「つゆちゃんおきてつゆちゃん」
夢と現実の狭間を行き来する思考より先に耳が起きて落ち着いた声が聞こえてくる、それを頼りに瞼を持ち上げると眩い光が頭に突き抜けて強く目を瞑った
「おはよ、起きた?」
「んー」
「また寝ちゃだめだよ?遅刻するからね?」
「わかってる〜」
自身の体温を吸って布団と一体化していた身体が人の手により外界に引きずり出される
「...これは猫?」
両脇を抱えて持ち上げた身体があまりにも溶けきっていたものだからうみくんから驚きの声が上がる
「ほら、顔洗って歯磨くんだよ」
「は〜い」
無理矢理洗面台に立たされ冷水で顔を洗えば流石の俺の脳も冴え渡り歯を磨く頃には同時進行で制服に手を掛けていた、低血圧は朝に弱いのである
「うみくん、おはよ〜」
「つゆちゃん何飲む?」
「りんご〜」
リビングに行くと軽い朝食が用意されていて俺が何を飲むのか初めから分かっていたように軽い返事をして食卓に戻ってきた
「ありがと、いただきま〜す」
「どうぞ〜」
学生の朝というのは時間との戦いだ、なるべく長く布団と共にいたい、出来ることならば一生そこから出たくないそんな切実な願いが叶う日は来るのだろうか、なんて悠長に考えてる暇もなく玄関を飛び出す羽目になる
「「行ってきまーす」」
登校中のうみくんはいつもバタバタと慌ただしい俺に忘れ物は無いか尋ねるがそもそもほとんどの物を学校に置いたままなので持っていく物は限られていた
はたして俺のスクールバックが本来の用途として使用される日はくるのだろうか
「うみくんってほんと朝強いよね」
「普通だと思うけどね」
「い〜や、そんな事ないね」
「ふふっ、つゆちゃんが弱いだけじゃない?」
きっとあちこちに跳ねている手先を手櫛で整えてくれている顔は今日も完璧の出来でその微笑みがどれだけ周りを惹き付けているのか突き刺さる視線は増える一方だ
(いつもの事なんだけどさ〜)
朝の挨拶が飛び交う校舎は和気あいあいと活気に溢れて始業のチャイムが流れるまでは思い思いに交流している、しかしここでも廊下を歩くだけでうみくんの周りはモーセの如く人を割る、とまではいかなくとも蜘蛛の子を散らすように一瞬の静寂と後のざわめきを与えていた
「おはぁ」
「おはよ〜」
うみくんとは別々のクラスなので昼に再会する約束をして別れると騒々しい目的地に到着した、真ん中より少し後ろの廊下寄り、中途半端な俺の席に腰掛けて声を掛けてくれた生徒と会話していると一人二人とわらわらと集まってきて今日も皆元気で何よりだ
「おっすおっす〜」
「よっ、ビー」
重みを感じた肩を見上げるとこんがり焼けた肌にチリチリの髪が特徴の友達が片手を挙げていたのでこちらも手を挙げて応える
「お前遅刻ギリギリじゃねーかぁ」
「うっせ」
周りに集った生徒もビーに絡み始めて戯れあいが起きる、皆笑顔でとても楽しそう
「てかさ、きょーも来る時うみの事話してる後輩とすれ違ったぜ」
「だろうな〜」
「うみ様今日もビジュ最強可愛すぎる〜顔面強すぎぃまじ美って感じ〜あの顔で微笑まれたら女装してても落ちるぅとか言われてた」
「何それ女の子の真似?」
「そうだけど?」
「誇張しすぎだろ、悪意感じる」
わざとらしく身体をクネクネさせて顔前で手を組んだビーに冷めた目を向ける、それだと独特な動きが気になって話が入ってこない
「はぁ、何であんな幸薄そうな顔がウケる世の中なんだぁぁあ」
「ビーのしょうゆ顔も中々味があるのにね」
「誰が醤油だこら」
頭を抱えたかと思えば軽く額を小突かれて咄嗟に衝撃を受けた部分を抑え非難するように見つめればシニカルに笑って見せた
「そんな事言いながらビーだってそこそこモテてんじゃん」
「そーじゃないんだよなぁ」
「じゃあ何なんだよ」
「んー、カリスマ的な?バンドマンたるものオーラとか?なんか色々あるだろ」
チッチッチッと人差し指を立てて左右に振ったと思えば顎に手を当て考え出す、本当に表情がコロコロ変わる奴だ
「自分でも分かってねぇんじゃん」
張本人が分からないのなら他人の俺に分かるわけがない
「とにかく同じバンドにいると霞むんだよ、オレがっ!」
「あぁー、そうか?」
語気の強まりについて行けずタジタジになっているのも関係なく話は続く
「それにさ!ずるいだろ!あんなイケメンなのに何で女装なんかしてんだよっ」
「俺はビーにもそのカリスマ性?あると思うけど」
女装については何も言えないしそういうのは個人の自由なのではないだろうかと思いつつマジレスは興醒めの元なので思っていた事を口に出しただけなのだが
「つゆり、お前ってほんと良い奴だよなぁ〜!ヒモ男なんて思ってごめんな」
最後の聞き捨てならない言葉は一旦置いておいて突然頬ずりする勢いで縋り付いてこようとしたのを寸前で回避する、ついでに言っておくと泣き真似するのも全く可愛くないのでやめて欲しいがいつも人の中心で盛り上げ役のビーにも人を惹きつける魅力は十分にあると思う
「あーわかるつゆりってうみの横にいるとヒモ臭すごいよな」
「美女の飼い犬的な?なんか金持ってるお姉様とかに貢がれてそうなんだよなぁ」
「犬ってーより猫っぽいけどな」
話を聞いていたのか周りから野次のように合いの手が入り、それは要するに周りから見た俺はクズ男に見えているという事で本人を目の前にして好き放題言ってくれる
「実際そーゆー噂もあるし」
是非ともどんな噂か詳しく聞かせて欲しいと思っているうちに次の会話に移って皆口々に話し出すものだから会話が止まる事を知らない
「そもそも、うみがあんな見た目してるくせにえっろい声出すのがいけねぇんだろ」
「エっ...語弊が生まれそうな言い方すんなよ」
音楽においてエロいは案外使われる言葉な気がするが幼い頃から共に過ごしてきた人物の声をそう表現されると忍びないので訂正を求めておいた
「美女から出るガッツリ男なハスキーボイスが歌うとお色気むんむんって、そりゃ脳味噌破壊されるわ」
「あれが俗に言うギャップ萌えってやつ?」
改変されても中々不埒な羅列だが許そう、これはそうただ褒めてるだけなのだ
「女ってオカマ好きだしな、あれってなんなん?」
「あ〜なんか地引網漁みたいだな」
「属性てんこ盛りかよ、ずりぃ〜 そして誰がうまいこと言えと?」
これ以上は聞き捨てならなくなりそうな流れに頬杖をついて前方を見上げながらうちのクラスは仲が良いなぁ、なんて意識を逸らしている内に担任が一日の始まりを告げた
夢と現実の狭間を行き来する思考より先に耳が起きて落ち着いた声が聞こえてくる、それを頼りに瞼を持ち上げると眩い光が頭に突き抜けて強く目を瞑った
「おはよ、起きた?」
「んー」
「また寝ちゃだめだよ?遅刻するからね?」
「わかってる〜」
自身の体温を吸って布団と一体化していた身体が人の手により外界に引きずり出される
「...これは猫?」
両脇を抱えて持ち上げた身体があまりにも溶けきっていたものだからうみくんから驚きの声が上がる
「ほら、顔洗って歯磨くんだよ」
「は〜い」
無理矢理洗面台に立たされ冷水で顔を洗えば流石の俺の脳も冴え渡り歯を磨く頃には同時進行で制服に手を掛けていた、低血圧は朝に弱いのである
「うみくん、おはよ〜」
「つゆちゃん何飲む?」
「りんご〜」
リビングに行くと軽い朝食が用意されていて俺が何を飲むのか初めから分かっていたように軽い返事をして食卓に戻ってきた
「ありがと、いただきま〜す」
「どうぞ〜」
学生の朝というのは時間との戦いだ、なるべく長く布団と共にいたい、出来ることならば一生そこから出たくないそんな切実な願いが叶う日は来るのだろうか、なんて悠長に考えてる暇もなく玄関を飛び出す羽目になる
「「行ってきまーす」」
登校中のうみくんはいつもバタバタと慌ただしい俺に忘れ物は無いか尋ねるがそもそもほとんどの物を学校に置いたままなので持っていく物は限られていた
はたして俺のスクールバックが本来の用途として使用される日はくるのだろうか
「うみくんってほんと朝強いよね」
「普通だと思うけどね」
「い〜や、そんな事ないね」
「ふふっ、つゆちゃんが弱いだけじゃない?」
きっとあちこちに跳ねている手先を手櫛で整えてくれている顔は今日も完璧の出来でその微笑みがどれだけ周りを惹き付けているのか突き刺さる視線は増える一方だ
(いつもの事なんだけどさ〜)
朝の挨拶が飛び交う校舎は和気あいあいと活気に溢れて始業のチャイムが流れるまでは思い思いに交流している、しかしここでも廊下を歩くだけでうみくんの周りはモーセの如く人を割る、とまではいかなくとも蜘蛛の子を散らすように一瞬の静寂と後のざわめきを与えていた
「おはぁ」
「おはよ〜」
うみくんとは別々のクラスなので昼に再会する約束をして別れると騒々しい目的地に到着した、真ん中より少し後ろの廊下寄り、中途半端な俺の席に腰掛けて声を掛けてくれた生徒と会話していると一人二人とわらわらと集まってきて今日も皆元気で何よりだ
「おっすおっす〜」
「よっ、ビー」
重みを感じた肩を見上げるとこんがり焼けた肌にチリチリの髪が特徴の友達が片手を挙げていたのでこちらも手を挙げて応える
「お前遅刻ギリギリじゃねーかぁ」
「うっせ」
周りに集った生徒もビーに絡み始めて戯れあいが起きる、皆笑顔でとても楽しそう
「てかさ、きょーも来る時うみの事話してる後輩とすれ違ったぜ」
「だろうな〜」
「うみ様今日もビジュ最強可愛すぎる〜顔面強すぎぃまじ美って感じ〜あの顔で微笑まれたら女装してても落ちるぅとか言われてた」
「何それ女の子の真似?」
「そうだけど?」
「誇張しすぎだろ、悪意感じる」
わざとらしく身体をクネクネさせて顔前で手を組んだビーに冷めた目を向ける、それだと独特な動きが気になって話が入ってこない
「はぁ、何であんな幸薄そうな顔がウケる世の中なんだぁぁあ」
「ビーのしょうゆ顔も中々味があるのにね」
「誰が醤油だこら」
頭を抱えたかと思えば軽く額を小突かれて咄嗟に衝撃を受けた部分を抑え非難するように見つめればシニカルに笑って見せた
「そんな事言いながらビーだってそこそこモテてんじゃん」
「そーじゃないんだよなぁ」
「じゃあ何なんだよ」
「んー、カリスマ的な?バンドマンたるものオーラとか?なんか色々あるだろ」
チッチッチッと人差し指を立てて左右に振ったと思えば顎に手を当て考え出す、本当に表情がコロコロ変わる奴だ
「自分でも分かってねぇんじゃん」
張本人が分からないのなら他人の俺に分かるわけがない
「とにかく同じバンドにいると霞むんだよ、オレがっ!」
「あぁー、そうか?」
語気の強まりについて行けずタジタジになっているのも関係なく話は続く
「それにさ!ずるいだろ!あんなイケメンなのに何で女装なんかしてんだよっ」
「俺はビーにもそのカリスマ性?あると思うけど」
女装については何も言えないしそういうのは個人の自由なのではないだろうかと思いつつマジレスは興醒めの元なので思っていた事を口に出しただけなのだが
「つゆり、お前ってほんと良い奴だよなぁ〜!ヒモ男なんて思ってごめんな」
最後の聞き捨てならない言葉は一旦置いておいて突然頬ずりする勢いで縋り付いてこようとしたのを寸前で回避する、ついでに言っておくと泣き真似するのも全く可愛くないのでやめて欲しいがいつも人の中心で盛り上げ役のビーにも人を惹きつける魅力は十分にあると思う
「あーわかるつゆりってうみの横にいるとヒモ臭すごいよな」
「美女の飼い犬的な?なんか金持ってるお姉様とかに貢がれてそうなんだよなぁ」
「犬ってーより猫っぽいけどな」
話を聞いていたのか周りから野次のように合いの手が入り、それは要するに周りから見た俺はクズ男に見えているという事で本人を目の前にして好き放題言ってくれる
「実際そーゆー噂もあるし」
是非ともどんな噂か詳しく聞かせて欲しいと思っているうちに次の会話に移って皆口々に話し出すものだから会話が止まる事を知らない
「そもそも、うみがあんな見た目してるくせにえっろい声出すのがいけねぇんだろ」
「エっ...語弊が生まれそうな言い方すんなよ」
音楽においてエロいは案外使われる言葉な気がするが幼い頃から共に過ごしてきた人物の声をそう表現されると忍びないので訂正を求めておいた
「美女から出るガッツリ男なハスキーボイスが歌うとお色気むんむんって、そりゃ脳味噌破壊されるわ」
「あれが俗に言うギャップ萌えってやつ?」
改変されても中々不埒な羅列だが許そう、これはそうただ褒めてるだけなのだ
「女ってオカマ好きだしな、あれってなんなん?」
「あ〜なんか地引網漁みたいだな」
「属性てんこ盛りかよ、ずりぃ〜 そして誰がうまいこと言えと?」
これ以上は聞き捨てならなくなりそうな流れに頬杖をついて前方を見上げながらうちのクラスは仲が良いなぁ、なんて意識を逸らしている内に担任が一日の始まりを告げた
