「ねぇ〜つゆりくんまだいいじゃん」
お洒落に着崩した制服にくるんっと上がったまつ毛、そのパッチリした丸い目で可愛くお願いされたら大抵の男は断れないかもしれない
「ごめんって、今日は予定あるんだよ、また今度埋め合わせするから!」
眉毛を下げて困った顔をすれば拗ねながらも何だかんだ許してくれる所が愛らしく感じる
でもそれでは俺の中の優先順位は変わらない
「じゃあ今度は絶対カラオケだからね!約束だよ?」
「は〜い、またね!」
軽快なハイタッチの音が響き彼女が立ち去ったのを見届けると急いで帰路につく
(やっべぇ、俺今日夜ご飯作るって約束しちゃったんだよなぁ)
直帰しようにも思わぬ足留めをくらい予定が狂った事を待ち人は知らないだろう、目の前に見えてきた馴染みのあるマンションに駆け込みエントランスを抜けてエレベーターに乗り込む
「ただいま〜」
「〜♪〜♪」
慌ただしく鍵を探して扉を開けると中からギターと微かな歌声が耳に届く
上がった息もそこそこに帰宅を告げ、中から物音と人が近づいてくる気配を待った
「おかえり」
聴こえた曲の余韻を少し寂しく思いながらも毎度律儀に手を止めて出迎えられるのは何度だって心がふわふわとじんわり温まる
「うみくん〜!」
「はいはい」
パパッと靴を脱いで上がり込んだ俺はそのまま一度ギュッと目の前の身体を抱きしめて満更でもなさそうな顔を覗き込む
「俺がご飯作るって言ってたのに遅くなってごめんねぇ」
「いいよ、どうせ女の子にでも捕まってたんでしょ」
「はぁ、バレてるし〜」
走って乱れた髪を梳くように直して呆れた顔のまま踵を返す後ろ姿に続いてリビングに入った
冷房の効いた室内が熱を持った身体を急速に生き返らせる
「おばさんは仕事?」
「うん、今日も夜勤」
「お、じゃあ泊まってってもいい?」
母子家庭で家を空ける事が多いうみくんの母は俺達が幼い頃から自由な人というイメージがあり大抵の事は自分達で何とかできるわよねという放任主義だ
「あー、うん」
「やったぁ」
俺の親も面倒事を起こさない限りは執拗く干渉してくるようなタイプでもないのでこうして自由にやらせてもらっている
「着替えたらカレー作るな〜」
家主からの宿泊の承諾も得られたので手を洗って良さげなTシャツにスウェットに着替えるとカレーの調理に取り掛かった
「つゆちゃん、まぁた俺の服着てるでしょ」
「だめだった?」
「可愛いのでダメじゃない、けど君自分の服も沢山置いてあるよね?」
「ふはっ、可愛いか、まぁそうなんだけど〜、それとこれとは話が違うっていうかさ〜」
思わず笑ってしまったけれど、この家に居ることが当たり前となっている今では自分の家にある服とうみくんの家にある服の量に大差は無くなってきている
「ん〜、何かうみくんの服を手に取っちゃうんだよなぁ」
「はぁー可愛、じゃない...目を惹くとかでいうならこのTシャツなんてその辺に売ってそうだし、なんなら似たようなの持ってるよね?」
「う〜ん、そうじゃなくてね〜、うみくんが着てる事に意味があるんだよ」
掌で顔を覆ったまま固まったと思えば何やらモゴモゴと言っている様子を眺める、色の白くて細い指先、爪の先まで綺麗にデザインされたネイルが更に手を美しく魅せているし肩まで伸びた金髪は緩いウェーブを描いて手入れが行き届いている事を象徴するように天使の輪が浮かんでいる
「うみくん今日のカレーはね、なんと無水カレーです!」
「無水カレー?」
手をずらしてこちらを伺う色素の薄い瞳にフサフサ睫毛、今切っている食材達に目線が落ちて瞼を彩るアイシャドウがはっきり見えると角度によってキラキラ反射して綺麗だ
「無水カレーってさ水使わないわけじゃん、ってことはさ2日目にはもっと美味しくなりそうじゃない?」
「なるほど...」
「あっ、その顔はわかってないだろ〜、ちなみにダイエットにも良いらしいよ?」
鍋に食材を投入しながら横に目をやると落ち着いたのかまだ少し紅さの残る顔でこっちを見るうみくんと目が合った
「へ〜、何か詳しいねつゆちゃん」
「って事で呆けてないで出来る前に着替えてくれば?ていうか何でまだ制服なの」
「...忘れてた、帰ってきた時まだ母さんいて話し込んでてさ、その後ちょっとギター弾こうと思ったら」
「思ったら何時間も経っていたと...別にいいけどカレー付いたら落ちにくいよ、あと皺になる」
ずっと気になっていた事が想定内の事実で少しジトッとした目で見つめると罰の悪そうな顔をしてスカートを翻して自室へ向かう背中を見つめた
(はぁ、見た目は絶世の美女なのに抜けてる所あるんだよなぁ)
やる事の終わった鍋に蓋をしてリビングのソファに横になる、遅れてやってきたうみくんは俺と同じ半袖にスウェットなのに身長の高い女の子にしか見えない
「おつかれさま」
「全然、切って鍋に入れるだけだし」
だらしなく寝そべる俺の頭を軽く撫でてラグの上に座るとソファを背に先程中断されたギターに手を掛けた
「〜♪」
贅沢なBGMを聴きながら読みかけの電子書籍に目通す、一行一行下まで読む度視界の端にキラキラと映る髪がたまに揺れるのが好きで特にお気に入りなのがネックを覗き込む時に邪魔になった髪を耳にかける仕草
(これって変態臭いかな...)
顕になった横顔、シュッとした顎に滑らかな鼻、薄い唇、元々中性的な美形が化粧を施すことにより更に際立つとは正に鬼に金棒である
「鬼か...んー」
「どうしたの?」
「いや、うみくんは鬼じゃなくて人魚姫かなぁって」
「何の話、あと俺姫にはなれないと思うけど」
困惑顔も様になる立派な姫顔だがほぼ上半身裸に近い人魚では男が姫になる事は難しいだろう、本人を置き去りに答えを出してキッチンに向かうと煮詰まったカレーをかき混ぜて食卓に食器や水を用意していく
「完成〜、食べよ!」
「続きが気になるとこだけど、まぁいいか」
勝手に自己完結した話を掘り返す気は無いらしく正面に座って一緒に手を合わせる
「いただきま〜すっ」
「頂きます」
スプーンの上で小さなカレーライスを作って口に運ぶと市販のルーも美味しいけれど普段よりも野菜の美味しさがダイレクトに口に広がる
「うまっ!」
製作者としてはやっぱり消費者の声が気になるものでジッと相手が口に入れるのを見届ける
「ん、美味しい、つゆちゃんカレー作る天才だね」
作ったかいがあると思える大袈裟な程のお褒めの言葉を頂いて味だけじゃなく心も満たされた
「んふふ」
「なに」
「なんでも?」
うみくんはいつも大した事もしてない俺の事を大袈裟に褒めてくれる、擽ったいけど嬉しくて顔がニコニコしてしまうのが分かる
「カレーも美味しいし幸せ〜」
「つゆちゃんが作ってくれるなら毎日カレーでもいいよ」
「うみくん、流石にそれは飽きると思うよ?」
本気なのか嘘なのか分からない顔でそんな事を言うものだから可笑しくてもっと笑ってしまう
うみくんがいる、二人で笑ってご飯を食べる俺達の何の"変哲もない当たり前"の日常
お洒落に着崩した制服にくるんっと上がったまつ毛、そのパッチリした丸い目で可愛くお願いされたら大抵の男は断れないかもしれない
「ごめんって、今日は予定あるんだよ、また今度埋め合わせするから!」
眉毛を下げて困った顔をすれば拗ねながらも何だかんだ許してくれる所が愛らしく感じる
でもそれでは俺の中の優先順位は変わらない
「じゃあ今度は絶対カラオケだからね!約束だよ?」
「は〜い、またね!」
軽快なハイタッチの音が響き彼女が立ち去ったのを見届けると急いで帰路につく
(やっべぇ、俺今日夜ご飯作るって約束しちゃったんだよなぁ)
直帰しようにも思わぬ足留めをくらい予定が狂った事を待ち人は知らないだろう、目の前に見えてきた馴染みのあるマンションに駆け込みエントランスを抜けてエレベーターに乗り込む
「ただいま〜」
「〜♪〜♪」
慌ただしく鍵を探して扉を開けると中からギターと微かな歌声が耳に届く
上がった息もそこそこに帰宅を告げ、中から物音と人が近づいてくる気配を待った
「おかえり」
聴こえた曲の余韻を少し寂しく思いながらも毎度律儀に手を止めて出迎えられるのは何度だって心がふわふわとじんわり温まる
「うみくん〜!」
「はいはい」
パパッと靴を脱いで上がり込んだ俺はそのまま一度ギュッと目の前の身体を抱きしめて満更でもなさそうな顔を覗き込む
「俺がご飯作るって言ってたのに遅くなってごめんねぇ」
「いいよ、どうせ女の子にでも捕まってたんでしょ」
「はぁ、バレてるし〜」
走って乱れた髪を梳くように直して呆れた顔のまま踵を返す後ろ姿に続いてリビングに入った
冷房の効いた室内が熱を持った身体を急速に生き返らせる
「おばさんは仕事?」
「うん、今日も夜勤」
「お、じゃあ泊まってってもいい?」
母子家庭で家を空ける事が多いうみくんの母は俺達が幼い頃から自由な人というイメージがあり大抵の事は自分達で何とかできるわよねという放任主義だ
「あー、うん」
「やったぁ」
俺の親も面倒事を起こさない限りは執拗く干渉してくるようなタイプでもないのでこうして自由にやらせてもらっている
「着替えたらカレー作るな〜」
家主からの宿泊の承諾も得られたので手を洗って良さげなTシャツにスウェットに着替えるとカレーの調理に取り掛かった
「つゆちゃん、まぁた俺の服着てるでしょ」
「だめだった?」
「可愛いのでダメじゃない、けど君自分の服も沢山置いてあるよね?」
「ふはっ、可愛いか、まぁそうなんだけど〜、それとこれとは話が違うっていうかさ〜」
思わず笑ってしまったけれど、この家に居ることが当たり前となっている今では自分の家にある服とうみくんの家にある服の量に大差は無くなってきている
「ん〜、何かうみくんの服を手に取っちゃうんだよなぁ」
「はぁー可愛、じゃない...目を惹くとかでいうならこのTシャツなんてその辺に売ってそうだし、なんなら似たようなの持ってるよね?」
「う〜ん、そうじゃなくてね〜、うみくんが着てる事に意味があるんだよ」
掌で顔を覆ったまま固まったと思えば何やらモゴモゴと言っている様子を眺める、色の白くて細い指先、爪の先まで綺麗にデザインされたネイルが更に手を美しく魅せているし肩まで伸びた金髪は緩いウェーブを描いて手入れが行き届いている事を象徴するように天使の輪が浮かんでいる
「うみくん今日のカレーはね、なんと無水カレーです!」
「無水カレー?」
手をずらしてこちらを伺う色素の薄い瞳にフサフサ睫毛、今切っている食材達に目線が落ちて瞼を彩るアイシャドウがはっきり見えると角度によってキラキラ反射して綺麗だ
「無水カレーってさ水使わないわけじゃん、ってことはさ2日目にはもっと美味しくなりそうじゃない?」
「なるほど...」
「あっ、その顔はわかってないだろ〜、ちなみにダイエットにも良いらしいよ?」
鍋に食材を投入しながら横に目をやると落ち着いたのかまだ少し紅さの残る顔でこっちを見るうみくんと目が合った
「へ〜、何か詳しいねつゆちゃん」
「って事で呆けてないで出来る前に着替えてくれば?ていうか何でまだ制服なの」
「...忘れてた、帰ってきた時まだ母さんいて話し込んでてさ、その後ちょっとギター弾こうと思ったら」
「思ったら何時間も経っていたと...別にいいけどカレー付いたら落ちにくいよ、あと皺になる」
ずっと気になっていた事が想定内の事実で少しジトッとした目で見つめると罰の悪そうな顔をしてスカートを翻して自室へ向かう背中を見つめた
(はぁ、見た目は絶世の美女なのに抜けてる所あるんだよなぁ)
やる事の終わった鍋に蓋をしてリビングのソファに横になる、遅れてやってきたうみくんは俺と同じ半袖にスウェットなのに身長の高い女の子にしか見えない
「おつかれさま」
「全然、切って鍋に入れるだけだし」
だらしなく寝そべる俺の頭を軽く撫でてラグの上に座るとソファを背に先程中断されたギターに手を掛けた
「〜♪」
贅沢なBGMを聴きながら読みかけの電子書籍に目通す、一行一行下まで読む度視界の端にキラキラと映る髪がたまに揺れるのが好きで特にお気に入りなのがネックを覗き込む時に邪魔になった髪を耳にかける仕草
(これって変態臭いかな...)
顕になった横顔、シュッとした顎に滑らかな鼻、薄い唇、元々中性的な美形が化粧を施すことにより更に際立つとは正に鬼に金棒である
「鬼か...んー」
「どうしたの?」
「いや、うみくんは鬼じゃなくて人魚姫かなぁって」
「何の話、あと俺姫にはなれないと思うけど」
困惑顔も様になる立派な姫顔だがほぼ上半身裸に近い人魚では男が姫になる事は難しいだろう、本人を置き去りに答えを出してキッチンに向かうと煮詰まったカレーをかき混ぜて食卓に食器や水を用意していく
「完成〜、食べよ!」
「続きが気になるとこだけど、まぁいいか」
勝手に自己完結した話を掘り返す気は無いらしく正面に座って一緒に手を合わせる
「いただきま〜すっ」
「頂きます」
スプーンの上で小さなカレーライスを作って口に運ぶと市販のルーも美味しいけれど普段よりも野菜の美味しさがダイレクトに口に広がる
「うまっ!」
製作者としてはやっぱり消費者の声が気になるものでジッと相手が口に入れるのを見届ける
「ん、美味しい、つゆちゃんカレー作る天才だね」
作ったかいがあると思える大袈裟な程のお褒めの言葉を頂いて味だけじゃなく心も満たされた
「んふふ」
「なに」
「なんでも?」
うみくんはいつも大した事もしてない俺の事を大袈裟に褒めてくれる、擽ったいけど嬉しくて顔がニコニコしてしまうのが分かる
「カレーも美味しいし幸せ〜」
「つゆちゃんが作ってくれるなら毎日カレーでもいいよ」
「うみくん、流石にそれは飽きると思うよ?」
本気なのか嘘なのか分からない顔でそんな事を言うものだから可笑しくてもっと笑ってしまう
うみくんがいる、二人で笑ってご飯を食べる俺達の何の"変哲もない当たり前"の日常
