冷たい風に乗って薄らと香る絵の具の匂いは嫌いじゃない、美術室で昼休みを過ごすのが定番化している理由は外で食べるより快適に過ごせるからで存外悪くない
「卵焼きうまぁ〜」
「もう一個食べる?」
「食べる〜!」
綺麗な薄黄色の焦げ一つない卵焼きは自分で作ればこうはならない、俺の好きな甘じょっぱい最強の塩梅、空色の箸がそれを口元まで運んできた
「んっ、俺うみくんの卵焼き好き」
もぐもぐ咀嚼しながら手を口に当て籠った声を出す
昼休みの束の間の休憩、うみくんが作ってくれたお弁当を2人で食べながら雑談する
「このピックかわい〜」
「つゆちゃんがそういうと思って挿してみたんだ」
「流石うみくんっ」
「そーいえば今度この前みた映画の続きやるらしいよ、教室で女の子達が盛り上がってた」
「え、あのお涙頂戴のラブストーリー?」
「それ」
可愛らしい兎のピックを摘んで眺めていると視界に手が入り込んでミートボールに熊のピックを挿した
それも持ち上げて熊が来た方に視線を向けると退屈そうに頬杖をつく彼と目が合う
「うーん次は無いかな〜人気だから観てみたけど、まぁウケそうな内容はしてよね〜」
「役者が良いから最後まで観れたけどそうじゃなかったら観れなかったかもね」
「ほんとそこ!わかる〜」
お行儀悪くピックの先で指し示すとうみくんは可笑しそうに笑った
「寧ろあそこまで王道展開だと次にくるアクションが分かって面白いよね」
「それね〜予想大会始まって絶対俺の展開になると思ってたのに更にクソベタなうみくんの予想が当たるんだもん、本当あれは腹筋捩れた」
「つゆちゃん次の日お腹痛いとか言ってたもんね」
「だって今どきあんな古みたいな脚本にするか?」
「女優が突然ズッコケたり?」
「ぶはっ、やめっ、まじ思い出すじゃん」
思わず吹き出してしまったけど泣ける恋愛映画をこんな風に斜めからみて腹筋崩壊させてるのはあまり宜しいとは思えないし関係者各位も不本意だろう、でもある意味涙は流れているので許して欲しい
「機嫌直った?」
「へ?」
「えーたから聞いた」
突然何の事を言われたのか分からずに呆けていると補足情報にうみくんと仲の良いバンド仲間の名前が入り納得した、きっと犯人はクラスメイトのビーである
「俺が機嫌悪いって?」
「つゆちゃんはさぁ意外と週刊誌とかゴシップみて怒るタイプだから」
朝の噂話然りそんなのはさっきの恋愛映画より野暮ったくて気に入らない
「うみくんだってくだらないと思うでしょ?」
少しむくれて問いかければ相手は口を抑えて笑っていた、漏れた声に肩が震えている
「なに」
「いーや?何でもないよ」
「うみくん、こっち向いて」
もう口を抑える事もせず盛大に笑っているうみくんはとても珍しいと思う、何だか同じ気持ちになったみたいで嬉しい
「ん?」
机に両肘をついて掌に顎を乗せる、まだ口角が上がったまま尋ねるように少し首を傾げた顔をよーく見つめた
「うん、今日も可愛い!なんて言うんだっけその髪型」
「これ?ハーフツイン?」
「ハーフツインっていうんだ、くるくるしてるのも可愛いし黒いリボンも可愛い〜なぁ」
「まって、いきなりどうしたの?」
正面に手を伸ばして綺麗に巻かれた毛先を一房手に取って親指を滑らせる、突然の可愛い攻撃に戸惑っているけれどいつも器用にアレンジされた髪型には驚かされる事が多い
「お化粧って難しそうだよなぁ、俺絵とか苦手だし絶対無理だと思うわ」
「じゃあ、今度してあげようか?」
「え〜それは何か違うと思う、だってうみくんはキラキラが似合うもん」
「俺はつゆちゃんの方が可愛いと思うけど」
髪の毛から移動した指先が目元をなぞる、光に反射して艶々キラキラ輝くラメをジッと見ていると自分の頬に触れる体温を感じた
「俺の中で可愛いは正義なんだぁ、何でも許されるよ」
はにかんだ笑顔からふふっと声が出る、掌から伝わる熱を頬の感触を確かめるように目を閉じて遠くから聞こえる喧騒だけを頼りにゆっくりと動いていた時間がガラガラッと戸を開ける大きな物音で終わりを告げた
「はぁ...」
パッチリ開けた目に最初に写ったのは色素の薄い吸い込まれそうな瞳、鼻の先にある美形は大迫力間違い無しで驚きに身体が揺れた
「何してんの」
「いや、俺って可愛いから許されるかなぁって」
「かなぁって、俺も一瞬まぁ確かに〜?ってなったわアホ」
「はぁ...」
「ため息つきすぎでしょ、幸せ逃げるぞ〜」
「幸せはたった今逃げたばっかりだけどね、でもつゆちゃんが俺の幸せを考えてくれるだけで幸せです」
馬鹿な応酬は先程登場した美術のおじぃちゃん先生の介入により終止符が打たれる
「じーちゃんいつも饅頭くれるよな〜」
「しかもかりんとう饅頭ね」
「もしかして饅頭が昼ご飯だったりしないよね?」
骨と皮だけの腰の曲がった可愛いおじぃちゃんがちゃんとした食事を取ってるのか心配になって失礼な事を言うがうみくんから奥さんがいるとフォローが入った、何でも毎日愛妻弁当なんだとか
(今度なんか差し入れしてあげようかな)
愛妻弁当は邪魔出来ないがいつも貰ってばかりじゃ悪いのでカロリーの高そうなおやつでも食ってもらおうかと考えていると本日二度目の来訪を知らせる音が響く
「あの〜」
普段昼休みにわざわざこの教室に来る者は少ないし何より近寄り難い高嶺の花のうみさんがいるのだから珍しい事もある
「うみくんいますか」
おっと、ここにきてさらに珍しい訪問者だったようだ
「いるけど、何か用ですか」
「あ、あの私...」
瞬時に仏頂面を貼り付けると俺ですら威圧感を感じるので女の子は大丈夫だろうかと心配になる
「ちょっとお話があるんですっ」
「時間が無いのでなるべく簡潔にお願いします」
「こ、ここだと少し...」
「そうですか、では忙しいのでまたの機会があれば」
中々心の強い子のようで安心したのも束の間、余りにも素っ気ない態度にヒヤヒヤする、そして今日最大限の勇気を振り絞って声を掛けてきたであろう女の子にまたの機会など訪れるのだろうか
「ちょ、流石に」
「.....〜...〜〜。...」
ドアの前で女生徒と対面しているうみくんに一言掛ける前に振り返ったうみくんの顔が少し強ばるのを感じた
(なんだ?)
こちらに向いていた身体を再び少女に方に回転させると何やら小声で会話しているらしい、その様子を眺めるが小柄な少女はうみくんの背に殆ど隠れてしまっている
「ごめんつゆちゃん、ちょっと話してくる」
「お、お〜全然良いよ、いってらっしゃ〜い」
どんな気持ちの変化があったのか話を聞く気になったらしい彼に手を振ると伴って教室を出ていった
(う〜ん、話を切り上げようとしたら何か言われたみたいだったけど...)
広くなった机に寝そべりながら飲みかけのパックジュースのストローをガジガジと噛む
お行儀が悪いと言われても見ている人もいなければ先程の光景がどこか引っかかりモヤモヤする
(気のせいって事にしとこ、何かあれば後で教えてくれるだろうし)
呑気にスマホを取り出し画面をスクロールして気を散らす、そんなこんなでネットサーフィンにも飽きてきた頃校内に予鈴が鳴った事でうみくんが戻ってこなかった事に気付いた
「卵焼きうまぁ〜」
「もう一個食べる?」
「食べる〜!」
綺麗な薄黄色の焦げ一つない卵焼きは自分で作ればこうはならない、俺の好きな甘じょっぱい最強の塩梅、空色の箸がそれを口元まで運んできた
「んっ、俺うみくんの卵焼き好き」
もぐもぐ咀嚼しながら手を口に当て籠った声を出す
昼休みの束の間の休憩、うみくんが作ってくれたお弁当を2人で食べながら雑談する
「このピックかわい〜」
「つゆちゃんがそういうと思って挿してみたんだ」
「流石うみくんっ」
「そーいえば今度この前みた映画の続きやるらしいよ、教室で女の子達が盛り上がってた」
「え、あのお涙頂戴のラブストーリー?」
「それ」
可愛らしい兎のピックを摘んで眺めていると視界に手が入り込んでミートボールに熊のピックを挿した
それも持ち上げて熊が来た方に視線を向けると退屈そうに頬杖をつく彼と目が合う
「うーん次は無いかな〜人気だから観てみたけど、まぁウケそうな内容はしてよね〜」
「役者が良いから最後まで観れたけどそうじゃなかったら観れなかったかもね」
「ほんとそこ!わかる〜」
お行儀悪くピックの先で指し示すとうみくんは可笑しそうに笑った
「寧ろあそこまで王道展開だと次にくるアクションが分かって面白いよね」
「それね〜予想大会始まって絶対俺の展開になると思ってたのに更にクソベタなうみくんの予想が当たるんだもん、本当あれは腹筋捩れた」
「つゆちゃん次の日お腹痛いとか言ってたもんね」
「だって今どきあんな古みたいな脚本にするか?」
「女優が突然ズッコケたり?」
「ぶはっ、やめっ、まじ思い出すじゃん」
思わず吹き出してしまったけど泣ける恋愛映画をこんな風に斜めからみて腹筋崩壊させてるのはあまり宜しいとは思えないし関係者各位も不本意だろう、でもある意味涙は流れているので許して欲しい
「機嫌直った?」
「へ?」
「えーたから聞いた」
突然何の事を言われたのか分からずに呆けていると補足情報にうみくんと仲の良いバンド仲間の名前が入り納得した、きっと犯人はクラスメイトのビーである
「俺が機嫌悪いって?」
「つゆちゃんはさぁ意外と週刊誌とかゴシップみて怒るタイプだから」
朝の噂話然りそんなのはさっきの恋愛映画より野暮ったくて気に入らない
「うみくんだってくだらないと思うでしょ?」
少しむくれて問いかければ相手は口を抑えて笑っていた、漏れた声に肩が震えている
「なに」
「いーや?何でもないよ」
「うみくん、こっち向いて」
もう口を抑える事もせず盛大に笑っているうみくんはとても珍しいと思う、何だか同じ気持ちになったみたいで嬉しい
「ん?」
机に両肘をついて掌に顎を乗せる、まだ口角が上がったまま尋ねるように少し首を傾げた顔をよーく見つめた
「うん、今日も可愛い!なんて言うんだっけその髪型」
「これ?ハーフツイン?」
「ハーフツインっていうんだ、くるくるしてるのも可愛いし黒いリボンも可愛い〜なぁ」
「まって、いきなりどうしたの?」
正面に手を伸ばして綺麗に巻かれた毛先を一房手に取って親指を滑らせる、突然の可愛い攻撃に戸惑っているけれどいつも器用にアレンジされた髪型には驚かされる事が多い
「お化粧って難しそうだよなぁ、俺絵とか苦手だし絶対無理だと思うわ」
「じゃあ、今度してあげようか?」
「え〜それは何か違うと思う、だってうみくんはキラキラが似合うもん」
「俺はつゆちゃんの方が可愛いと思うけど」
髪の毛から移動した指先が目元をなぞる、光に反射して艶々キラキラ輝くラメをジッと見ていると自分の頬に触れる体温を感じた
「俺の中で可愛いは正義なんだぁ、何でも許されるよ」
はにかんだ笑顔からふふっと声が出る、掌から伝わる熱を頬の感触を確かめるように目を閉じて遠くから聞こえる喧騒だけを頼りにゆっくりと動いていた時間がガラガラッと戸を開ける大きな物音で終わりを告げた
「はぁ...」
パッチリ開けた目に最初に写ったのは色素の薄い吸い込まれそうな瞳、鼻の先にある美形は大迫力間違い無しで驚きに身体が揺れた
「何してんの」
「いや、俺って可愛いから許されるかなぁって」
「かなぁって、俺も一瞬まぁ確かに〜?ってなったわアホ」
「はぁ...」
「ため息つきすぎでしょ、幸せ逃げるぞ〜」
「幸せはたった今逃げたばっかりだけどね、でもつゆちゃんが俺の幸せを考えてくれるだけで幸せです」
馬鹿な応酬は先程登場した美術のおじぃちゃん先生の介入により終止符が打たれる
「じーちゃんいつも饅頭くれるよな〜」
「しかもかりんとう饅頭ね」
「もしかして饅頭が昼ご飯だったりしないよね?」
骨と皮だけの腰の曲がった可愛いおじぃちゃんがちゃんとした食事を取ってるのか心配になって失礼な事を言うがうみくんから奥さんがいるとフォローが入った、何でも毎日愛妻弁当なんだとか
(今度なんか差し入れしてあげようかな)
愛妻弁当は邪魔出来ないがいつも貰ってばかりじゃ悪いのでカロリーの高そうなおやつでも食ってもらおうかと考えていると本日二度目の来訪を知らせる音が響く
「あの〜」
普段昼休みにわざわざこの教室に来る者は少ないし何より近寄り難い高嶺の花のうみさんがいるのだから珍しい事もある
「うみくんいますか」
おっと、ここにきてさらに珍しい訪問者だったようだ
「いるけど、何か用ですか」
「あ、あの私...」
瞬時に仏頂面を貼り付けると俺ですら威圧感を感じるので女の子は大丈夫だろうかと心配になる
「ちょっとお話があるんですっ」
「時間が無いのでなるべく簡潔にお願いします」
「こ、ここだと少し...」
「そうですか、では忙しいのでまたの機会があれば」
中々心の強い子のようで安心したのも束の間、余りにも素っ気ない態度にヒヤヒヤする、そして今日最大限の勇気を振り絞って声を掛けてきたであろう女の子にまたの機会など訪れるのだろうか
「ちょ、流石に」
「.....〜...〜〜。...」
ドアの前で女生徒と対面しているうみくんに一言掛ける前に振り返ったうみくんの顔が少し強ばるのを感じた
(なんだ?)
こちらに向いていた身体を再び少女に方に回転させると何やら小声で会話しているらしい、その様子を眺めるが小柄な少女はうみくんの背に殆ど隠れてしまっている
「ごめんつゆちゃん、ちょっと話してくる」
「お、お〜全然良いよ、いってらっしゃ〜い」
どんな気持ちの変化があったのか話を聞く気になったらしい彼に手を振ると伴って教室を出ていった
(う〜ん、話を切り上げようとしたら何か言われたみたいだったけど...)
広くなった机に寝そべりながら飲みかけのパックジュースのストローをガジガジと噛む
お行儀が悪いと言われても見ている人もいなければ先程の光景がどこか引っかかりモヤモヤする
(気のせいって事にしとこ、何かあれば後で教えてくれるだろうし)
呑気にスマホを取り出し画面をスクロールして気を散らす、そんなこんなでネットサーフィンにも飽きてきた頃校内に予鈴が鳴った事でうみくんが戻ってこなかった事に気付いた
