仕事中のオフィスに顔を出して感じのいいスーツを着たサラリーマンに一声掛けると手を繋いで暗くなった帰り道を二人で歩く
「ふふっ」
「どうしたの?」
「何かうれしーなぁって」
少しフワフワする頭で着飾らないうみくんとこうして手を繋いで外を歩くのはあの日の中学生ぶりで浮き足立つ
「来週にはさ文化祭じゃん」
「そ〜だね、楽しみ」
夜中の街灯が明るく足元を照らして無邪気に繋いだ手を揺らす
「元々あいつらと出る話にはなってたんだけど今の状況考えたらどうなんだろうって思ってさ」
「ライブ?」
「そう、こんな事になったのも去年の文化祭からだから」
神格化されたり他校から人が押し寄せる程の人気は去年の文化祭でうみくん達のバンドがネットにアップされてからだった、今回こんなにも早く広まった理由も多少はそこにあってそれを考慮すると確かに楽しみだけじゃ乗り切れない不安や心配が付いてくる
「どうするの?」
うみくんが歌ってギターを弾く姿が好きだ、そして彼が音楽を愛している事もよく知っている、好きな事だから出来る努力もライブで輝く楽しそうな顔も出来る事なら見たいけどわざわざ話題になりそうな学校で無理する必要もないとは思う、それが無くても一緒に回れるだけで楽しいと思うから
「俺出るよ」
「ほんと!」
軽く酔ってるからかそれとも元からなのか喜怒哀楽が激しく表に出て自分の事じゃないのに嬉しくて大きな声が出てしまった
「ほんと、つゆちゃん見ててくれる?」
「もちろんっ!絶対見る!」
「良かった、つゆちゃんが居ないと意味無いから」
「意味無い?」
お願いされなくても見に行くというのに今の俺はとってもご機嫌で無敵なので強い肯定と一緒に握った手を強く引っ張る、少しよろけたうみくんが困りながらも嬉しそうに笑うので言葉がもっと欲しくなった俺は欲張りに続きを催促した
「うん、俺はさーつゆちゃんが原動力なの、だから居てくれないと困る」
「うみくんっ!」
「はい?...っぶな」
嬉しくなってタックルするように抱き着くと慌てながらも受け止めてくれる身体、もっとその鼓動に近付きたい
「ちょ、つゆちゃんっ、まってやばいっ」
ワキワキさせた手を身体に這わせて擽ると落ち着いた声が高く上擦って盛大に笑い声を出した
「はぁ、はぁ、しぬ所だった」
「そんな大袈裟な〜!」
手を止めると身体を丸めてお腹を押さえるうみくんは肩激しく上下させていて面白い
「っ」
「やっていいのはやられる覚悟のある奴だけって知ってる?」
「し、知らない、やめっ、あはは」
こんな道端で何をしているのか二人分の大きな笑い声はもしかしたら近所迷惑になっているかもしれない、それでも止まらなかった
「はぁー、も〜うみくんの意地悪」
「先に仕掛けたのはつゆちゃんだよ?」
まだひくついてる気がするお腹を擦りながら睨むように見上げると相手のジトッとした視線とかち合って思わず吹き出してしまう、それに釣られてうみくんも口に手を当てて肩を揺らして笑いを耐える
「ほら、早く帰ろ」
「うん!」
顔を見合わせてもう一度しっかり手を繋ぐ
「ん」
「ふふっ、眼鏡当たった難しいね」
方向転換して一歩踏み出す前に頬に手を伸ばしてそっと口と口を合わせたつもりが普段掛けていない眼鏡に鼻が当たってしまって少し恥ずかしくなる
「つゆちゃん!」
「原動力なんでしょ?」
暗がりで相手の赤くなった顔が認識出来るという事は自分の顔もバッチリ見られているのだろう、慌てて咎める声を聞こえないふりして悪戯に笑う
「〜っ、外なんですけど」
「誰も見てないも〜ん」
「このっ」
いつまで経っても進まない帰り道、それも二人らしいかな何て思いながら手を引いて強引に走り出す
「ねぇねぇ、帰ったら一緒にお風呂入ろ〜よ!」
「は!?」
「そんでねソーダのアイス食べる〜」
「...うん」
「ゲームなんかもしちゃう?」
「いいね、桃鉄100年やろうか」
「いや、流石にそれは無理でしょっ」
何も変わらないあの頃の少年まま心に残る寂しさも大切にしてちゃんと恋を始めるんだ
それからというもの友人達の介入が役に立ち押し寄せる女の子の数はグッと減って文化祭準備に追われる学校は別の活気で溢れている、うみくんはまだ本人が現れるには日にちが浅すぎてきちんと登校はしていなかったけれど隠れるように放課後忍び込んではバンド練習に打ち込んで正に芸能人のお忍びのようになっていて面白かった
「あ"ぁーついに明日かー」
「この調子じゃうみは無理だろうな」
「なにが〜?」
大の字で寝転がると床の色と大差ないビーが感慨深そうに吐き出された言葉と当たり前のように言ったえーいちにシイナが反応する
「文化祭、100億パー見て回ってるどころじゃないだろうなって」
「あ〜可哀想〜」
何も可哀想だと思っていないあっけらかんとした物言いに苦笑いしながらも学校関係者以外も集まるイベントでは確かに危険とまで言えるだろう
「俺時間に合わせて来るよ」
「それが無難だろうな、クラスはもうお前来ない前提で話進んでるしいいと思うよ」
「3回しかねーのに殊勝なこったぁ、もういっその事気にせず暴れちまえよー」
「ビーはほんとにバカだよね、そんな事出来るわけないでしょ、ただでさえお騒がせ者なんだから〜」
同じクラスで情報は共有し易いのか基本的朗らかな者同士提案に肯定をして当日も大丈夫そうに思える、その傍らでつまらなさそうに過激な事を言い出す者とまたしても始まるプロレスを眺めながらじんわり広がる温かさ
(上手くいきますように)
それだけをただ願っていた、ぬるま湯みたいに心地が良くて時間を止められるのならば止めてしまいたいと思う程家族のような存在、それでも聞こえてくるバンドさえ出来ればなんでもいいと言う言葉に誰も彼らを引き留める事なんて出来やしない、俺はただ見守るだけ、現実はこんなにもキラキラしているのだから
「ふふっ」
「どうしたの?」
「何かうれしーなぁって」
少しフワフワする頭で着飾らないうみくんとこうして手を繋いで外を歩くのはあの日の中学生ぶりで浮き足立つ
「来週にはさ文化祭じゃん」
「そ〜だね、楽しみ」
夜中の街灯が明るく足元を照らして無邪気に繋いだ手を揺らす
「元々あいつらと出る話にはなってたんだけど今の状況考えたらどうなんだろうって思ってさ」
「ライブ?」
「そう、こんな事になったのも去年の文化祭からだから」
神格化されたり他校から人が押し寄せる程の人気は去年の文化祭でうみくん達のバンドがネットにアップされてからだった、今回こんなにも早く広まった理由も多少はそこにあってそれを考慮すると確かに楽しみだけじゃ乗り切れない不安や心配が付いてくる
「どうするの?」
うみくんが歌ってギターを弾く姿が好きだ、そして彼が音楽を愛している事もよく知っている、好きな事だから出来る努力もライブで輝く楽しそうな顔も出来る事なら見たいけどわざわざ話題になりそうな学校で無理する必要もないとは思う、それが無くても一緒に回れるだけで楽しいと思うから
「俺出るよ」
「ほんと!」
軽く酔ってるからかそれとも元からなのか喜怒哀楽が激しく表に出て自分の事じゃないのに嬉しくて大きな声が出てしまった
「ほんと、つゆちゃん見ててくれる?」
「もちろんっ!絶対見る!」
「良かった、つゆちゃんが居ないと意味無いから」
「意味無い?」
お願いされなくても見に行くというのに今の俺はとってもご機嫌で無敵なので強い肯定と一緒に握った手を強く引っ張る、少しよろけたうみくんが困りながらも嬉しそうに笑うので言葉がもっと欲しくなった俺は欲張りに続きを催促した
「うん、俺はさーつゆちゃんが原動力なの、だから居てくれないと困る」
「うみくんっ!」
「はい?...っぶな」
嬉しくなってタックルするように抱き着くと慌てながらも受け止めてくれる身体、もっとその鼓動に近付きたい
「ちょ、つゆちゃんっ、まってやばいっ」
ワキワキさせた手を身体に這わせて擽ると落ち着いた声が高く上擦って盛大に笑い声を出した
「はぁ、はぁ、しぬ所だった」
「そんな大袈裟な〜!」
手を止めると身体を丸めてお腹を押さえるうみくんは肩激しく上下させていて面白い
「っ」
「やっていいのはやられる覚悟のある奴だけって知ってる?」
「し、知らない、やめっ、あはは」
こんな道端で何をしているのか二人分の大きな笑い声はもしかしたら近所迷惑になっているかもしれない、それでも止まらなかった
「はぁー、も〜うみくんの意地悪」
「先に仕掛けたのはつゆちゃんだよ?」
まだひくついてる気がするお腹を擦りながら睨むように見上げると相手のジトッとした視線とかち合って思わず吹き出してしまう、それに釣られてうみくんも口に手を当てて肩を揺らして笑いを耐える
「ほら、早く帰ろ」
「うん!」
顔を見合わせてもう一度しっかり手を繋ぐ
「ん」
「ふふっ、眼鏡当たった難しいね」
方向転換して一歩踏み出す前に頬に手を伸ばしてそっと口と口を合わせたつもりが普段掛けていない眼鏡に鼻が当たってしまって少し恥ずかしくなる
「つゆちゃん!」
「原動力なんでしょ?」
暗がりで相手の赤くなった顔が認識出来るという事は自分の顔もバッチリ見られているのだろう、慌てて咎める声を聞こえないふりして悪戯に笑う
「〜っ、外なんですけど」
「誰も見てないも〜ん」
「このっ」
いつまで経っても進まない帰り道、それも二人らしいかな何て思いながら手を引いて強引に走り出す
「ねぇねぇ、帰ったら一緒にお風呂入ろ〜よ!」
「は!?」
「そんでねソーダのアイス食べる〜」
「...うん」
「ゲームなんかもしちゃう?」
「いいね、桃鉄100年やろうか」
「いや、流石にそれは無理でしょっ」
何も変わらないあの頃の少年まま心に残る寂しさも大切にしてちゃんと恋を始めるんだ
それからというもの友人達の介入が役に立ち押し寄せる女の子の数はグッと減って文化祭準備に追われる学校は別の活気で溢れている、うみくんはまだ本人が現れるには日にちが浅すぎてきちんと登校はしていなかったけれど隠れるように放課後忍び込んではバンド練習に打ち込んで正に芸能人のお忍びのようになっていて面白かった
「あ"ぁーついに明日かー」
「この調子じゃうみは無理だろうな」
「なにが〜?」
大の字で寝転がると床の色と大差ないビーが感慨深そうに吐き出された言葉と当たり前のように言ったえーいちにシイナが反応する
「文化祭、100億パー見て回ってるどころじゃないだろうなって」
「あ〜可哀想〜」
何も可哀想だと思っていないあっけらかんとした物言いに苦笑いしながらも学校関係者以外も集まるイベントでは確かに危険とまで言えるだろう
「俺時間に合わせて来るよ」
「それが無難だろうな、クラスはもうお前来ない前提で話進んでるしいいと思うよ」
「3回しかねーのに殊勝なこったぁ、もういっその事気にせず暴れちまえよー」
「ビーはほんとにバカだよね、そんな事出来るわけないでしょ、ただでさえお騒がせ者なんだから〜」
同じクラスで情報は共有し易いのか基本的朗らかな者同士提案に肯定をして当日も大丈夫そうに思える、その傍らでつまらなさそうに過激な事を言い出す者とまたしても始まるプロレスを眺めながらじんわり広がる温かさ
(上手くいきますように)
それだけをただ願っていた、ぬるま湯みたいに心地が良くて時間を止められるのならば止めてしまいたいと思う程家族のような存在、それでも聞こえてくるバンドさえ出来ればなんでもいいと言う言葉に誰も彼らを引き留める事なんて出来やしない、俺はただ見守るだけ、現実はこんなにもキラキラしているのだから
