鉛色に濁った厚い雲を裂く青白い稲光、地面を打ち付けた雷鳴に細かく窓が震えた
「じゃーなー」
「おーまた明日なー」
授業から解放された生徒達は帰宅するのか部活へ向かうのか、それとも遊びに行くのかそれぞれの行先へ挨拶を交わして向かう
「うみくんごめんっ、今日のホームルーム先生の話長くてさ〜」
「いいよ、どっか寄って帰る?」
「う〜ん、スタバの新作気になってるんだよね〜見てこれ!美味そうじゃね?」
見て見てとスマホ画面を押し出して夏らしいフルーツとたっぷりクリームが乗ったカラフルな飲み物に納得する
「つゆちゃんが好きそう」
「でしょ〜?あ、でも...」
下駄箱からローファーを取り出して校内用のサンダルを仕舞う、先に履き替えたつゆりが空を見上げて不安そうな顔をしていた
「どした?」
「やっぱ今日は雨降りそうだから早く家帰ろ」
「いいの?」
「いつでもいーし大丈夫〜!」
未だに手にしていた相手のスマホを返すように画面に写った広告を主張してみるがどうやら今日は諦めるらしい
「そっか、なら急いで帰」
「うみくん」
横から不意に言葉を遮られて時が止まる
「ちょっといいかな?」
視線を向けた先にいたのはもう会いたくないと思っていた栗色の髪をした少女だった
「はぁ...つゆちゃん雨降らないうちに先帰っててくれる?」
「うん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、これ」
只でさえ天気に沈んだ心が更に憂鬱になって溜息を零すと心配そうに揺れる瞳と目が合って安心させるように家の鍵を預ける
「なるべく早く帰るから」
「わかった」
歩き出した後ろ姿を見送って問題の人物へ向き直ると彼女は何が面白いのかニコニコと貼り付けたような笑顔を浮かべてそれが更に懐疑心を煽った
「要件ならなるべく早く言ってくれる?」
「ふふふっ、そんなに怒らないでよ、私考えたの!」
他人から見てわかる程表情に出てしまっているのかそれとも先を促す態度がそう見えるのかどちらにしても嘘くさい笑顔に良い話を持ってきた訳がなく一刻も早くつゆちゃんの後を追いたかった
「考えた?」
「そう、うみくんをどうしたらその呪縛から解放出来るのか」
「呪縛?」
「そんな格好させる変態趣味の事よ」
呪縛からの解放だとか変態趣味だとか何も分かっていない目の前の人物に呆れて溜息も出ない
「だからこの前も言ったけど俺の好きな子は可愛いものが好きで俺は可愛いと思われていたいんだよ」
「それがおかしいって言ってるの」
小学生でも分かる程単純な話なのに彼女には伝わらないみたいだ
「おかしい?好きな子に笑顔でいて欲しいと思うのはおかしい事かな?」
「そこまでしないと笑顔になれないなんて愛じゃない!不純な動機なのよ!」
糾弾するように声を張上げるがここは昇降口で生徒が疎らにもまだ居る、何事かとチラチラ向けられる視線は同情が混じっていた
「そうかな...好きな子に好かれたいっていうのが下心でそれを不純と呼ぶなら俺の方が変態かもね」
「そうも言ってられないと思うわ」
「何が言いたいの?」
何を言っても無駄だと分かったのか張り合うのはやめて今日一番のにやけた顔を見せる
「私思い付いたの、絶対否定しなければならない噂が立てば貴方はそのままでいられないってね」
「何でそこまで...」
確信を持っているのか自信あり気にスマホを取り出して操作しだした少女が何故ここまでするのか分からなかった
「いいじゃない、心が手に入らないなら身体だけでも思い通りになったらそれでいいの、ほらこれ見て」
薄暗くなってきた中で異様に光を放つ画面を凝視する、呟きや写真を投稿できるアプリで拡散されつつある出鱈目な文章とそこに写る自分
「っ...こんな事して、君が姉さんに会わせてくれるっていうの?」
強く握った掌に爪が食い込んで鈍い痛みが走る、それよりも心臓がドクドクと速さを増していくのを感じた
「あははっ、そんな顔してくれるのね、珍し〜、うみくんいつも表情なんて変えないから」
楽しそうに笑う女、俺とこの人が親密に見える様な隠し撮りと容姿や口車に巧みに騙され裏切られ世間の擁護やバッシングを誘うような悲劇がそこにはある
「ゲイとかホモとかオカマとかそんなの何だっていいんだよ、俺はつゆりが笑っててくれれば」
「うみくんもしかして焦ってるの〜?やっぱり誤解されるのは嫌なんだ、ちょっと寂しいかも〜」
コメント欄は似た様な事例が上がったり叩いたり心配したり、俺からしたら事実無根で被害を被るのは当事者である他所様なのではないだろうか
「にしては嬉しそうだけどね、こんな事しても君の思い通りにはならないよ」
「あらら、バレちゃった?だって〜私にあんな啖呵切ったのに結局足元掬われちゃったみたいで可愛いんだもん」
「はぁ...」
諦めのように溜息を一つ吐いて、言う通り問題なのはつゆりに誤解を与える事、それは払拭しなければならない
「あぁ、楽しみ、嘘も秘密も私の手で剥がれ落ちて白日の元に晒されるのね」
「その時は君も痛い目に合うよ」
これはこいつの理想が叶う訳じゃない、ただあの子の為なら何だって出来るそれだけでその時には君の嘘も剥がれるというのに
「そんな事分かってる、でももう止まれないの」
「そう、じゃあ話はこれで終わりだね」
「行っちゃうの?」
「これ以上話しても意味無いから」
終焉が破滅と分かっていて突き進む捨て身の覚悟を覆せる程言葉巧みじゃない俺はポツポツ降り出した雨の中帰路に向かって歩き出した
(あーわ言ったけど不味いよな...)
雨粒が街頭に照らされてキラキラ降り注ぐのがよく見える、スマホの液晶が濡れて操作が困難になりポケットに仕舞おうとした時薬指の痛さに顔を顰める
(血出てるし)
そんなに強く握り締めていただろうかと驚いたがケータイの縁に滲んでいく赤色に頭が冷えて心のざわめきを強調した
(姉さん...姉さん、俺)
自分は女になりたい訳では無いしデマのように他人を騙して思うように動かしたい訳でもない、いつだって手放そうと思えば出来るはずだったのにいざ行動するとなると姉の存在がこんなにも大きかった事に気付く
「っ」
認識したくない感情がふつふつと湧いて身体を黒く染めていく、喉に熱いものが込み上げてきて押し込むように飲み込んだ
(俺達ってちゃんと泣いたかな...)
足元の影が濃くなった気がした、それは濡れた衣服から落ちた染みなのかそれとも、目頭がジンジンして鼻が詰まる、夏だと言うのに吐いた息が白くなるようだった
「じゃーなー」
「おーまた明日なー」
授業から解放された生徒達は帰宅するのか部活へ向かうのか、それとも遊びに行くのかそれぞれの行先へ挨拶を交わして向かう
「うみくんごめんっ、今日のホームルーム先生の話長くてさ〜」
「いいよ、どっか寄って帰る?」
「う〜ん、スタバの新作気になってるんだよね〜見てこれ!美味そうじゃね?」
見て見てとスマホ画面を押し出して夏らしいフルーツとたっぷりクリームが乗ったカラフルな飲み物に納得する
「つゆちゃんが好きそう」
「でしょ〜?あ、でも...」
下駄箱からローファーを取り出して校内用のサンダルを仕舞う、先に履き替えたつゆりが空を見上げて不安そうな顔をしていた
「どした?」
「やっぱ今日は雨降りそうだから早く家帰ろ」
「いいの?」
「いつでもいーし大丈夫〜!」
未だに手にしていた相手のスマホを返すように画面に写った広告を主張してみるがどうやら今日は諦めるらしい
「そっか、なら急いで帰」
「うみくん」
横から不意に言葉を遮られて時が止まる
「ちょっといいかな?」
視線を向けた先にいたのはもう会いたくないと思っていた栗色の髪をした少女だった
「はぁ...つゆちゃん雨降らないうちに先帰っててくれる?」
「うん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、これ」
只でさえ天気に沈んだ心が更に憂鬱になって溜息を零すと心配そうに揺れる瞳と目が合って安心させるように家の鍵を預ける
「なるべく早く帰るから」
「わかった」
歩き出した後ろ姿を見送って問題の人物へ向き直ると彼女は何が面白いのかニコニコと貼り付けたような笑顔を浮かべてそれが更に懐疑心を煽った
「要件ならなるべく早く言ってくれる?」
「ふふふっ、そんなに怒らないでよ、私考えたの!」
他人から見てわかる程表情に出てしまっているのかそれとも先を促す態度がそう見えるのかどちらにしても嘘くさい笑顔に良い話を持ってきた訳がなく一刻も早くつゆちゃんの後を追いたかった
「考えた?」
「そう、うみくんをどうしたらその呪縛から解放出来るのか」
「呪縛?」
「そんな格好させる変態趣味の事よ」
呪縛からの解放だとか変態趣味だとか何も分かっていない目の前の人物に呆れて溜息も出ない
「だからこの前も言ったけど俺の好きな子は可愛いものが好きで俺は可愛いと思われていたいんだよ」
「それがおかしいって言ってるの」
小学生でも分かる程単純な話なのに彼女には伝わらないみたいだ
「おかしい?好きな子に笑顔でいて欲しいと思うのはおかしい事かな?」
「そこまでしないと笑顔になれないなんて愛じゃない!不純な動機なのよ!」
糾弾するように声を張上げるがここは昇降口で生徒が疎らにもまだ居る、何事かとチラチラ向けられる視線は同情が混じっていた
「そうかな...好きな子に好かれたいっていうのが下心でそれを不純と呼ぶなら俺の方が変態かもね」
「そうも言ってられないと思うわ」
「何が言いたいの?」
何を言っても無駄だと分かったのか張り合うのはやめて今日一番のにやけた顔を見せる
「私思い付いたの、絶対否定しなければならない噂が立てば貴方はそのままでいられないってね」
「何でそこまで...」
確信を持っているのか自信あり気にスマホを取り出して操作しだした少女が何故ここまでするのか分からなかった
「いいじゃない、心が手に入らないなら身体だけでも思い通りになったらそれでいいの、ほらこれ見て」
薄暗くなってきた中で異様に光を放つ画面を凝視する、呟きや写真を投稿できるアプリで拡散されつつある出鱈目な文章とそこに写る自分
「っ...こんな事して、君が姉さんに会わせてくれるっていうの?」
強く握った掌に爪が食い込んで鈍い痛みが走る、それよりも心臓がドクドクと速さを増していくのを感じた
「あははっ、そんな顔してくれるのね、珍し〜、うみくんいつも表情なんて変えないから」
楽しそうに笑う女、俺とこの人が親密に見える様な隠し撮りと容姿や口車に巧みに騙され裏切られ世間の擁護やバッシングを誘うような悲劇がそこにはある
「ゲイとかホモとかオカマとかそんなの何だっていいんだよ、俺はつゆりが笑っててくれれば」
「うみくんもしかして焦ってるの〜?やっぱり誤解されるのは嫌なんだ、ちょっと寂しいかも〜」
コメント欄は似た様な事例が上がったり叩いたり心配したり、俺からしたら事実無根で被害を被るのは当事者である他所様なのではないだろうか
「にしては嬉しそうだけどね、こんな事しても君の思い通りにはならないよ」
「あらら、バレちゃった?だって〜私にあんな啖呵切ったのに結局足元掬われちゃったみたいで可愛いんだもん」
「はぁ...」
諦めのように溜息を一つ吐いて、言う通り問題なのはつゆりに誤解を与える事、それは払拭しなければならない
「あぁ、楽しみ、嘘も秘密も私の手で剥がれ落ちて白日の元に晒されるのね」
「その時は君も痛い目に合うよ」
これはこいつの理想が叶う訳じゃない、ただあの子の為なら何だって出来るそれだけでその時には君の嘘も剥がれるというのに
「そんな事分かってる、でももう止まれないの」
「そう、じゃあ話はこれで終わりだね」
「行っちゃうの?」
「これ以上話しても意味無いから」
終焉が破滅と分かっていて突き進む捨て身の覚悟を覆せる程言葉巧みじゃない俺はポツポツ降り出した雨の中帰路に向かって歩き出した
(あーわ言ったけど不味いよな...)
雨粒が街頭に照らされてキラキラ降り注ぐのがよく見える、スマホの液晶が濡れて操作が困難になりポケットに仕舞おうとした時薬指の痛さに顔を顰める
(血出てるし)
そんなに強く握り締めていただろうかと驚いたがケータイの縁に滲んでいく赤色に頭が冷えて心のざわめきを強調した
(姉さん...姉さん、俺)
自分は女になりたい訳では無いしデマのように他人を騙して思うように動かしたい訳でもない、いつだって手放そうと思えば出来るはずだったのにいざ行動するとなると姉の存在がこんなにも大きかった事に気付く
「っ」
認識したくない感情がふつふつと湧いて身体を黒く染めていく、喉に熱いものが込み上げてきて押し込むように飲み込んだ
(俺達ってちゃんと泣いたかな...)
足元の影が濃くなった気がした、それは濡れた衣服から落ちた染みなのかそれとも、目頭がジンジンして鼻が詰まる、夏だと言うのに吐いた息が白くなるようだった
