「とーちゃーくっ」
「ここ凄いね」
肘を置くには丁度いい高さの柵に体重を預けて目の前に広がる景色を眺める、少し高台に地位する場所から街の灯りがポツポツと光って夕日が辺りを橙色に染める、遮るものがひとつも無い見晴らしの良さに通り抜ける風が心地よく汗ばんだ身体を撫でた
「うん、きれ〜」
「来て良かったね」
ただでさえ上機嫌だった気持ちがその言葉で更にいい日になる事を彼は分かっているだろうか
「うん!あ、ブランコ、ブランコ乗ろ〜?」
「いいよ」
なんていい位置に設置されているのかこの公園を設計した人に賞賛を送りたいと思うほど目に入ってすぐ駆け出しだ俺の後をついて歩くうみくん
「こーいうのを振り回してるっていうの?」
「いきなりだね、あと本当に人を振り回してる人は本人に聞かないんじゃないかな」
「そうなんだ」
「つゆちゃんにだったらいくらでも振り回されたいけどね」
あっちこっちに興味が移る俺に付き合わされて辟易していないか心配したのだが杞憂だったみたいで良かった
「ブランコって難しいね」
勢いをつけて何度か漕いでみたがブランコの造りとはやっぱり幼児向けなのだろうか昔は上手に漕いでいたイメージなのだが脚の長さかバランス感覚なのかだんだん気分が悪くなって自分の三半規管を疑う
「押してあげようか?」
「ふふっ、大丈夫シャボン玉しよ」
そういえば昔もこんな事あったな、なんて思い出してもう一度押してもらうのも悪くないのだが少し気恥しく感じたのでこれ以上具合が悪くなっても困ると遠慮しておく
「おぉ〜凄〜!」
「シャボン玉なんていつぶりにやるんだろ」
「小学生の時やったよね〜」
緑の吹き棒を口に銜えて息を吐く、ふよふよと沢山漂う虹色の気泡が風に揺蕩うのを眺めて地面に着地したりあるいは空中で破裂したり一瞬の儚さだ
「今は割れないシャボン玉とかもあるらしいよ」
「え〜、それってシャボン玉って言えるのかなぁ」
「みてみて、つゆちゃん」
ピンクの小さな容器に入ったシャボン玉液を漬けるべくカタカタと鳴らしていると呼び声に反応してそちらを見る
「うみくんシャボン玉まで得意なの?」
「シャボン玉に得意とかあるの?」
大きな気泡に呆気にとられているうちに小さい子と合体して重さに耐えきれずゆっくりと地上に落ちていく、製作者は特に気にした様子もなく落ちていく夕陽の名残に青なのかオレンジなのか曖昧なカラーがシャボン玉に反射してキラキラと取り巻く様は王子様とでも言おうか
「おーじさま」
「王子?」
「俺喉が乾きました」
きょとんとしていた顔が爽やかスマイルに変わると何か思い付いたのか目の前までやって来てブランコに座る俺の前に膝まづく
「では姫飲み物をお持ちしましょうか?」
「うみくんが王子なのに」
「俺が王子ならつゆちゃんは姫だからね」
王子を膝まづかせる姫とは一体何者なんだろうか、それは騎士や執事なのではなんて思いながらも即興劇に二人して笑い出す
「では一緒に行きましょ?」
「姫と共に行けるなど恐悦至極です」
スっと差し出された手を取って立ち上がる、俺達は王子と姫の筈なのに向かう先は薄暗くなる周辺を照らす自動販売機の光
「うわ〜何にしよ」
緑と赤のパッケージの上を彷徨う視線、チャリンチャリンッと硬貨を投入する音が聞こえたと思うと迷いなくピッとボタンが押された
「コーラ?」
ガコンッと落下した音が聞こえても彼がそれを拾う様子はなく追加でピッと音が鳴る
「はい」
「うみくんはほんとに何でも分かってるな〜」
「何年一緒にいると思ってるの」
赤い缶を渡されて自分の手には緑の缶が握られている
「一口頂戴」
「俺にもコーラ飲ませて」
その場に座り込んでプルタブに手を掛けるとプシュッという音と共に顔に水滴が飛んで手に泡になった液体が溢れ出した
「っ!?」
何が起きたのか状況を把握できない頭でボタボタ滴り落ちる黒い水が地面に染みを作るのを点になった目で見つめる
「あははっ」
耐えきれなくなったように吹き出した笑いを堪えるように顔を俯けたうみくんは肩まで揺れていて止まった脳が回転しだす
「うっわ、最悪」
「だいじょーぶ?」
「大丈夫にみえますか?」
ツボに入っているのか余韻を残した震え声にムッとした気持ちがあるにも関わらず釣られて笑ってしまう
「これもやばいかな」
「開けてみてよ」
是非とも同じ目にあって欲しいと笑われた事を根に持つようにニヤニヤ勧めたのに小賢しく念の為にも自分が濡れないように腕を伸ばして開封する
「溢れなかったね」
「つまんないの〜」
ジトッとした目を向けると楽しそうにまた肩を揺らすのでベタベタした手を気にせず半分減った缶を傾けた
「あ"ぁ、ここが王宮じゃなくて良かった〜」
シュワシュワ乾いた口に染み渡る炭酸飲料が喉を刺激して胃に落ちる
「王宮で缶コーラなんて飲めないだろうからね」
その通りなのだが何を思い出してるのか未だにクスクス笑い続けているので相当さっきの事がツボに入っているみたいだ
「瓶の次に一番美味い」
「それは同感」
中身は変わらないはずなのに瓶と缶とペットボトルで何故感じ方が違うのか摩訶不思議に思いながら少なくなった残量がゼロになる前にうみくんに手渡す
「ベタベタしてる...」
「ふふっ、スプライトうめ〜」
交換した缶を嫌そうに持った顔にしてやったりと初めとほぼ変わらない重さの缶を煽ってまた違った爽やかな甘みを堪能する
「そろそろ帰ろっか」
飲み干した缶を傍のゴミ箱に入れる頃には辺りは暗くなっていてその事に気付かない程自動販売機の灯りは強かった、トイレでベタベタになった手を洗い流して再び手を繋いで駅を目指す
「楽しかったね」
「うん、また来たいな〜」
こんなにも一緒にいるのに寂しさを感じるのは幸せすぎるからなんだろうか
「また来よっか、そーだなぁ、今度はちょっと遠くに旅行とかするのもありだね」
「それいい!冬休みかな?」
「何処行こうか帰ったら調べますかー」
何かが終われば次の楽しみが待っているそうして繰り返していくのだと思うと心に空いた穴が埋まっていく感じがした
「丁度良かったね」
「ほんとだね、この形の席好き〜」
ホームに着くと同時に滑り込んできた車両に運良く乗り込んで向かい合う形の座席に並んで座る
「あんまりひともいないね...」
「つゆちゃん眠いの?」
「う〜ん」
一度腰を落ち着けてしまえばドッと疲れが押し寄せてきて欠伸を噛み殺した
「最近色々あったから疲れてるよね」
「そんな事ないよ、りょこー楽しみだ〜」
「楽しみだね」
「温泉とかいいな〜」
まだまだ話していたいのにうみくんが優しくうんうんと相槌を打ってくれるのが尚更眠気を誘われてウトウトし出す
「つゆちゃん寄りかかっていいよ」
「ん、ありがとう」
頭を優しく肩に誘導されて大人しく凭れ掛かる、落ち着く匂いと聞こえてくる鼓動は自分のものかうみくんのものか曖昧で遠くで電車が走る音が鳴っている
「つゆりありがと」
微睡みの中でフワッと髪の毛に何かが触れて零れるように落ちてきた声を拾う
「なにが〜?」
「なんでもないよ」
こんなやり取りを今日したばかりな気がしてクスッと笑ってしまう、きっと同じ理由な気がしたから、長く一緒にいると似てくると言うけれどそれはどちらに似ていくものなのか考えても分からない、それぐらい幼い時から共に居た相手
「そっか〜」
髪を梳くように撫でる指先、うみくんと混ざってしまうなら本望だと思った、そしてうみくんにも俺が混ざっていたら嬉しいなんて思ってしまう
(もっともっと似てきたら双子みたいになっちゃうのかな...それは何か嫌だな)
俺は俺でうみくんはうみくんという一人の人間だから共に居たいと思える、そして俺達の中にいるあおちゃんと一緒にこれからも生きていく
(俺はほんとにうみくんが好きだなぁ)
しみじみ湧いた愛おしい感情に包まれてどんどん沈んでいく意識を手放そうとした時
「俺も好きだよ」
優しく手を包んだ温かい感触と宝みたいに大切にしたい言葉は本当ならもっとちゃんと聞きたかったな何て幸せな気持ちで眠りについた
「あの〜...ここ座って」
「ちょ、」
可愛らしい女の子二人組が空いた目の前の席に座ろうと声を掛けるのを辞めていそいそと去っていく、まるで見てはいけないものを見てしまったように小声で話しながら
「ズッ...はぁ」
詰まった鼻が苦しくて溜息のようについた息に幸せが吐き出される、眠る愛しい存在に気付かれないよう流れる沢山の涙は悲しいものではなく満ちた心が溢れた証拠だった
「ここ凄いね」
肘を置くには丁度いい高さの柵に体重を預けて目の前に広がる景色を眺める、少し高台に地位する場所から街の灯りがポツポツと光って夕日が辺りを橙色に染める、遮るものがひとつも無い見晴らしの良さに通り抜ける風が心地よく汗ばんだ身体を撫でた
「うん、きれ〜」
「来て良かったね」
ただでさえ上機嫌だった気持ちがその言葉で更にいい日になる事を彼は分かっているだろうか
「うん!あ、ブランコ、ブランコ乗ろ〜?」
「いいよ」
なんていい位置に設置されているのかこの公園を設計した人に賞賛を送りたいと思うほど目に入ってすぐ駆け出しだ俺の後をついて歩くうみくん
「こーいうのを振り回してるっていうの?」
「いきなりだね、あと本当に人を振り回してる人は本人に聞かないんじゃないかな」
「そうなんだ」
「つゆちゃんにだったらいくらでも振り回されたいけどね」
あっちこっちに興味が移る俺に付き合わされて辟易していないか心配したのだが杞憂だったみたいで良かった
「ブランコって難しいね」
勢いをつけて何度か漕いでみたがブランコの造りとはやっぱり幼児向けなのだろうか昔は上手に漕いでいたイメージなのだが脚の長さかバランス感覚なのかだんだん気分が悪くなって自分の三半規管を疑う
「押してあげようか?」
「ふふっ、大丈夫シャボン玉しよ」
そういえば昔もこんな事あったな、なんて思い出してもう一度押してもらうのも悪くないのだが少し気恥しく感じたのでこれ以上具合が悪くなっても困ると遠慮しておく
「おぉ〜凄〜!」
「シャボン玉なんていつぶりにやるんだろ」
「小学生の時やったよね〜」
緑の吹き棒を口に銜えて息を吐く、ふよふよと沢山漂う虹色の気泡が風に揺蕩うのを眺めて地面に着地したりあるいは空中で破裂したり一瞬の儚さだ
「今は割れないシャボン玉とかもあるらしいよ」
「え〜、それってシャボン玉って言えるのかなぁ」
「みてみて、つゆちゃん」
ピンクの小さな容器に入ったシャボン玉液を漬けるべくカタカタと鳴らしていると呼び声に反応してそちらを見る
「うみくんシャボン玉まで得意なの?」
「シャボン玉に得意とかあるの?」
大きな気泡に呆気にとられているうちに小さい子と合体して重さに耐えきれずゆっくりと地上に落ちていく、製作者は特に気にした様子もなく落ちていく夕陽の名残に青なのかオレンジなのか曖昧なカラーがシャボン玉に反射してキラキラと取り巻く様は王子様とでも言おうか
「おーじさま」
「王子?」
「俺喉が乾きました」
きょとんとしていた顔が爽やかスマイルに変わると何か思い付いたのか目の前までやって来てブランコに座る俺の前に膝まづく
「では姫飲み物をお持ちしましょうか?」
「うみくんが王子なのに」
「俺が王子ならつゆちゃんは姫だからね」
王子を膝まづかせる姫とは一体何者なんだろうか、それは騎士や執事なのではなんて思いながらも即興劇に二人して笑い出す
「では一緒に行きましょ?」
「姫と共に行けるなど恐悦至極です」
スっと差し出された手を取って立ち上がる、俺達は王子と姫の筈なのに向かう先は薄暗くなる周辺を照らす自動販売機の光
「うわ〜何にしよ」
緑と赤のパッケージの上を彷徨う視線、チャリンチャリンッと硬貨を投入する音が聞こえたと思うと迷いなくピッとボタンが押された
「コーラ?」
ガコンッと落下した音が聞こえても彼がそれを拾う様子はなく追加でピッと音が鳴る
「はい」
「うみくんはほんとに何でも分かってるな〜」
「何年一緒にいると思ってるの」
赤い缶を渡されて自分の手には緑の缶が握られている
「一口頂戴」
「俺にもコーラ飲ませて」
その場に座り込んでプルタブに手を掛けるとプシュッという音と共に顔に水滴が飛んで手に泡になった液体が溢れ出した
「っ!?」
何が起きたのか状況を把握できない頭でボタボタ滴り落ちる黒い水が地面に染みを作るのを点になった目で見つめる
「あははっ」
耐えきれなくなったように吹き出した笑いを堪えるように顔を俯けたうみくんは肩まで揺れていて止まった脳が回転しだす
「うっわ、最悪」
「だいじょーぶ?」
「大丈夫にみえますか?」
ツボに入っているのか余韻を残した震え声にムッとした気持ちがあるにも関わらず釣られて笑ってしまう
「これもやばいかな」
「開けてみてよ」
是非とも同じ目にあって欲しいと笑われた事を根に持つようにニヤニヤ勧めたのに小賢しく念の為にも自分が濡れないように腕を伸ばして開封する
「溢れなかったね」
「つまんないの〜」
ジトッとした目を向けると楽しそうにまた肩を揺らすのでベタベタした手を気にせず半分減った缶を傾けた
「あ"ぁ、ここが王宮じゃなくて良かった〜」
シュワシュワ乾いた口に染み渡る炭酸飲料が喉を刺激して胃に落ちる
「王宮で缶コーラなんて飲めないだろうからね」
その通りなのだが何を思い出してるのか未だにクスクス笑い続けているので相当さっきの事がツボに入っているみたいだ
「瓶の次に一番美味い」
「それは同感」
中身は変わらないはずなのに瓶と缶とペットボトルで何故感じ方が違うのか摩訶不思議に思いながら少なくなった残量がゼロになる前にうみくんに手渡す
「ベタベタしてる...」
「ふふっ、スプライトうめ〜」
交換した缶を嫌そうに持った顔にしてやったりと初めとほぼ変わらない重さの缶を煽ってまた違った爽やかな甘みを堪能する
「そろそろ帰ろっか」
飲み干した缶を傍のゴミ箱に入れる頃には辺りは暗くなっていてその事に気付かない程自動販売機の灯りは強かった、トイレでベタベタになった手を洗い流して再び手を繋いで駅を目指す
「楽しかったね」
「うん、また来たいな〜」
こんなにも一緒にいるのに寂しさを感じるのは幸せすぎるからなんだろうか
「また来よっか、そーだなぁ、今度はちょっと遠くに旅行とかするのもありだね」
「それいい!冬休みかな?」
「何処行こうか帰ったら調べますかー」
何かが終われば次の楽しみが待っているそうして繰り返していくのだと思うと心に空いた穴が埋まっていく感じがした
「丁度良かったね」
「ほんとだね、この形の席好き〜」
ホームに着くと同時に滑り込んできた車両に運良く乗り込んで向かい合う形の座席に並んで座る
「あんまりひともいないね...」
「つゆちゃん眠いの?」
「う〜ん」
一度腰を落ち着けてしまえばドッと疲れが押し寄せてきて欠伸を噛み殺した
「最近色々あったから疲れてるよね」
「そんな事ないよ、りょこー楽しみだ〜」
「楽しみだね」
「温泉とかいいな〜」
まだまだ話していたいのにうみくんが優しくうんうんと相槌を打ってくれるのが尚更眠気を誘われてウトウトし出す
「つゆちゃん寄りかかっていいよ」
「ん、ありがとう」
頭を優しく肩に誘導されて大人しく凭れ掛かる、落ち着く匂いと聞こえてくる鼓動は自分のものかうみくんのものか曖昧で遠くで電車が走る音が鳴っている
「つゆりありがと」
微睡みの中でフワッと髪の毛に何かが触れて零れるように落ちてきた声を拾う
「なにが〜?」
「なんでもないよ」
こんなやり取りを今日したばかりな気がしてクスッと笑ってしまう、きっと同じ理由な気がしたから、長く一緒にいると似てくると言うけれどそれはどちらに似ていくものなのか考えても分からない、それぐらい幼い時から共に居た相手
「そっか〜」
髪を梳くように撫でる指先、うみくんと混ざってしまうなら本望だと思った、そしてうみくんにも俺が混ざっていたら嬉しいなんて思ってしまう
(もっともっと似てきたら双子みたいになっちゃうのかな...それは何か嫌だな)
俺は俺でうみくんはうみくんという一人の人間だから共に居たいと思える、そして俺達の中にいるあおちゃんと一緒にこれからも生きていく
(俺はほんとにうみくんが好きだなぁ)
しみじみ湧いた愛おしい感情に包まれてどんどん沈んでいく意識を手放そうとした時
「俺も好きだよ」
優しく手を包んだ温かい感触と宝みたいに大切にしたい言葉は本当ならもっとちゃんと聞きたかったな何て幸せな気持ちで眠りについた
「あの〜...ここ座って」
「ちょ、」
可愛らしい女の子二人組が空いた目の前の席に座ろうと声を掛けるのを辞めていそいそと去っていく、まるで見てはいけないものを見てしまったように小声で話しながら
「ズッ...はぁ」
詰まった鼻が苦しくて溜息のようについた息に幸せが吐き出される、眠る愛しい存在に気付かれないよう流れる沢山の涙は悲しいものではなく満ちた心が溢れた証拠だった
