
「何してんの」
「俺はなんもしてねぇーよ」
あっ、と思うより先にビーの不服そうな顔と周りから意外と注目を集めている事が見て取れた
「あっそう、つゆちゃんきて」
「うわぁ、お、おい〜、ちょっとまって」
「無理」
腕を引く手に込められた力が少し痛いがもつれる足を無理矢理動かして転びそうになりながらその背について行く
「どこ行くの」
「…」
「なんか喋ってよ、怖いんだけど」
「はぁ」
怒ってるような雰囲気がビシバシ突き刺さって怖気付いた俺は固まった口角を上げてわざと明るい声を出す
「なんで」
「わっ...、?」
「何で、今までそんな事してこなかったじゃん」
人気の無い屋上前の踊り場で強く引き寄せられたと思うと馴染みある匂いに包まれていた
「どうして?最近のつゆちゃん変だよ」
「変って...」
「だって突然今までと違う事しようとしたり、あーやって無理に人に触ったり明らかにおかしいと思うでしょ」
変だ変だと冷たい声色が耳元で悲痛に声を荒らげるのでその顔が気になって身体をビリッと引き剥がす
「素でいて欲しいって思っちゃいけないのかよっ!」
顔が見たかったのに思ったよりも乱暴にぶつけた言葉は売り言葉に買い言葉になっていないだろうか
「我儘だって分かってるけどうみくんにも許して欲しかったんだよ!!」
「もう"俺"はいらないってこと...?」
「ちがっ...そんな事言ってないだろ!?」
ただ素顔で、素の表情で向き合いたかっただけなのに
「だってつゆちゃんは、つゆちゃんは姉さんが、」
「...」
「ごめん、ちょっと頭冷やす」
落ちる沈黙、カッ目の奥が熱くなるのを感じた、薄々気付いていたのだ原因がそれ以外にもある事を
「待ってよ...ごめん、俺ほんとに悪いやつだ」
「つゆちゃんは悪くないよ」
「俺、分かってるよ、俺本当にそういう意味で言ったんじゃなくてただ"君"に会いたいって思ったんだ」
一方的に自分の意見を振りかざし相手を傷つけてなお彼の言葉は優しいままでこれ以上の同情を買わない為にもじわっと滲みた瞳を見られたくなくて俯いた
「今更勝手でずるいよね...でも俺にはうみくんだけだから、うみくんしかいないからどんな形でも全て欲しいと思っちゃったんだよ」
「はぁ...ほんとにずるいね」
「ごめっ」
「責めてるんじゃないよ、ただ、俺って単純だなって思っただけ」
独白や懺悔に近い罰を待つ罪人のような気持ちで心の内を吐露する
「ねぇ、"つゆり"は俺の事好き?」
「うみくんが好き、大好きっ」
間違えなく言える事はそれだけだった、前のめりで今にも消えそうな彼の影を追うようにその白い腕を掴む
「考え事?」
「あーうん、つゆちゃんに怖い思いしてほしくないから」
「俺がんばる」
ここまできて俺の事ばかり心配してくれるのだからその分俺もうみくんに寄り添いたいと思う
「...それってもしかして俺の為だったりする?」
「失敗したけど」
「はぁ〜〜」
「怒ってる?」
こんなにも大切にしたいと思っているのに上手くいかない
「怒ってないといったら嘘になるけど俺の為に頑張ってくれてありがとう、でももう辞めてほしいかな」
「わかった」
「ほんとに分かってるのかなぁ、前にも言ったけど無理に克服なんてしなくていいんだよ」
うみくんが困ったように眉を下げて笑って空いた手で頭を優しくよしよし撫でれば全てが解決したようなどうでも良くなるような力がある、それにいつも流されて甘えたままきっとダメ人間にされてしまうのだ
「でもね〜俺うみくんとは触れると思うよ」
「何でそう思うの?」
それでもきっとこの甘い甘い蜜の中で溺れるように抜け出せない自分がいる
「だってうみくんには触りたいし触って欲しいと思うもん、しかもこれだけ昔から一緒にいるのに触れない方がおかしくない?」
「っ、まぁ一理あるけどね、昔は触れてたわけだし」
「でしょ?だから今度っ」
「はいはい、今度ね」
言葉に反応してピクッと手の動きを止めたうみくんが明後日の方向を向いて目を逸らしたので掴んでいた手を離して整った顔に両手を添え引き寄せる
「っ...!?」
「ふふっ、これは"うみくん"との約束ね」
一瞬にして触れた口と口、フワッと触れたか触れてないか分からないほど柔らかい感触がジワジワ余韻を残して目をパチクリさせている彼を見て笑いが溢れる
彼との約束をした、うみくんになら蜜の中で溺れてもダメ人間にされても幸せだと思ったから
当時はそれなりに寂しかったけどそれよりも馬の合わない父と二人置いていかれた事の方がよっぽど辛かった
(ヤンキーとかちょっと悪い男がモテるって言うけど結局は元から優しいやつが1番良い奴なのにな)
優しい母を痛め付ける光景が今でもくっきり脳裏に焼き付いて離れない
(上手くいかないなぁ〜)
俺の前で男らしくあるよりも可愛く美人という言葉が似合う立ち居振る舞いを続けるうみくんを誘導したとして一貫した面しか見せてくれないのは俺のこの性格が少しでも関係していると思う
(う〜ん、やっぱり俺が大丈夫な所見せないとだめなのかなぁ)
他ではなくうみくんだからなのだが如何せん何をしても平行線を続ける関係を変えるにはそれしかない気がする
「ちょっとビーさ、そこ立ってくんない?」
「突然話したと思えばなんだよ」
「いいからいいから」
男性の持つ暴力的な一面を誰しもが持っているわけじゃないと分かっていても身体が反応する事は仕方がなかった
(ビーはこう見えて良い奴だからなぁ)
今までのらりくらりと躱してきた友人間の接触ですら苦手意識を持っているし人よりパーソナルスペースが広いと分かっているが恐怖に打ち勝つ為にも目の前に立ってその肩に触れる
「おい、なんだよ」
「いや、ちょっと、検証?」
「お前なぁー、人を実験台にすんなよ」
やれやれとでも言いそうな雰囲気を出しながらポケットに突っ込まれた腕が動く気配も無いし諦めたように明後日の方向を向いているのが彼が実は俺の性格を見抜いた上での対応な気がした
「手貸してくんない?」
「男と手繋ぐ趣味とかないんだけど俺」
「まーまー、後でジュース奢ってやるから」
「まじ?」
接触を極力避けてきた俺が突然手なんか繋ぐものだから訝しげな表情とその目は少し心配しているような真意を探るような動きをしている
「ビーってその見た目で実は優しいよな」
「実はっていらねぇだろ、てかつゆりがそんな事言い出すとかほんとに怖くなってきたんだけど」
身震いしながら失礼な事を言われても何も思わないのはこれがこいつなりの心配の仕方で優しさと分かっているからだろうか
「最近妹と弟元気してる?」
「人の話聞かねーなぁ、まー元気過ぎて困るぐらいには元気だな」
「また皆で飯食べよ〜ぜ」
「あー、そうだな、チビ達も喜ぶ」
握った手を意識しないように過去開催されたビーの家でのたこ焼きを思い出して楽しい気持ちになる、バンド仲間と沢山の兄弟、うみくんは妹達に大人気で可愛かったなぁ、なんて考えていると声が掛かった
「俺らいつまで握手してんの?」
「あー、じゃあ次」
「は?まだあんの?」
温度の混ざった手を離した俺に驚いてげんなりした顔を無視するとスルッと近寄ってその背に腕を回す
「ちょ、おまっ」
「うーーーん」
「いや、勝手に抱きついといて唸らないでもらっていいかな?なんか癪に障んだけど」
手を繋ぐのが案外いけたので軽い抱擁ならいけるかと思ったが違うらしく身体がビリビリして一気に口内に唾液が溜まる感覚がした
「やっぱ無理かも〜」
「おっ前ほんとに失礼な奴だなぁ、無理なら離れろよ、てかここ教室だし俺はまだ快適に学校生活を送りたい」
「えぇ〜もうちょっとがんばっ」
人によってこんなにも感じ方が違うのかと研究結果を考察していると襟首が詰まって引っ張られる浮遊感に身体が後方によろめいた
「何してんの」
「俺はなんもしてねぇーよ」
あっ、と思うより先にビーの不服そうな顔と周りから意外と注目を集めている事が見て取れた
「あっそう、つゆちゃんきて」
「うわぁ、お、おい〜、ちょっとまって」
「無理」
腕を引く手に込められた力が少し痛いがもつれる足を無理矢理動かして転びそうになりながらその背について行く
「どこ行くの」
「…」
「なんか喋ってよ、怖いんだけど」
「はぁ」
怒ってるような雰囲気がビシバシ突き刺さって怖気付いた俺は固まった口角を上げてわざと明るい声を出す
「なんで」
「わっ...、?」
「何で、今までそんな事してこなかったじゃん」
人気の無い屋上前の踊り場で強く引き寄せられたと思うと馴染みある匂いに包まれていた
「どうして?最近のつゆちゃん変だよ」
「変って...」
「だって突然今までと違う事しようとしたり、あーやって無理に人に触ったり明らかにおかしいと思うでしょ」
変だ変だと冷たい声色が耳元で悲痛に声を荒らげるのでその顔が気になって身体をビリッと引き剥がす
「素でいて欲しいって思っちゃいけないのかよっ!」
顔が見たかったのに思ったよりも乱暴にぶつけた言葉は売り言葉に買い言葉になっていないだろうか
「我儘だって分かってるけどうみくんにも許して欲しかったんだよ!!」
「もう"俺"はいらないってこと...?」
「ちがっ...そんな事言ってないだろ!?」
ただ素顔で、素の表情で向き合いたかっただけなのに
「だってつゆちゃんは、つゆちゃんは姉さんが、」
「...」
「ごめん、ちょっと頭冷やす」
落ちる沈黙、カッ目の奥が熱くなるのを感じた、薄々気付いていたのだ原因がそれ以外にもある事を
「待ってよ...ごめん、俺ほんとに悪いやつだ」
「つゆちゃんは悪くないよ」
「俺、分かってるよ、俺本当にそういう意味で言ったんじゃなくてただ"君"に会いたいって思ったんだ」
一方的に自分の意見を振りかざし相手を傷つけてなお彼の言葉は優しいままでこれ以上の同情を買わない為にもじわっと滲みた瞳を見られたくなくて俯いた
「今更勝手でずるいよね...でも俺にはうみくんだけだから、うみくんしかいないからどんな形でも全て欲しいと思っちゃったんだよ」
「はぁ...ほんとにずるいね」
「ごめっ」
「責めてるんじゃないよ、ただ、俺って単純だなって思っただけ」
独白や懺悔に近い罰を待つ罪人のような気持ちで心の内を吐露する
「ねぇ、"つゆり"は俺の事好き?」
「うみくんが好き、大好きっ」
間違えなく言える事はそれだけだった、前のめりで今にも消えそうな彼の影を追うようにその白い腕を掴む
「考え事?」
「あーうん、つゆちゃんに怖い思いしてほしくないから」
「俺がんばる」
ここまできて俺の事ばかり心配してくれるのだからその分俺もうみくんに寄り添いたいと思う
「...それってもしかして俺の為だったりする?」
「失敗したけど」
「はぁ〜〜」
「怒ってる?」
こんなにも大切にしたいと思っているのに上手くいかない
「怒ってないといったら嘘になるけど俺の為に頑張ってくれてありがとう、でももう辞めてほしいかな」
「わかった」
「ほんとに分かってるのかなぁ、前にも言ったけど無理に克服なんてしなくていいんだよ」
うみくんが困ったように眉を下げて笑って空いた手で頭を優しくよしよし撫でれば全てが解決したようなどうでも良くなるような力がある、それにいつも流されて甘えたままきっとダメ人間にされてしまうのだ
「でもね〜俺うみくんとは触れると思うよ」
「何でそう思うの?」
それでもきっとこの甘い甘い蜜の中で溺れるように抜け出せない自分がいる
「だってうみくんには触りたいし触って欲しいと思うもん、しかもこれだけ昔から一緒にいるのに触れない方がおかしくない?」
「っ、まぁ一理あるけどね、昔は触れてたわけだし」
「でしょ?だから今度っ」
「はいはい、今度ね」
言葉に反応してピクッと手の動きを止めたうみくんが明後日の方向を向いて目を逸らしたので掴んでいた手を離して整った顔に両手を添え引き寄せる
「っ...!?」
「ふふっ、これは"うみくん"との約束ね」
一瞬にして触れた口と口、フワッと触れたか触れてないか分からないほど柔らかい感触がジワジワ余韻を残して目をパチクリさせている彼を見て笑いが溢れる
彼との約束をした、うみくんになら蜜の中で溺れてもダメ人間にされても幸せだと思ったから
