「つゆり〜!今日は絶好調だったなぁ〜!」
「お〜!見たか!これが愛の力さ」
「なんだよそれー!」
宣言通り見事シュートを決め有言実行を果たした俺が仲間だった奴らとハイタッチを交わした頃、笛の音を合図に決まった配置に整列した
「はーい、じゃーこれで終わりな〜、遅刻した八月一日と光坂は倉庫にボール片付けてから職員室に鍵返しに来てくれー、それじゃ挨拶」
「礼ー」
「「ありがとうございましたー」」
突然名指しで挙げられた自身の名字に驚きながらも流れに従って頭を下げる
「よろしくなー」
「はーい」
明るく返事をする俺と横で嫌々鍵を受け取っているうみくんで校庭に散らばるサッカーボールを集める
「やっば、雨降ってきた」
ポツッと冷たい水滴が頬に落ちてきて重い雨雲がどんどん暗さを増していく
「おっも!」
「ふはっ、雨えぐ」
「ちょ、つゆちゃん何笑ってんの!」
二人で青いパイプのボールかごをせっせこ押していると段々雨脚が強くなってあっという間に濡れ鼠に大変身だ、最悪を通り越して面白くなってくる
「はぁー、濡れたぁ〜!」
「何で嬉しそうなの」
「パンツまで濡れたかも〜」
バケツをひっくり返したような雨は倉庫に着くなり弱まった気がして遅刻の罰なのかそれともただの不運なのか朝に弱い俺はニュースの星座占いを見る習慣が無い事をちょっぴり悔やんだ
「俺の話聞いてる?」
「だってさぁいつも何だって完璧なうみくんにもこーゆー事はちゃんと起きるんだなぁって」
二人してずぶ濡れで運すら味方に付けてそうなこの美形が普段のスマートさの欠片も無い仕打ちを受けていてケタケタ笑いが止まらない
「俺だって雨の中走ったら濡れるよ」
「はぁ、そりゃそ〜だよね」
「楽しそうだね」
震わせ過ぎた横隔膜が痛いが一息ついて呆れた目で見られていることに気付く、人の不幸を笑うのも同じ立場なら許されないだろうか
「楽し〜よ?」
「さっきもずっと楽しそうだった」
さっきとは授業中の事しか思い付かないのでそれだと勝手に決め付けて話を進める
「全部うみくんがいるからだよ?」
「俺?」
不思議そうに首を傾げる理由は自分は一緒にサッカーをしていたわけじゃない所から来ているのだとしたら大間違いだ
「ねぇ、俺かっこよかったっしょ?ちゃんとゴール決めたし」
「うん、かっこよかった、つゆちゃんこそなんでも出来る癖に」
「やったぁ〜!俺はいいのっ」
純粋にイケメンにかっこいいと言われるのは気分がいいな、なんて馬鹿な事を考えながらまだ納得のいっていなそうな顔を見る
「ご機嫌だね」
「うんっ!だってうみくんがいれば俺の人生、頑張る事もトラブルも笑ってられるって事だよ?それって俺の中でうみくんが一番大切で必要不可欠な人って事になるよね」
こんな当たり前の事の何処が不満なのか俺からするとこうやって生まれる感情の一つ一つが嬉しくて堪らないのだがうみくんはそうではないのかも知れない
「大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと愛が過多で脳が処理落ちしてた」
「重いって事!?」
思った事はちゃんと口に出すべきと最近学んだのでそのまま言葉にしてみたのだが何処か違ったのかと不安になって無言を断ち切るように問い掛けると独特の言い回しが距離を取られていたのかと心配になった
「違うよ、つゆちゃんが重いんじゃなくてそこから発生した俺の中の話」
「なるほど」
愛に溢れて脳がパンクするなんてとっても素敵なのではないだろうか、ここまでの会話全て惚気の痴話喧嘩なのではなんて思えてきてやっぱり馬鹿なのかもしれない
「とりあえずさっきの土砂降りよりはマシになったし今のうちに校舎戻ろう」
「うん」
濡れたままここにいては馬鹿でも風邪を引いてしまうかもしれないのでその提案には賛成だった
「つゆちゃんもっとこっちおいで」
倉庫に鍵をかけてお気持ち程度の屋根の下でいつ行くかタイミングを伺っているとジャージを脱いで傘のように頭上に広げた腕の下に入る
「うみくん何か身長伸びた?」
「ちょっと伸びたかも」
これだけの近距離で並んで立てば目線が少し上に移動したことにも気付いて視線が頭と顔を行き来していた
「っ」
高校生だしまだ伸びるか何て呑気に眺めていたら水も滴るいい男、いや女か?水も滴るいい女装男子の顔が目前に迫ってチュッと触れるだけのバードキスは雨に濡れたからか冷たかった
「体育出たから」
「そーゆーのは帰ってから!」
「つゆちゃんがそれ言うんだ、誰も見てないよ」
ジャージに覆われて傍から見れば誰が何をしていても分からないかもしれないがそういうスマートイケメンな部分を突然出されると心臓が煩いので辞めて欲しい
「足元滑らないように気を付けて」
「うみくんもね、せーので行こ」
「「せーのっ」」
バシャッと勢いよく踏み出した足がたまに水溜まりなんかを跳ねさせてワ〜とか濡れた〜とか仲良く校舎まで走り抜けた
「はぁはぁ、ハハッ」
「うわぁ、ほんとに酷い」
「これは流石にタオル欲しいね〜保健室いく?」
今日はよく走る日だなぁ、と息を切らしながら膝に手をついて水滴が落ちる毛先を見る、一度全身を拭いてから着替えなければ制服まで濡れてしまいそうだ
「くしゅんッ」
「つゆちゃん風邪ひかないでよ」
「うぅん、ありがと〜」
グズグズ鼻を鳴らす俺の肩にふんわりと掛けられたジャージが寒さを少しだけ緩和して鼻先を擦りながらお礼する
「おわっ、雨に濡れた女子はっけーん」
「まじ!?何色何色っ」
先に保健室に向かおうか職員室に鍵を返すべきか悩んでる間にジロジロと不躾な視線と能天気な言動が届いてきてどうしてこんなにも自分含め男というのは馬鹿なのかガッカリした
「ていうか誰、ブスとデブはちょっと...」
「顔よく見えないけどあれは美女だぞ」
いくらうみくんが男だとしても不愉快極まりない発言に腹が立ってしまうので折角掛けてもらったジャージを抱きしめるように回してその背を隠す
「うみくん着てて」
「はぁ?一緒にいんの彼氏かー、何かチビじゃね」
「いや、あれは女が高いんじゃない?」
「デカ女かぁ、俺小柄な子が好きなんだよなぁ」
自分達の思うように事が進まなかったのが気に触ったのか当て付けのようにポンポン飛び出す全てが気に入らず一言言ってやろうかと一歩踏み出すと腕を冷たい手に掴まれた
「待ってつゆちゃん」
グッとジャージの袖口で薄れていたリップを完全に拭ってから脱ぐと再び俺の肩に戻して白く冷たくなった手の甲で瞼を擦る
「ちょ、何やって」
「大丈夫だから、待ってて」
異常事態に頭が追い付かずその光景を眺めるしかできない俺の頭を優しくポンポン撫でてそのまま自分の髪を掻き上げた
「は?お、男?」
「君達1年生?」
「は、はい!」
方向転換して好き勝手騒いでくれた生徒達に近付いて行くと最初はまだあれ?っと疑問を持つくらいだったのが声を掛ければ面白いくらいの動揺を感じて少し同情する
「そー、ごめんね俺男なんだよね、もっと見る?何なら濡れてるし脱ごうか」
自分が美女だと思ってた人間が目の前に来たら自分より高い身長で俗に言う壁ドンをされながら低い声で迫られ襟元から胸部を見せ付けられる体験とはどんな心境なのだろう
「いや、大丈夫です!すみませんでした!」
「分かったならいいや、口は災いの元だから気を付けた方がいいよ、女の子が好きなら尚更ね」
「気を付けます!失礼します!」
美形の圧力とは凄まじいもので後輩達は慌てて去って行き、これからそのお調子者な部分を少しは自重して生活してくれるだろうかと考える
「いいなぁ〜俺でもうみくんに壁ドンされた事ないのに〜」
「されたいの?」
「されたぁ〜い、それよりよかったの?メイク落として」
「気が向いたらね、化粧は道具持ってきてるから後でするよ」
ハプニングが起きても何処かスッキリした面持ちのうみくんを見てこれで良かったんだと思う、その後職員室や廊下で目撃した生徒の爆発的噂になったのは言うまでもない、特に下級生からの人気がさらに上がったとか何とか...
「お〜!見たか!これが愛の力さ」
「なんだよそれー!」
宣言通り見事シュートを決め有言実行を果たした俺が仲間だった奴らとハイタッチを交わした頃、笛の音を合図に決まった配置に整列した
「はーい、じゃーこれで終わりな〜、遅刻した八月一日と光坂は倉庫にボール片付けてから職員室に鍵返しに来てくれー、それじゃ挨拶」
「礼ー」
「「ありがとうございましたー」」
突然名指しで挙げられた自身の名字に驚きながらも流れに従って頭を下げる
「よろしくなー」
「はーい」
明るく返事をする俺と横で嫌々鍵を受け取っているうみくんで校庭に散らばるサッカーボールを集める
「やっば、雨降ってきた」
ポツッと冷たい水滴が頬に落ちてきて重い雨雲がどんどん暗さを増していく
「おっも!」
「ふはっ、雨えぐ」
「ちょ、つゆちゃん何笑ってんの!」
二人で青いパイプのボールかごをせっせこ押していると段々雨脚が強くなってあっという間に濡れ鼠に大変身だ、最悪を通り越して面白くなってくる
「はぁー、濡れたぁ〜!」
「何で嬉しそうなの」
「パンツまで濡れたかも〜」
バケツをひっくり返したような雨は倉庫に着くなり弱まった気がして遅刻の罰なのかそれともただの不運なのか朝に弱い俺はニュースの星座占いを見る習慣が無い事をちょっぴり悔やんだ
「俺の話聞いてる?」
「だってさぁいつも何だって完璧なうみくんにもこーゆー事はちゃんと起きるんだなぁって」
二人してずぶ濡れで運すら味方に付けてそうなこの美形が普段のスマートさの欠片も無い仕打ちを受けていてケタケタ笑いが止まらない
「俺だって雨の中走ったら濡れるよ」
「はぁ、そりゃそ〜だよね」
「楽しそうだね」
震わせ過ぎた横隔膜が痛いが一息ついて呆れた目で見られていることに気付く、人の不幸を笑うのも同じ立場なら許されないだろうか
「楽し〜よ?」
「さっきもずっと楽しそうだった」
さっきとは授業中の事しか思い付かないのでそれだと勝手に決め付けて話を進める
「全部うみくんがいるからだよ?」
「俺?」
不思議そうに首を傾げる理由は自分は一緒にサッカーをしていたわけじゃない所から来ているのだとしたら大間違いだ
「ねぇ、俺かっこよかったっしょ?ちゃんとゴール決めたし」
「うん、かっこよかった、つゆちゃんこそなんでも出来る癖に」
「やったぁ〜!俺はいいのっ」
純粋にイケメンにかっこいいと言われるのは気分がいいな、なんて馬鹿な事を考えながらまだ納得のいっていなそうな顔を見る
「ご機嫌だね」
「うんっ!だってうみくんがいれば俺の人生、頑張る事もトラブルも笑ってられるって事だよ?それって俺の中でうみくんが一番大切で必要不可欠な人って事になるよね」
こんな当たり前の事の何処が不満なのか俺からするとこうやって生まれる感情の一つ一つが嬉しくて堪らないのだがうみくんはそうではないのかも知れない
「大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと愛が過多で脳が処理落ちしてた」
「重いって事!?」
思った事はちゃんと口に出すべきと最近学んだのでそのまま言葉にしてみたのだが何処か違ったのかと不安になって無言を断ち切るように問い掛けると独特の言い回しが距離を取られていたのかと心配になった
「違うよ、つゆちゃんが重いんじゃなくてそこから発生した俺の中の話」
「なるほど」
愛に溢れて脳がパンクするなんてとっても素敵なのではないだろうか、ここまでの会話全て惚気の痴話喧嘩なのではなんて思えてきてやっぱり馬鹿なのかもしれない
「とりあえずさっきの土砂降りよりはマシになったし今のうちに校舎戻ろう」
「うん」
濡れたままここにいては馬鹿でも風邪を引いてしまうかもしれないのでその提案には賛成だった
「つゆちゃんもっとこっちおいで」
倉庫に鍵をかけてお気持ち程度の屋根の下でいつ行くかタイミングを伺っているとジャージを脱いで傘のように頭上に広げた腕の下に入る
「うみくん何か身長伸びた?」
「ちょっと伸びたかも」
これだけの近距離で並んで立てば目線が少し上に移動したことにも気付いて視線が頭と顔を行き来していた
「っ」
高校生だしまだ伸びるか何て呑気に眺めていたら水も滴るいい男、いや女か?水も滴るいい女装男子の顔が目前に迫ってチュッと触れるだけのバードキスは雨に濡れたからか冷たかった
「体育出たから」
「そーゆーのは帰ってから!」
「つゆちゃんがそれ言うんだ、誰も見てないよ」
ジャージに覆われて傍から見れば誰が何をしていても分からないかもしれないがそういうスマートイケメンな部分を突然出されると心臓が煩いので辞めて欲しい
「足元滑らないように気を付けて」
「うみくんもね、せーので行こ」
「「せーのっ」」
バシャッと勢いよく踏み出した足がたまに水溜まりなんかを跳ねさせてワ〜とか濡れた〜とか仲良く校舎まで走り抜けた
「はぁはぁ、ハハッ」
「うわぁ、ほんとに酷い」
「これは流石にタオル欲しいね〜保健室いく?」
今日はよく走る日だなぁ、と息を切らしながら膝に手をついて水滴が落ちる毛先を見る、一度全身を拭いてから着替えなければ制服まで濡れてしまいそうだ
「くしゅんッ」
「つゆちゃん風邪ひかないでよ」
「うぅん、ありがと〜」
グズグズ鼻を鳴らす俺の肩にふんわりと掛けられたジャージが寒さを少しだけ緩和して鼻先を擦りながらお礼する
「おわっ、雨に濡れた女子はっけーん」
「まじ!?何色何色っ」
先に保健室に向かおうか職員室に鍵を返すべきか悩んでる間にジロジロと不躾な視線と能天気な言動が届いてきてどうしてこんなにも自分含め男というのは馬鹿なのかガッカリした
「ていうか誰、ブスとデブはちょっと...」
「顔よく見えないけどあれは美女だぞ」
いくらうみくんが男だとしても不愉快極まりない発言に腹が立ってしまうので折角掛けてもらったジャージを抱きしめるように回してその背を隠す
「うみくん着てて」
「はぁ?一緒にいんの彼氏かー、何かチビじゃね」
「いや、あれは女が高いんじゃない?」
「デカ女かぁ、俺小柄な子が好きなんだよなぁ」
自分達の思うように事が進まなかったのが気に触ったのか当て付けのようにポンポン飛び出す全てが気に入らず一言言ってやろうかと一歩踏み出すと腕を冷たい手に掴まれた
「待ってつゆちゃん」
グッとジャージの袖口で薄れていたリップを完全に拭ってから脱ぐと再び俺の肩に戻して白く冷たくなった手の甲で瞼を擦る
「ちょ、何やって」
「大丈夫だから、待ってて」
異常事態に頭が追い付かずその光景を眺めるしかできない俺の頭を優しくポンポン撫でてそのまま自分の髪を掻き上げた
「は?お、男?」
「君達1年生?」
「は、はい!」
方向転換して好き勝手騒いでくれた生徒達に近付いて行くと最初はまだあれ?っと疑問を持つくらいだったのが声を掛ければ面白いくらいの動揺を感じて少し同情する
「そー、ごめんね俺男なんだよね、もっと見る?何なら濡れてるし脱ごうか」
自分が美女だと思ってた人間が目の前に来たら自分より高い身長で俗に言う壁ドンをされながら低い声で迫られ襟元から胸部を見せ付けられる体験とはどんな心境なのだろう
「いや、大丈夫です!すみませんでした!」
「分かったならいいや、口は災いの元だから気を付けた方がいいよ、女の子が好きなら尚更ね」
「気を付けます!失礼します!」
美形の圧力とは凄まじいもので後輩達は慌てて去って行き、これからそのお調子者な部分を少しは自重して生活してくれるだろうかと考える
「いいなぁ〜俺でもうみくんに壁ドンされた事ないのに〜」
「されたいの?」
「されたぁ〜い、それよりよかったの?メイク落として」
「気が向いたらね、化粧は道具持ってきてるから後でするよ」
ハプニングが起きても何処かスッキリした面持ちのうみくんを見てこれで良かったんだと思う、その後職員室や廊下で目撃した生徒の爆発的噂になったのは言うまでもない、特に下級生からの人気がさらに上がったとか何とか...
