雑多な話し声が波紋のように広がって独り歩く廊下を賑やかにしてくれる
(はぁ...うみくんがいなくてもこれか)
今日の喧騒はいつもと違って陰湿で目が合うと罰が悪そうに視線を逸らされた
(順調に思惑通りって所か)
お騒がせしている張本人ははなから行く気が無かったのか布団から出て来る気配が一ミリもなくて昨日の今日でたまにはそんな日があってもいいと思うと同時に原因を作った人間は呑気に登校してこの状況を楽しんでると思うと腹が立つ
「つゆりっ」
一歩教室に足を踏み入れると騒然としていたのが一瞬ピタリと止んでそれを打破するように飛んできた声に周りは動きを取り戻す
「はよ」
「おぉ、思ったより顔色は良いな、でも大丈夫かよ?」
「あ〜大丈夫大丈夫」
「そんな簡単に言うけどお前なぁ〜、うみは?来てんの?」
「いや、家」
通常運転で明るくそれでも心配を含んだ言葉選びで話しかけて来たビーが今は正直ありがたい、うみくんが休んでる事を知ると少し顔を歪めたが遠巻きに腫れ物を扱うように接されていたら流石に俺も堪える
「あんま気にしないで全然元気だから、面倒臭いからってただのサボりだよ」
「ならいいけどよー、っとに悪趣味だよなぁ」
「それには同感」
実際の所吹っ切れたのかケロッとしていて話題の中心になるのが嫌なのだろう、自意識過剰かとも思うが想像以上に広まってしまっているのか俺でさえこれだけ視線を集めてヒソヒソと話す声が聞こえてくるのだから本人がいたらもっと酷いことになりそうだ
「あ、あのさ光坂くん」
鈴みたいな女の子らしい声で数人固まって話しかけて来た初めてみる面々が恐る恐るといった感じで尋ねる
「なに?」
声を掛けたはいいが目の前で女の子同士押し問答が始まって埒が明かなそうなのでこちらから話を振った
「あのっ」
「早く言いなよ」
「あのね!うっ、ほづみくんの連絡先が知りたいのっ!」
言いかけた名前を訂正して言っちゃったとばかりに顔を赤らめた先頭の少女と後ろでキャッキャとはしゃがれて面食らう
「お前らなぁー...」
「ちょっと!あんた達が抜け駆けしたってうみくんは相手にしないわよ!」
呆れたビーの声をかき消すように上がった別の声色
「そ、そんな事分かんないじゃない!」
「分かるわよ!色んな女の子と遊んでたってレベルっていうものがあるの、分かる?」
「っ、少しくらい夢見たっていいじゃない!」
ヒートアップしていく会話、俗に言うスクールカースト的なものなのだろうか、初めに話しかけて来た少女達は後からやってきたギラギラ集団に押され気味だがその火の粉が俺に降かかる
「つゆりくんはどう思ってるの!?貴方だってうみくんに見合う女の子が近くにいた方が良いと思うでしょ?」
「おいおい...」
声を張上げた女の子に迫られるというのは中々の大迫力でまさかこんな事を聞かれるとは予想もしていなかった俺は何も言えず仲裁に入ったビーが宥めようと輪に入ってきた
「貴方達はいつも遊んでるんだからほづみくんじゃなくてもいいじゃない!」
「はぁ?お互い様の方が気楽だと思うけど?そーゆー重いのは嫌なんじゃないの?」
「まぁまぁ、俺とかどー?連絡先交か」
「「貴方は黙ってて!」」
和ませる為ヘラヘラと方向転換を狙うも一蹴りされたビーが明らかにしょぼくれていて可哀想になってくる
「で、どうなの!つゆりくん」
「どうなのと言われましても...」
意気消沈している友人をこれ以上頑張らせる訳にはいかず流石にもう無理かと思った時
「お〜お〜、すっげぇな〜大盛況じゃ〜ん」
「無事か、つゆり」
派手な青い髪をサラサラ揺らして呑気に手を振りながら入ってきた人物とその後ろをついて歩く長身
「シイナぁ、えーいち〜」
「ははっ、つゆ瀕死じゃん〜うける〜」
「なんもうけねぇよ」
「拗ねんなって〜、てかビーも死んでね笑うんだけど」
どこぞのギャルなのか俺の頭を肘置きにしているがこのピンチから救い出してくれるならどんな手でも掴みたい状況だ、二人の登場により女の子達は別のざわめきを持つ
「何〜君達、うみ狙ってんの〜?」
「シ、シイナくん」
「でもね〜いい事教えてあげるよ」
程よく制服を着崩したチャラ男はそこそこ女子人気が高くやっぱり3BといえばベースのBなのだろうか、女の子が少しクズに惹かれるみたいな理論が証明されている気分だ
「あいつは恋だの愛だのよりこいつが大切なんだよね〜、勿論俺ら友達なんかよりもね、いや〜寂しいのなんのって」
のらりくらりとスルスル出てくる言葉とニヤケ顔は全くと言っていいほど寂しくなさそうでこういう所は少しあおちゃんに似ている
「下手したら家族よりも、命よりも大切かもな〜」
なーんてなっ、と言いつつもおちゃらけた笑い声に反して声は少し真剣味を帯びていた
「だからさぁ、あんまつゆ困らせてっと〜」
いつもの調子で間延びしたリズムは変わらないのに能天気だった笑顔がシニカルに変わって声色がグッと冷たさを増す
「まっ、分かったよね?じゃ〜解散解散っ、連絡先は本人に聞きなね〜」
「はぁ〜、ありがとシイナ助かった」
パンパンッと叩かれた手に止まった時が動き出してわらわらと散っていく、詰めていた息と肩の力を抜くとどっと疲れが押し寄せた
「おっまえ怖っ、なんか裏でそうやって女に言う事聞かせて...」
「ビーは後で飯奢りな?」
「ベーシストはDVって話ほんとだったのか...」
復活したビーの発言に笑顔が凍りついて同じ偏見を持ってしまった俺は墓場まで心に留めておこうと誓って犠牲になってくれた彼には両手を合わせる
「大丈夫か、つゆり」
後ろで誰が殴ってるだとか何だとか騒がしくじゃれ合い出した二人を傍目に落ち着いた低音で頭に置かれた手に実家に帰ったような安心感が生まれた
「うん、ごめん迷惑かけた」
「全然構わないけど今日は大変そうだから考えといた方がいいぞ」
「あー、うん、そうする」
干渉する訳でもなく突き放す訳でもない付かず離れずの気遣いが心地のいい忠告はすんなり胸に入ってきて調度鳴った予鈴の音に今日一日は慎んで行動しようと心に誓った
(あ"ぁ〜疲れた)
強く構えていた心が折れる程こんなにも人が押し寄せるなんて即行動を起こせる人間が多すぎやしないかと授業中にも関わらず深いため息を吐く
「こーさか、光坂っ」
吐息のような静かな呼び声と背をツンツンと突かれて後ろの席を振り返ると紙切れのようなものを渡された
(俺に?誰が...)
女子が授業中に紙を回してやり取りしているのはたまに見掛けるが自分に回ってくるのは初めてで文字を見て思い当たる人物を探すとニタニタ笑っている人物と目が合ってすぐに犯人の検討はついた
(何だよ)
後数分で授業も終わりやっと学校から解放されるというのに至急伝えなければいけない要件でもあるのかと恐る恐る紙に目を落とすとそこには校門に出待ちらしき女子が集まっているから授業が終わり次第即帰宅しろとのお達しが書かれている
(まじかよ...他校からも来ちゃうの?うみくんファンの熱量凄すぎる...)
ここまでくると感無量である、感謝を込めたサムズアップをビーに送ると同じサインが帰ってきて試合開始のようなチャイムと号令に鞄を持ち上げ逃げるように教室から駆け出したのだった
(はぁ...うみくんがいなくてもこれか)
今日の喧騒はいつもと違って陰湿で目が合うと罰が悪そうに視線を逸らされた
(順調に思惑通りって所か)
お騒がせしている張本人ははなから行く気が無かったのか布団から出て来る気配が一ミリもなくて昨日の今日でたまにはそんな日があってもいいと思うと同時に原因を作った人間は呑気に登校してこの状況を楽しんでると思うと腹が立つ
「つゆりっ」
一歩教室に足を踏み入れると騒然としていたのが一瞬ピタリと止んでそれを打破するように飛んできた声に周りは動きを取り戻す
「はよ」
「おぉ、思ったより顔色は良いな、でも大丈夫かよ?」
「あ〜大丈夫大丈夫」
「そんな簡単に言うけどお前なぁ〜、うみは?来てんの?」
「いや、家」
通常運転で明るくそれでも心配を含んだ言葉選びで話しかけて来たビーが今は正直ありがたい、うみくんが休んでる事を知ると少し顔を歪めたが遠巻きに腫れ物を扱うように接されていたら流石に俺も堪える
「あんま気にしないで全然元気だから、面倒臭いからってただのサボりだよ」
「ならいいけどよー、っとに悪趣味だよなぁ」
「それには同感」
実際の所吹っ切れたのかケロッとしていて話題の中心になるのが嫌なのだろう、自意識過剰かとも思うが想像以上に広まってしまっているのか俺でさえこれだけ視線を集めてヒソヒソと話す声が聞こえてくるのだから本人がいたらもっと酷いことになりそうだ
「あ、あのさ光坂くん」
鈴みたいな女の子らしい声で数人固まって話しかけて来た初めてみる面々が恐る恐るといった感じで尋ねる
「なに?」
声を掛けたはいいが目の前で女の子同士押し問答が始まって埒が明かなそうなのでこちらから話を振った
「あのっ」
「早く言いなよ」
「あのね!うっ、ほづみくんの連絡先が知りたいのっ!」
言いかけた名前を訂正して言っちゃったとばかりに顔を赤らめた先頭の少女と後ろでキャッキャとはしゃがれて面食らう
「お前らなぁー...」
「ちょっと!あんた達が抜け駆けしたってうみくんは相手にしないわよ!」
呆れたビーの声をかき消すように上がった別の声色
「そ、そんな事分かんないじゃない!」
「分かるわよ!色んな女の子と遊んでたってレベルっていうものがあるの、分かる?」
「っ、少しくらい夢見たっていいじゃない!」
ヒートアップしていく会話、俗に言うスクールカースト的なものなのだろうか、初めに話しかけて来た少女達は後からやってきたギラギラ集団に押され気味だがその火の粉が俺に降かかる
「つゆりくんはどう思ってるの!?貴方だってうみくんに見合う女の子が近くにいた方が良いと思うでしょ?」
「おいおい...」
声を張上げた女の子に迫られるというのは中々の大迫力でまさかこんな事を聞かれるとは予想もしていなかった俺は何も言えず仲裁に入ったビーが宥めようと輪に入ってきた
「貴方達はいつも遊んでるんだからほづみくんじゃなくてもいいじゃない!」
「はぁ?お互い様の方が気楽だと思うけど?そーゆー重いのは嫌なんじゃないの?」
「まぁまぁ、俺とかどー?連絡先交か」
「「貴方は黙ってて!」」
和ませる為ヘラヘラと方向転換を狙うも一蹴りされたビーが明らかにしょぼくれていて可哀想になってくる
「で、どうなの!つゆりくん」
「どうなのと言われましても...」
意気消沈している友人をこれ以上頑張らせる訳にはいかず流石にもう無理かと思った時
「お〜お〜、すっげぇな〜大盛況じゃ〜ん」
「無事か、つゆり」
派手な青い髪をサラサラ揺らして呑気に手を振りながら入ってきた人物とその後ろをついて歩く長身
「シイナぁ、えーいち〜」
「ははっ、つゆ瀕死じゃん〜うける〜」
「なんもうけねぇよ」
「拗ねんなって〜、てかビーも死んでね笑うんだけど」
どこぞのギャルなのか俺の頭を肘置きにしているがこのピンチから救い出してくれるならどんな手でも掴みたい状況だ、二人の登場により女の子達は別のざわめきを持つ
「何〜君達、うみ狙ってんの〜?」
「シ、シイナくん」
「でもね〜いい事教えてあげるよ」
程よく制服を着崩したチャラ男はそこそこ女子人気が高くやっぱり3BといえばベースのBなのだろうか、女の子が少しクズに惹かれるみたいな理論が証明されている気分だ
「あいつは恋だの愛だのよりこいつが大切なんだよね〜、勿論俺ら友達なんかよりもね、いや〜寂しいのなんのって」
のらりくらりとスルスル出てくる言葉とニヤケ顔は全くと言っていいほど寂しくなさそうでこういう所は少しあおちゃんに似ている
「下手したら家族よりも、命よりも大切かもな〜」
なーんてなっ、と言いつつもおちゃらけた笑い声に反して声は少し真剣味を帯びていた
「だからさぁ、あんまつゆ困らせてっと〜」
いつもの調子で間延びしたリズムは変わらないのに能天気だった笑顔がシニカルに変わって声色がグッと冷たさを増す
「まっ、分かったよね?じゃ〜解散解散っ、連絡先は本人に聞きなね〜」
「はぁ〜、ありがとシイナ助かった」
パンパンッと叩かれた手に止まった時が動き出してわらわらと散っていく、詰めていた息と肩の力を抜くとどっと疲れが押し寄せた
「おっまえ怖っ、なんか裏でそうやって女に言う事聞かせて...」
「ビーは後で飯奢りな?」
「ベーシストはDVって話ほんとだったのか...」
復活したビーの発言に笑顔が凍りついて同じ偏見を持ってしまった俺は墓場まで心に留めておこうと誓って犠牲になってくれた彼には両手を合わせる
「大丈夫か、つゆり」
後ろで誰が殴ってるだとか何だとか騒がしくじゃれ合い出した二人を傍目に落ち着いた低音で頭に置かれた手に実家に帰ったような安心感が生まれた
「うん、ごめん迷惑かけた」
「全然構わないけど今日は大変そうだから考えといた方がいいぞ」
「あー、うん、そうする」
干渉する訳でもなく突き放す訳でもない付かず離れずの気遣いが心地のいい忠告はすんなり胸に入ってきて調度鳴った予鈴の音に今日一日は慎んで行動しようと心に誓った
(あ"ぁ〜疲れた)
強く構えていた心が折れる程こんなにも人が押し寄せるなんて即行動を起こせる人間が多すぎやしないかと授業中にも関わらず深いため息を吐く
「こーさか、光坂っ」
吐息のような静かな呼び声と背をツンツンと突かれて後ろの席を振り返ると紙切れのようなものを渡された
(俺に?誰が...)
女子が授業中に紙を回してやり取りしているのはたまに見掛けるが自分に回ってくるのは初めてで文字を見て思い当たる人物を探すとニタニタ笑っている人物と目が合ってすぐに犯人の検討はついた
(何だよ)
後数分で授業も終わりやっと学校から解放されるというのに至急伝えなければいけない要件でもあるのかと恐る恐る紙に目を落とすとそこには校門に出待ちらしき女子が集まっているから授業が終わり次第即帰宅しろとのお達しが書かれている
(まじかよ...他校からも来ちゃうの?うみくんファンの熱量凄すぎる...)
ここまでくると感無量である、感謝を込めたサムズアップをビーに送ると同じサインが帰ってきて試合開始のようなチャイムと号令に鞄を持ち上げ逃げるように教室から駆け出したのだった
