カラフルに装飾された校舎、甘い香りや香ばしい匂いが充満してコスプレた生徒が看板を掲げながら呼び込みしたり私服の保護者らしき人や他校の制服、中学生と思わしき集団が楽しそうに校内を練り歩いてお祭り騒ぎだ、見回りの先生なんかは忙しそうに目を光らせてちょくちょく生徒を連行しては説教しているのだろう
「これ美味〜、つゆも食う?」
「大丈夫、えーいちは?」
「店番だって〜、そろそろ体育館向かうと思うけど」
これまた可愛くデコレーションされたチュロスが似合うシイナとぶらぶら見て回っていたのだがぼちぼち向かう時間のようで朝別れを告げた彼の顔を思い出す
「うみちゃんとくっかな〜」
「行くって言ってたよ」
「まぁ来るとは思うけどバレずに辿り着けるのかね〜」
辿り着いてもらわなければ困るはずだが相変わらず間延びした言い方から微塵も焦りを感じないがそこがいい所なのだろう
「つゆ裏から見てく?」
「ん〜、いや、端で見てるよ」
折角なら皆の顔をちゃんと見たいし人がごった返しそうな正面から見るのは難しくても壁際なら大丈夫だと思った
「おー」
「珍し〜早いじゃんビー」
「うるせ、クラスの奴らがライブあるからって店番早く切り上げてくれたんだよ」
「なるほどね〜、良い奴じゃん」
うちのクラスは何だかんだやっぱり優しい奴が集まっているようで今回の騒動も大分迷惑を掛けてしまった気がするがさり気なくフォローして今もこうして助けてくれるのだから頭が上がらない
「えいちゃんは今向かってるって〜」
「てか大分うみから連絡返ってきてねーけどつゆり何も知らねー?」
「俺も返ってきてない」
「まじかぁ、ねぼーか?」
もう前の演劇も終盤に差し掛かってるというのに音沙汰ないスマホに違和感と節操を覚えながらもう一度大丈夫?と連絡を入れてみた
「ビーじゃないんだから有り得ないでしょ」
「すまん待たせた」
「えいちゃ〜んまだ全然大丈夫だけどさ〜うみから全然連絡無いんだよね〜」
「どっかで捕まってんのか...?」
全員が顔を見合わせる、閉演のブザーが鳴って幕が下がると司会がプログラムを読み上げて劇のキャストと小道具がハケられていく
「これ、もしかしてまずい感じ〜?」
「ま、まー後十数分あるし?その間に来るっしょー、とりまセッティングだけしとこーぜ」
「そんな心配すんなってあいつって結構カッコつけな所あるから遅れてとーじょーとか考えてるかもしれないし、つゆりは場所取られないように早く前の方の壁占領しとけよ」
「そ〜そ〜、滑り込みセーフ的な〜?」
えーいちの大きな掌で頭を撫でられシイナの緩さに少しだけ冷静さを取り戻すと出番が迫っている彼らより慌てている事が恥ずかしくなり逆にとても肝が座っているというかなんと言うかまた一つ先を越された感覚になる
「ありがと、皆頑張ってね」
「おー!任せろー俺のギターテク魅せてやる」
「張り切りすぎて失敗しないでよね〜」
ひらひらと手を振って舞台袖から移動すると予想通りの盛況に怖気付きつつも壁際に背を預ける
「このバンドのあれだろ?女装してる男がバズってたやつ!」
「それそれ、めっちゃ面が良いから女食い放題だとか」
「めっちゃ羨ましーよなぁ」
「私うみくんなら全然女装してても許せる〜、てか一緒に服みたりメイクの話したり女友達みたいに付き合えるんでしょ〜?めっちゃいいじゃん〜」
「馬鹿あんた、それで問題になってるんでしょ?なんだっけぬいぺに現象?症候群?」
「何それ〜、外は女の子で内では雄なのギャップ萌えなのにな〜」
雑踏の中でも耳に入ってくる話題にこうして集まった人全てがどんな目で彼を見るのか憶測に憶測を呼んで膨れ上がった思想が渦巻く会場は居心地が悪い
(うみくん...大丈夫かな)
心配をよそにバッと照明が落ちて微かに光を漏らすステージと司会に当たったスポットライトに全員の注目が集まるのが分かった
「えー、皆さんお待ちかねの次の演目はこれ目当てに集まった人も多いのではないでしょ〜か!学内の二年生で組まれたバンドは去年の文化祭から絶大な人気を博しているみたいですね〜、今年は有名になってから二度目という事で期待も高まっております!それでは皆さん盛り上がっていきましょ〜!」
ハードルを上げるような文言に会場の熱が増したような歓声、俺が出演する側だったら冷や汗をかいているだろうなんて思いながら顕になっていくステージを見つめる
(っ...)
舞台に居たのは見知った三人、そう、三人だけだったのだ、彼らの顔を見て息を飲む、一言二言そこから波紋のように広がるざわめきは次第に大きくなっていく
「おい、ボーカルは?」
「逃げたんじゃね、あんな事あったし」
「まじかよー顔だけでも見てこーと思ったのに」
心が冷えてくのを感じた、皆どうするのか行方を伺っている時司会から声が掛かる
「あーっとボーカルの方は...」
それを聞いてえーいちがビーに何か合図をするような素振りをするとビーが真ん中のスタンドマイクに移動して手をかけた時
「おいっ!あのカマやろーはどーしたんだよっ!」
一際大きい声に注目が集まる
「ちょっとやめてよっ」
「人の女誑かしてトンズラかー?やっぱやる事がこすいな〜?」
止めに入る女の子の声と馬鹿にしたように嘲笑を含んだ声を張り上げるのはもはや問い掛けではない、クスクスと笑いが伝染していく
(うみくん...)
握った掌に爪が食い込むほど強く握り締めて身体がカタカタと震え出した時、黒いギターケースを背負った人影がステージに上がるのが見えた
「悪い悪いー遅刻した」
「おっ、まえー!来ねーかと思ったわ!」
「はぁ〜、えいちゃんが言った通りになったね」
一瞬にして全ての空気が入れ替わるような呑気な会話、今ここまでの流れが何も無かったみたいに全員がその光景に釘付けになる
「あ、あれがボーカル?」
「キャーっ」
ケースからギターを取り出して慣れたようにアンプに繋ぐとマイクの前に立つまでの間落ちた沈黙から再び会場にどよめきと黄色い悲鳴で満ちた
(うみくん髪が...)
長かった髪が短く切り揃えられて真ん中で分かれた前髪から顔がハッキリと見えている、入学してから一度も着ていなかった制服に身を包んで揺れる金髪から目が離せなかった
「やばいかっこよすぎるっ」
「誰だよ女装で釣ってるとか言ったやつ、クソイケメンじゃねーか」
会場の空気に呑まれたのか先程騒ぎ立てていた奴も静かになっていてうみくんがキョロキョロと誰かを探す風に見渡す度に各所から小さな悲鳴が上がっていた
「ふふっ、それじゃ一曲目」
薄茶色の瞳が俺を捉えると目を細めて微笑んだ、心臓がドクンッと音を立てて体温が急上昇する、その笑顔にやられた人は多いみたいで男ですらおかしな声を上げているものがいたくらいの威力、スタートを告げるようなドラムの音と鳴り出した音色に指先がビリビリするのを感じた
「これ美味〜、つゆも食う?」
「大丈夫、えーいちは?」
「店番だって〜、そろそろ体育館向かうと思うけど」
これまた可愛くデコレーションされたチュロスが似合うシイナとぶらぶら見て回っていたのだがぼちぼち向かう時間のようで朝別れを告げた彼の顔を思い出す
「うみちゃんとくっかな〜」
「行くって言ってたよ」
「まぁ来るとは思うけどバレずに辿り着けるのかね〜」
辿り着いてもらわなければ困るはずだが相変わらず間延びした言い方から微塵も焦りを感じないがそこがいい所なのだろう
「つゆ裏から見てく?」
「ん〜、いや、端で見てるよ」
折角なら皆の顔をちゃんと見たいし人がごった返しそうな正面から見るのは難しくても壁際なら大丈夫だと思った
「おー」
「珍し〜早いじゃんビー」
「うるせ、クラスの奴らがライブあるからって店番早く切り上げてくれたんだよ」
「なるほどね〜、良い奴じゃん」
うちのクラスは何だかんだやっぱり優しい奴が集まっているようで今回の騒動も大分迷惑を掛けてしまった気がするがさり気なくフォローして今もこうして助けてくれるのだから頭が上がらない
「えいちゃんは今向かってるって〜」
「てか大分うみから連絡返ってきてねーけどつゆり何も知らねー?」
「俺も返ってきてない」
「まじかぁ、ねぼーか?」
もう前の演劇も終盤に差し掛かってるというのに音沙汰ないスマホに違和感と節操を覚えながらもう一度大丈夫?と連絡を入れてみた
「ビーじゃないんだから有り得ないでしょ」
「すまん待たせた」
「えいちゃ〜んまだ全然大丈夫だけどさ〜うみから全然連絡無いんだよね〜」
「どっかで捕まってんのか...?」
全員が顔を見合わせる、閉演のブザーが鳴って幕が下がると司会がプログラムを読み上げて劇のキャストと小道具がハケられていく
「これ、もしかしてまずい感じ〜?」
「ま、まー後十数分あるし?その間に来るっしょー、とりまセッティングだけしとこーぜ」
「そんな心配すんなってあいつって結構カッコつけな所あるから遅れてとーじょーとか考えてるかもしれないし、つゆりは場所取られないように早く前の方の壁占領しとけよ」
「そ〜そ〜、滑り込みセーフ的な〜?」
えーいちの大きな掌で頭を撫でられシイナの緩さに少しだけ冷静さを取り戻すと出番が迫っている彼らより慌てている事が恥ずかしくなり逆にとても肝が座っているというかなんと言うかまた一つ先を越された感覚になる
「ありがと、皆頑張ってね」
「おー!任せろー俺のギターテク魅せてやる」
「張り切りすぎて失敗しないでよね〜」
ひらひらと手を振って舞台袖から移動すると予想通りの盛況に怖気付きつつも壁際に背を預ける
「このバンドのあれだろ?女装してる男がバズってたやつ!」
「それそれ、めっちゃ面が良いから女食い放題だとか」
「めっちゃ羨ましーよなぁ」
「私うみくんなら全然女装してても許せる〜、てか一緒に服みたりメイクの話したり女友達みたいに付き合えるんでしょ〜?めっちゃいいじゃん〜」
「馬鹿あんた、それで問題になってるんでしょ?なんだっけぬいぺに現象?症候群?」
「何それ〜、外は女の子で内では雄なのギャップ萌えなのにな〜」
雑踏の中でも耳に入ってくる話題にこうして集まった人全てがどんな目で彼を見るのか憶測に憶測を呼んで膨れ上がった思想が渦巻く会場は居心地が悪い
(うみくん...大丈夫かな)
心配をよそにバッと照明が落ちて微かに光を漏らすステージと司会に当たったスポットライトに全員の注目が集まるのが分かった
「えー、皆さんお待ちかねの次の演目はこれ目当てに集まった人も多いのではないでしょ〜か!学内の二年生で組まれたバンドは去年の文化祭から絶大な人気を博しているみたいですね〜、今年は有名になってから二度目という事で期待も高まっております!それでは皆さん盛り上がっていきましょ〜!」
ハードルを上げるような文言に会場の熱が増したような歓声、俺が出演する側だったら冷や汗をかいているだろうなんて思いながら顕になっていくステージを見つめる
(っ...)
舞台に居たのは見知った三人、そう、三人だけだったのだ、彼らの顔を見て息を飲む、一言二言そこから波紋のように広がるざわめきは次第に大きくなっていく
「おい、ボーカルは?」
「逃げたんじゃね、あんな事あったし」
「まじかよー顔だけでも見てこーと思ったのに」
心が冷えてくのを感じた、皆どうするのか行方を伺っている時司会から声が掛かる
「あーっとボーカルの方は...」
それを聞いてえーいちがビーに何か合図をするような素振りをするとビーが真ん中のスタンドマイクに移動して手をかけた時
「おいっ!あのカマやろーはどーしたんだよっ!」
一際大きい声に注目が集まる
「ちょっとやめてよっ」
「人の女誑かしてトンズラかー?やっぱやる事がこすいな〜?」
止めに入る女の子の声と馬鹿にしたように嘲笑を含んだ声を張り上げるのはもはや問い掛けではない、クスクスと笑いが伝染していく
(うみくん...)
握った掌に爪が食い込むほど強く握り締めて身体がカタカタと震え出した時、黒いギターケースを背負った人影がステージに上がるのが見えた
「悪い悪いー遅刻した」
「おっ、まえー!来ねーかと思ったわ!」
「はぁ〜、えいちゃんが言った通りになったね」
一瞬にして全ての空気が入れ替わるような呑気な会話、今ここまでの流れが何も無かったみたいに全員がその光景に釘付けになる
「あ、あれがボーカル?」
「キャーっ」
ケースからギターを取り出して慣れたようにアンプに繋ぐとマイクの前に立つまでの間落ちた沈黙から再び会場にどよめきと黄色い悲鳴で満ちた
(うみくん髪が...)
長かった髪が短く切り揃えられて真ん中で分かれた前髪から顔がハッキリと見えている、入学してから一度も着ていなかった制服に身を包んで揺れる金髪から目が離せなかった
「やばいかっこよすぎるっ」
「誰だよ女装で釣ってるとか言ったやつ、クソイケメンじゃねーか」
会場の空気に呑まれたのか先程騒ぎ立てていた奴も静かになっていてうみくんがキョロキョロと誰かを探す風に見渡す度に各所から小さな悲鳴が上がっていた
「ふふっ、それじゃ一曲目」
薄茶色の瞳が俺を捉えると目を細めて微笑んだ、心臓がドクンッと音を立てて体温が急上昇する、その笑顔にやられた人は多いみたいで男ですらおかしな声を上げているものがいたくらいの威力、スタートを告げるようなドラムの音と鳴り出した音色に指先がビリビリするのを感じた
