「デートッデートッ、嬉しいっな〜!」
「つゆちゃん足元気を付けてね」
「は〜い!」
文化祭の振替休日に何もせずただ家でゴロゴロと時間を消費するのが惜しくなった俺達は思い立ったら即行動だと身支度を整えて家を出た
「うわ、美味そう、チーズケーキ?いや、夏季限定パフェも気になる...」
メニューと睨めっこし始めた俺をニコニコ見守るうみくんは女性客の多い店内で注目を集めている
「俺がチーズケーキ頼むからつゆちゃんはパフェにしなよ」
「いいの!?わーいっ」
完璧でスマートな物言いも様になっていて隣の席のお姉さんが微かに悲鳴を上げた
(かっこいいなぁ〜...)
「ん?どうかした?飲み物カフェラテと紅茶どっちにする?」
「こーちゃ」
「おっけー」
速やかに運ばれてきた飲み物をテーブルに置く時女の店員さんにおずおずと声を掛けられて普段の接客で言っていなさそうな確認をわざわざ取ると大丈夫ですなんてにこやかに笑って逃げるように去っていく後ろ姿を眺める
(俺性格悪いかも)
届いたばかりの紅茶をストローで回すと氷がぶつかって軽やかな音を立てた、あの店員さんはただの親切で丁寧に対応してくれただけかもしれないのにああいう態度を取られると気があるのかもしれないと敏感に反応するのをやめたい
「つーゆちゃん、難しい顔してる」
「ぅ"、ごめん」
眉間に寄った皺を伸ばすように人差し指がグリグリと突き刺さって微かに痛いのだが事の元凶といえばうみくんが女装をしなくなって前とはまた違う熱い視線が増えたのが問題なのだ
「うみくん女の子の格好してた方がいいんじゃない?」
「んー、つゆちゃんがして欲しいならするけど当分はこのままでいいかなぁ」
「ふーん...」
多少の嫌味も含んで言ったのだが眉を下げながらも楽しそうな顔をしているので結局はちやほやされて嬉しいのかもしれないなんて思ってもいない事が頭に浮かんで素っ気なく返してしまう
「そういうつゆちゃんの顔も見れるし」
「俺の表情で遊ぶな」
「えー、俺も可愛いものは好きだけど自分が可愛いよりつゆちゃんの可愛い顔見てる方が楽しいんだよねー」
「あっそ...」
ぶすくれた顔の何処が可愛いというのだろうか彼の目は少し特殊なのかもしれないと今度は別の意味で冷たくそっぽ向いた
「拗ねてる?いや、照れてる?かわいー」
うみくんは見た目と一緒に中身まで変わったような、それとも外見に引き摺られてそう感じるのかずっと眩しくて頭がクラクラする
「うるさい、うみくんのケーキ最初の一口食べちゃうからね!」
「言われなくても」
ムッとして言ったのにさも当然のように口元に差し出される一番美味しい部分
「〜っ!もうっ!」
かっこよすぎて好きすぎていつかどうにかなってしまうんじゃないかと心臓を抑えながら口の中に広がった甘みに舌鼓を打つ
「ここが店内だから我慢できたけど家だったら我慢できなかった」
「何そのちょっとエッチなジャンプの主人公構文」
「同人誌にありそう」
頭に思い浮かべた市松模様の鬼を切る少年がこんな事言ってたら嫌だなと自分で言っておいて思う
「そーいえば怖くて見てないんだけどさ」
「うん?」
「ビーから今年も既にネットにアップされてるってURL届いてるよ」
「どうせろくな事書かれてないでしょ」
「俺もそう思って見ないようにしてたんだけどさ何か違うみたいなんだよ」
二つ届いた青文字のうち近頃悪印象しか受けないアプリは置いておいて比較的治安のいい動画サイトをクリックして開く
「ん」
『集まってくれた人の〜』
イヤフォンを片方渡して耳に付けたのを確認してから再生ボタンを押すとうみくんの語りが流れ込んできた
「うわ、ここから上げられてるのか」
「みたいだね」
苦笑いしながら大人しく聞いていると曲が始まったので画面をスクロールしてザッとコメントに目を通す
『〜♪』
「何か...思ってたのと違うね」
「うん、もっと言われてるのかと思ったんだけど大丈夫そうだね」
予想に反して暖かい文章ばかりで呆気にとられた、感動しましたとか泣いたとか頑張れなんていう応援まで胸がじわりと熱くなる
「なんて言うかさ、生きてる〜って感じだね」
「生きてる?」
「うん、批判も優しい言葉も平等っていうか何処か知らない所で生活してる人達がこーして打ち込んでてそれに動かされるのってお互い凄い生きてるなって」
聞かないようにしても入ってくる声が良いものか悪いものかなんて関係なくて湧いた感情を大切にするかは自分次第なんだってそう思うと暗い部分も悪くない
「表裏一体、かな?」
「なんからしくない話しちゃったね」
「真面目にね」
真面目な顔で善と悪について考えているなんてとても自分達では想像つかなくて嘘くさい
「アイス溶けそう、はいうみくん」
「苺アイス久しぶりに食べるな」
「たまにはソーダ以外もおいしーよね〜」
イヤフォンをケースに戻してスマホを机に置くと溶けかけのアイスから先に攻略するべく口に含むと甘酸っぱい苺と生クリーム、そして目の前に座る好きな人それだけで何倍も美味しく感じてしまうのだ、きっと一人で食べていたらこんな感情にはならなかった
「ありがとうみくん」
「突然どうしたの?」
言葉にするには難しく誤魔化すように笑って上に乗ったピカピカの苺を味わう
「なんでもないよっ」
「そっか」
くしゃりと歪んだ笑顔はその顔を幼くさせてメイクなんかしていなくても格好が女の子らしくなくてもとびきり可愛いと思った
「今つゆちゃんと同じ事考えてると思う」
それは感謝についてなのかそれとも笑顔なのかはっきりと分からなくてもそのどちらも同じ気がする
「この後どうする〜?」
「どうしようか、何かしたいこととかある?」
食べ終わった食器を横に寄せて紅茶が口内の甘さをリセットしていく、折角のデートなのに帰るにはまだ少し早い時間に勿体なさとかといってやりたい事もパッと思いつかずに考えを巡せる
「とりあえずお散歩しよ」
「そうだね、近くに公園あるみたいだし行ってみよっか」
電車で数駅先の用事がなければ立ち寄ることもないこの辺りをぶらぶらと散策するだけで新鮮なので楽しいかもしれない
「それじゃ行こっか」
席から離れていく背中が大きく感じる、もうその頃には集まる視線が気にならなくなっていた
「みてみてうみくん!」
「んー?」
「シャボン玉あるよ!」
「おー、いいじゃんやろうよ」
目的地に向かいがてら立ち寄ったコンビニは少し特殊な品揃えで駄菓子屋さんコーナーなるものがあり二人揃って懐かしいお菓子を吟味していると隅の方に興味惹かれるものを発見した
「なっつかしいなぁ〜、あの駄菓子屋のばぁちゃん元気かな」
「この前店前の鉢植えに水やってるの見たよ」
「まじ?今度行ってみるかぁ〜、あ、これいいじゃん」
ランダム性のある酸っぱいガムを手に取る、追加で何個かお菓子を選択してレジに持っていった
「うみくんどれにする?」
「じゃーこれ」
「なら俺はこっちね、せーので食べよ?」
冷気に満ちた室内から脱するとモワッとした空気に包まれて肌がベタつく感じがする、ビリッと勢いよく開けたパッケージから3個並んだ丸いガムを差し出して掛け声と共に口に放り込んだ
「っ...!」
「ふふっ、顔に出すぎでしょ!酸っぱかった〜?」
「酸っぱ!こんなんだっけ?なんか威力増してない?」
「うみくんのだけ酸っぱさ倍増してた?」
「してるよこれ」
「嘘だ〜絶対変わらないって」
ムギュっと中心に寄った顔に酸っぱさが連想されるパブロフの犬状態で口内に唾液が溜まる、自分の口内にあるのは甘いガムの筈なのに二人して口内を引き攣らせていると思うと面白可笑しくて笑いが止まらなくなった
「も〜うみくんのせいで俺まで酸っぱい気がしてきたじゃん!」
「ハッハッハ、罠に掛かったなー」
「うわ、嘘ついてたの!?」
「いやほんとに酸っぱいよ」
「なんだよも〜」
日が落ちかけるそんな時間、手を繋いで一緒に歩く街道を夕焼けが綺麗に照らしていた
「あっ、見て!猫!」
「どこどこ?」
「野良猫かな〜?」
「ほんとだ、首輪してるよ」
お構い無しにグイグイ手を引っ張ってもふもふの毛玉に近付くとしゃがみこんで遠くから眺める、興味津々な熱い視線に気付いたのかニャーンと一鳴きすると伸びをして颯爽とどこかへ行ってしまう
「ありゃ、行っちゃった」
「帰る時間なんじゃない?」
「そうだったのかなぁ」
少し寂しく思っていると頭を撫でる優しい掌に顔を見上げて身体を起こす
「俺らもシャボン玉するんでしょ?」
「うん!」
とっても単純に次に楽しい事に目が向いて猫がユラユラと尻尾を揺らすように俺達も目的地に向かった
「つゆちゃん足元気を付けてね」
「は〜い!」
文化祭の振替休日に何もせずただ家でゴロゴロと時間を消費するのが惜しくなった俺達は思い立ったら即行動だと身支度を整えて家を出た
「うわ、美味そう、チーズケーキ?いや、夏季限定パフェも気になる...」
メニューと睨めっこし始めた俺をニコニコ見守るうみくんは女性客の多い店内で注目を集めている
「俺がチーズケーキ頼むからつゆちゃんはパフェにしなよ」
「いいの!?わーいっ」
完璧でスマートな物言いも様になっていて隣の席のお姉さんが微かに悲鳴を上げた
(かっこいいなぁ〜...)
「ん?どうかした?飲み物カフェラテと紅茶どっちにする?」
「こーちゃ」
「おっけー」
速やかに運ばれてきた飲み物をテーブルに置く時女の店員さんにおずおずと声を掛けられて普段の接客で言っていなさそうな確認をわざわざ取ると大丈夫ですなんてにこやかに笑って逃げるように去っていく後ろ姿を眺める
(俺性格悪いかも)
届いたばかりの紅茶をストローで回すと氷がぶつかって軽やかな音を立てた、あの店員さんはただの親切で丁寧に対応してくれただけかもしれないのにああいう態度を取られると気があるのかもしれないと敏感に反応するのをやめたい
「つーゆちゃん、難しい顔してる」
「ぅ"、ごめん」
眉間に寄った皺を伸ばすように人差し指がグリグリと突き刺さって微かに痛いのだが事の元凶といえばうみくんが女装をしなくなって前とはまた違う熱い視線が増えたのが問題なのだ
「うみくん女の子の格好してた方がいいんじゃない?」
「んー、つゆちゃんがして欲しいならするけど当分はこのままでいいかなぁ」
「ふーん...」
多少の嫌味も含んで言ったのだが眉を下げながらも楽しそうな顔をしているので結局はちやほやされて嬉しいのかもしれないなんて思ってもいない事が頭に浮かんで素っ気なく返してしまう
「そういうつゆちゃんの顔も見れるし」
「俺の表情で遊ぶな」
「えー、俺も可愛いものは好きだけど自分が可愛いよりつゆちゃんの可愛い顔見てる方が楽しいんだよねー」
「あっそ...」
ぶすくれた顔の何処が可愛いというのだろうか彼の目は少し特殊なのかもしれないと今度は別の意味で冷たくそっぽ向いた
「拗ねてる?いや、照れてる?かわいー」
うみくんは見た目と一緒に中身まで変わったような、それとも外見に引き摺られてそう感じるのかずっと眩しくて頭がクラクラする
「うるさい、うみくんのケーキ最初の一口食べちゃうからね!」
「言われなくても」
ムッとして言ったのにさも当然のように口元に差し出される一番美味しい部分
「〜っ!もうっ!」
かっこよすぎて好きすぎていつかどうにかなってしまうんじゃないかと心臓を抑えながら口の中に広がった甘みに舌鼓を打つ
「ここが店内だから我慢できたけど家だったら我慢できなかった」
「何そのちょっとエッチなジャンプの主人公構文」
「同人誌にありそう」
頭に思い浮かべた市松模様の鬼を切る少年がこんな事言ってたら嫌だなと自分で言っておいて思う
「そーいえば怖くて見てないんだけどさ」
「うん?」
「ビーから今年も既にネットにアップされてるってURL届いてるよ」
「どうせろくな事書かれてないでしょ」
「俺もそう思って見ないようにしてたんだけどさ何か違うみたいなんだよ」
二つ届いた青文字のうち近頃悪印象しか受けないアプリは置いておいて比較的治安のいい動画サイトをクリックして開く
「ん」
『集まってくれた人の〜』
イヤフォンを片方渡して耳に付けたのを確認してから再生ボタンを押すとうみくんの語りが流れ込んできた
「うわ、ここから上げられてるのか」
「みたいだね」
苦笑いしながら大人しく聞いていると曲が始まったので画面をスクロールしてザッとコメントに目を通す
『〜♪』
「何か...思ってたのと違うね」
「うん、もっと言われてるのかと思ったんだけど大丈夫そうだね」
予想に反して暖かい文章ばかりで呆気にとられた、感動しましたとか泣いたとか頑張れなんていう応援まで胸がじわりと熱くなる
「なんて言うかさ、生きてる〜って感じだね」
「生きてる?」
「うん、批判も優しい言葉も平等っていうか何処か知らない所で生活してる人達がこーして打ち込んでてそれに動かされるのってお互い凄い生きてるなって」
聞かないようにしても入ってくる声が良いものか悪いものかなんて関係なくて湧いた感情を大切にするかは自分次第なんだってそう思うと暗い部分も悪くない
「表裏一体、かな?」
「なんからしくない話しちゃったね」
「真面目にね」
真面目な顔で善と悪について考えているなんてとても自分達では想像つかなくて嘘くさい
「アイス溶けそう、はいうみくん」
「苺アイス久しぶりに食べるな」
「たまにはソーダ以外もおいしーよね〜」
イヤフォンをケースに戻してスマホを机に置くと溶けかけのアイスから先に攻略するべく口に含むと甘酸っぱい苺と生クリーム、そして目の前に座る好きな人それだけで何倍も美味しく感じてしまうのだ、きっと一人で食べていたらこんな感情にはならなかった
「ありがとうみくん」
「突然どうしたの?」
言葉にするには難しく誤魔化すように笑って上に乗ったピカピカの苺を味わう
「なんでもないよっ」
「そっか」
くしゃりと歪んだ笑顔はその顔を幼くさせてメイクなんかしていなくても格好が女の子らしくなくてもとびきり可愛いと思った
「今つゆちゃんと同じ事考えてると思う」
それは感謝についてなのかそれとも笑顔なのかはっきりと分からなくてもそのどちらも同じ気がする
「この後どうする〜?」
「どうしようか、何かしたいこととかある?」
食べ終わった食器を横に寄せて紅茶が口内の甘さをリセットしていく、折角のデートなのに帰るにはまだ少し早い時間に勿体なさとかといってやりたい事もパッと思いつかずに考えを巡せる
「とりあえずお散歩しよ」
「そうだね、近くに公園あるみたいだし行ってみよっか」
電車で数駅先の用事がなければ立ち寄ることもないこの辺りをぶらぶらと散策するだけで新鮮なので楽しいかもしれない
「それじゃ行こっか」
席から離れていく背中が大きく感じる、もうその頃には集まる視線が気にならなくなっていた
「みてみてうみくん!」
「んー?」
「シャボン玉あるよ!」
「おー、いいじゃんやろうよ」
目的地に向かいがてら立ち寄ったコンビニは少し特殊な品揃えで駄菓子屋さんコーナーなるものがあり二人揃って懐かしいお菓子を吟味していると隅の方に興味惹かれるものを発見した
「なっつかしいなぁ〜、あの駄菓子屋のばぁちゃん元気かな」
「この前店前の鉢植えに水やってるの見たよ」
「まじ?今度行ってみるかぁ〜、あ、これいいじゃん」
ランダム性のある酸っぱいガムを手に取る、追加で何個かお菓子を選択してレジに持っていった
「うみくんどれにする?」
「じゃーこれ」
「なら俺はこっちね、せーので食べよ?」
冷気に満ちた室内から脱するとモワッとした空気に包まれて肌がベタつく感じがする、ビリッと勢いよく開けたパッケージから3個並んだ丸いガムを差し出して掛け声と共に口に放り込んだ
「っ...!」
「ふふっ、顔に出すぎでしょ!酸っぱかった〜?」
「酸っぱ!こんなんだっけ?なんか威力増してない?」
「うみくんのだけ酸っぱさ倍増してた?」
「してるよこれ」
「嘘だ〜絶対変わらないって」
ムギュっと中心に寄った顔に酸っぱさが連想されるパブロフの犬状態で口内に唾液が溜まる、自分の口内にあるのは甘いガムの筈なのに二人して口内を引き攣らせていると思うと面白可笑しくて笑いが止まらなくなった
「も〜うみくんのせいで俺まで酸っぱい気がしてきたじゃん!」
「ハッハッハ、罠に掛かったなー」
「うわ、嘘ついてたの!?」
「いやほんとに酸っぱいよ」
「なんだよも〜」
日が落ちかけるそんな時間、手を繋いで一緒に歩く街道を夕焼けが綺麗に照らしていた
「あっ、見て!猫!」
「どこどこ?」
「野良猫かな〜?」
「ほんとだ、首輪してるよ」
お構い無しにグイグイ手を引っ張ってもふもふの毛玉に近付くとしゃがみこんで遠くから眺める、興味津々な熱い視線に気付いたのかニャーンと一鳴きすると伸びをして颯爽とどこかへ行ってしまう
「ありゃ、行っちゃった」
「帰る時間なんじゃない?」
「そうだったのかなぁ」
少し寂しく思っていると頭を撫でる優しい掌に顔を見上げて身体を起こす
「俺らもシャボン玉するんでしょ?」
「うん!」
とっても単純に次に楽しい事に目が向いて猫がユラユラと尻尾を揺らすように俺達も目的地に向かった
