苺味の飴がカラカラ口内を行き来して溶けてゆく甘さもろくに頭に届かずただ無心でネットニュースをスクロールする
「いつにも増してぼーっとしてんなぁ」
文の上を滑り続ける目は頭上から降ってきて言葉一つで動きを止めて緩慢な動きで声の発端を見上げた
「ねぇ、もしも他人にバレたら批難されるような事が幸せな関係だとしたらビーはどうする?」
ずっと考えていたのはその事で渡り廊下でノートを落とした時から感じる嫌な予感、わざとらしくこちらに聞こえるように放たれた声とチラッと見えた横顔が頭から離れない
「唐突に重い質問すぎない?何ついに不倫でもしてんの?本当に美人人妻に飼われてんの?」
「いや、違うけど」
「まぁその批難ってーのがどの類か分からねぇーけど周りが叩く事が全て悪とは言えねーし大体が他人に迷惑なんて掛けてねぇだろ好き勝手言ってるだけでさ」
「お前ってやっぱ良い奴だよな」
確かに俺達は他人に迷惑を掛けていない、二人の間で大切にしたいものがあるだけだ
「おーいつゆりぃ、お前に用事あんだってー」
自身の名前が呼ばれた事によって反射的に振り返ると入口に小柄な少女が立っている
「俺行ってくる」
「おー」
ビーに一声かけて立ち上がると嫌な予感がぐんぐん膨れ上がるような警告音を振り払うようにフワフワ揺れる栗色の髪を追いかけた
「迷惑なの!とっても」
是非とも数分前に戻って自分の見解を撤回したい
つゆりくんですよね、とタレ目をさらに垂れさせて笑っていたのも瞬く間に俺が相槌を打つ打たない関係なしの力説が始まる
「は、はあ」
「貴方がいるとうみくんが自由になれないでしょ?」
「うみくんが自由じゃない、と」
一方的に意見を押し付けられると気圧されてそれが正解のような雰囲気になるので実質俺の意見は求めていないんだと思った
「うみくんって呼ばないでっ」
「うみ?」
「呼び捨てなんてっ...そもそも貴方は許されないと思わないの?」
「許されない...」
まさか名前を呼ぶことすら地雷だったとは続けて彼女を怒らせてしまったらしいのできっと俺は爆弾処理班にはなれないだろう
(ホストって凄いよなぁ)
毎日毎日数多の女の子を相手にして時には綱渡りのような場面を潜り抜けているなんてまだ出会ったことの無いプロの方々に尊敬の念を飛ばす
「その顔じゃ分かってないみたいね貴方のせいでどれだけうみくんが辛い思いをしているのか」
「そんな事を言ってる貴方は分かっているんですか?」
反論できるものならしてみなさいよ、とでも言うような呆れを含んだ問に逆に質問を返してみる
「当たり前じゃない、私が知らない事なんて何も無いのよ、化粧品から柔軟剤、持っている文房具、キーホルダー、お洋服全部お揃いなんだから」
(おぉっと...それはストーカーなんじゃないか?)
普段目に見える物はいいとして柔軟剤なんかはどうやって知ったのだろうか、恐ろしくて聞く気にもなれない
「私うみくんの事大好きなの、全部知りたい分かりたい、そして愛されたい」
「それで俺にどうしろと」
胸の前で手を組んで願うように言葉を唱える、直球な台詞なのに何故かとても冷静な自分がいた
「私、うみくんは本当に優しいと思うの」
今彼女の瞼にはうみくんが映っているのだろうか、さっきまでの刺々しい物言いが和らいでふわりと口角を上げる
「だから貴方がいる限りその優しさに漬け込んで彼の愛を独り占めしているとも思うの」
確かにうみくんは優しい、それには同意出来るが俺がその優しさを利用していると思われているらしい
(うーん、どうしたものか...)
否定した所で聞く耳を持ってくれる気がしないので次の言葉に耳を傾けた
「しかもそれは不健全な方向で表現されてる、それで本当にいいの?」
続いて出た言葉に眉がピクリと反応する、不健全とはどういう事だろうか初めに浮かんだ考えはそんな訳ないと霧散され本当にいいのか問われてもその詳細が分からないとなんとも言えない
「私お兄ちゃんがいてね、知ってるの」
「お兄さん...」
「そう、兄さん八月一日あおいと同級生だったの、うみくんのお姉さんでしょ?貴方は彼女を好きだった」
兄がいると聞いた時から薄々感じていた予感は的中して、前に彼女を好きだと言っていた男子生徒が彼女は俺達と同じ中学だと言っていたのと話の流れで全てを知っていると自信満々に言い切る素振りから有り得る話だった
「そんな事を持ち出して何がしたいの」
「別に何かしたい訳じゃないの、今も彼を通して彼女を見ている貴方が気に入らないだけ」
「そんな事っ」
頭に血が上る感覚がした、ただ図星を突かれただけじゃなく彼女の口から軽々しくその話題に触れてほしくなかったから
「ないって言えるの?100%?そんなの嘘、だってうみくんも貴方に彼女を見て欲しいんだもの」
断言するように告げられた言葉を否定できる理由が何も無い
「もう辞めたら?うみくんが可哀想よ、貴方がいる事で彼の人生を縛っていると思わないの?」
「思わない...思わないし、うっ、彼だって思ってない」
名前を言いかけて訂正する、確かに俺達の関係は傍から見たら歪かもしれないし不健全なのかもしれないそれでも彼女がいたことを足枷なんて、ましてや無かった事にしたいなんて思わないとそれだけははっきり言えた
「どうしてそう言い切れるの?貴方のその傲慢な考えが彼に強要してると思わないなんて」
「強要なんてしてない」
「そういう所が優しさに漬け込んでるって言うのよ!あんな格好して幼馴染を励ます健気な少年を見て悦に浸って本当に最低、変態っ!返してよっ!!私は彼をずっと見てたの!中学の時からずっと!」
これは二人だけの相違ない結果であり暗黙の了解になっていて改めて問い質されると繋がっていたつもりになっていたのかもしれないなんて心が揺れる
「声が好き、顔が好き、性格も全部が好き、全てをぶち壊してるのは貴方よ!彼を世間一般から遠ざけて誰も近寄れないようにしてるの、私はそんな彼を助けてあげたい」
真っ直ぐな思いが彼を陽の元に連れ出そうと懸命に訴えて俺が今までずっと彼を陰から出ないようにしてきたのだろうか、そしてその罰としてうみくんを取り上げられ独り陰に取り残されるのだろうか
「だから迷惑なのよ、私は"彼"を愛したいのに貴方がいるといつまで経っても彼はあのまま」
「愛...」
足先から頭のてっぺんまで黒く塗り潰されて彼女の言う愛がどんなものなのか、それを与えられたらうみくんは幸せになれるのか考えた
「これ以上彼に嘘をつかせ続けないで...不純な動機で傷つけないで、彼を穢さないで」
黒く染った身体に言葉が吸収されて黒さを増す、もう何も言えなかった口を開いたらこの黒い塊が飛び出てきそうで怖くなったから
「じゃっ、それだけだから」
言いたいことは全て言ったとスッキリした顔で背を向けて颯爽と去っていく後ろ姿を何も見えなくなるまで呆然と眺めていた
「いつにも増してぼーっとしてんなぁ」
文の上を滑り続ける目は頭上から降ってきて言葉一つで動きを止めて緩慢な動きで声の発端を見上げた
「ねぇ、もしも他人にバレたら批難されるような事が幸せな関係だとしたらビーはどうする?」
ずっと考えていたのはその事で渡り廊下でノートを落とした時から感じる嫌な予感、わざとらしくこちらに聞こえるように放たれた声とチラッと見えた横顔が頭から離れない
「唐突に重い質問すぎない?何ついに不倫でもしてんの?本当に美人人妻に飼われてんの?」
「いや、違うけど」
「まぁその批難ってーのがどの類か分からねぇーけど周りが叩く事が全て悪とは言えねーし大体が他人に迷惑なんて掛けてねぇだろ好き勝手言ってるだけでさ」
「お前ってやっぱ良い奴だよな」
確かに俺達は他人に迷惑を掛けていない、二人の間で大切にしたいものがあるだけだ
「おーいつゆりぃ、お前に用事あんだってー」
自身の名前が呼ばれた事によって反射的に振り返ると入口に小柄な少女が立っている
「俺行ってくる」
「おー」
ビーに一声かけて立ち上がると嫌な予感がぐんぐん膨れ上がるような警告音を振り払うようにフワフワ揺れる栗色の髪を追いかけた
「迷惑なの!とっても」
是非とも数分前に戻って自分の見解を撤回したい
つゆりくんですよね、とタレ目をさらに垂れさせて笑っていたのも瞬く間に俺が相槌を打つ打たない関係なしの力説が始まる
「は、はあ」
「貴方がいるとうみくんが自由になれないでしょ?」
「うみくんが自由じゃない、と」
一方的に意見を押し付けられると気圧されてそれが正解のような雰囲気になるので実質俺の意見は求めていないんだと思った
「うみくんって呼ばないでっ」
「うみ?」
「呼び捨てなんてっ...そもそも貴方は許されないと思わないの?」
「許されない...」
まさか名前を呼ぶことすら地雷だったとは続けて彼女を怒らせてしまったらしいのできっと俺は爆弾処理班にはなれないだろう
(ホストって凄いよなぁ)
毎日毎日数多の女の子を相手にして時には綱渡りのような場面を潜り抜けているなんてまだ出会ったことの無いプロの方々に尊敬の念を飛ばす
「その顔じゃ分かってないみたいね貴方のせいでどれだけうみくんが辛い思いをしているのか」
「そんな事を言ってる貴方は分かっているんですか?」
反論できるものならしてみなさいよ、とでも言うような呆れを含んだ問に逆に質問を返してみる
「当たり前じゃない、私が知らない事なんて何も無いのよ、化粧品から柔軟剤、持っている文房具、キーホルダー、お洋服全部お揃いなんだから」
(おぉっと...それはストーカーなんじゃないか?)
普段目に見える物はいいとして柔軟剤なんかはどうやって知ったのだろうか、恐ろしくて聞く気にもなれない
「私うみくんの事大好きなの、全部知りたい分かりたい、そして愛されたい」
「それで俺にどうしろと」
胸の前で手を組んで願うように言葉を唱える、直球な台詞なのに何故かとても冷静な自分がいた
「私、うみくんは本当に優しいと思うの」
今彼女の瞼にはうみくんが映っているのだろうか、さっきまでの刺々しい物言いが和らいでふわりと口角を上げる
「だから貴方がいる限りその優しさに漬け込んで彼の愛を独り占めしているとも思うの」
確かにうみくんは優しい、それには同意出来るが俺がその優しさを利用していると思われているらしい
(うーん、どうしたものか...)
否定した所で聞く耳を持ってくれる気がしないので次の言葉に耳を傾けた
「しかもそれは不健全な方向で表現されてる、それで本当にいいの?」
続いて出た言葉に眉がピクリと反応する、不健全とはどういう事だろうか初めに浮かんだ考えはそんな訳ないと霧散され本当にいいのか問われてもその詳細が分からないとなんとも言えない
「私お兄ちゃんがいてね、知ってるの」
「お兄さん...」
「そう、兄さん八月一日あおいと同級生だったの、うみくんのお姉さんでしょ?貴方は彼女を好きだった」
兄がいると聞いた時から薄々感じていた予感は的中して、前に彼女を好きだと言っていた男子生徒が彼女は俺達と同じ中学だと言っていたのと話の流れで全てを知っていると自信満々に言い切る素振りから有り得る話だった
「そんな事を持ち出して何がしたいの」
「別に何かしたい訳じゃないの、今も彼を通して彼女を見ている貴方が気に入らないだけ」
「そんな事っ」
頭に血が上る感覚がした、ただ図星を突かれただけじゃなく彼女の口から軽々しくその話題に触れてほしくなかったから
「ないって言えるの?100%?そんなの嘘、だってうみくんも貴方に彼女を見て欲しいんだもの」
断言するように告げられた言葉を否定できる理由が何も無い
「もう辞めたら?うみくんが可哀想よ、貴方がいる事で彼の人生を縛っていると思わないの?」
「思わない...思わないし、うっ、彼だって思ってない」
名前を言いかけて訂正する、確かに俺達の関係は傍から見たら歪かもしれないし不健全なのかもしれないそれでも彼女がいたことを足枷なんて、ましてや無かった事にしたいなんて思わないとそれだけははっきり言えた
「どうしてそう言い切れるの?貴方のその傲慢な考えが彼に強要してると思わないなんて」
「強要なんてしてない」
「そういう所が優しさに漬け込んでるって言うのよ!あんな格好して幼馴染を励ます健気な少年を見て悦に浸って本当に最低、変態っ!返してよっ!!私は彼をずっと見てたの!中学の時からずっと!」
これは二人だけの相違ない結果であり暗黙の了解になっていて改めて問い質されると繋がっていたつもりになっていたのかもしれないなんて心が揺れる
「声が好き、顔が好き、性格も全部が好き、全てをぶち壊してるのは貴方よ!彼を世間一般から遠ざけて誰も近寄れないようにしてるの、私はそんな彼を助けてあげたい」
真っ直ぐな思いが彼を陽の元に連れ出そうと懸命に訴えて俺が今までずっと彼を陰から出ないようにしてきたのだろうか、そしてその罰としてうみくんを取り上げられ独り陰に取り残されるのだろうか
「だから迷惑なのよ、私は"彼"を愛したいのに貴方がいるといつまで経っても彼はあのまま」
「愛...」
足先から頭のてっぺんまで黒く塗り潰されて彼女の言う愛がどんなものなのか、それを与えられたらうみくんは幸せになれるのか考えた
「これ以上彼に嘘をつかせ続けないで...不純な動機で傷つけないで、彼を穢さないで」
黒く染った身体に言葉が吸収されて黒さを増す、もう何も言えなかった口を開いたらこの黒い塊が飛び出てきそうで怖くなったから
「じゃっ、それだけだから」
言いたいことは全て言ったとスッキリした顔で背を向けて颯爽と去っていく後ろ姿を何も見えなくなるまで呆然と眺めていた
