「日直は後でノート集めて持ってきてくれー」
その言葉に授業もろくに聞かず机上で青いシャープペンをクルクル回していた手が止まる
うんざりしたのも束の間で終わりのチャイムが響いて号令が掛かった
「日直?」
「そ〜なんだよ、だから先行ってて」
「一緒に運ぼうか?」
「いんや、それがちょっと時間掛かりそうだからさ」
「そっか、じゃあ待ってるね」
サラッと頭を撫でて去っていく後ろ姿を眺めて視線の先にニヤニヤしている軍団を捉える
「おーおー、つゆりくんよ〜このノートが欲しいかぁ?」
「そ〜だな、そのノートをこっちに寄越して貰おうか」
どこぞのチンピラの真似かノートをヒラヒラさせながら悪ノリしているクラスメイトに立ち向かう正義の主人公にでもなった気持ちだ
「しゃっー、んじゃこのジャンケンに勝てたら返してやるよ〜!」
「ぶはっジャンケン」
「ジャンケンはダセーよお前」
「うるせー」
集まっている外野が茶々を入れるが何事も楽しめるこの雰囲気が嫌いじゃない、寧ろ予め全員のノートが集まってそこに男女問わず追加で重ねられていくのだから有難いし分け隔てがない良好なクラスである
「最初はグーーッ!」
体勢を低くして大袈裟に拳を腰辺りに引き付ける
「ジャンッ!」
「ケンッ!」
これはもしかして某アニメキャラの必殺技なのではないだろうか...そう考えると出される選択は1つに絞られた
「グーーッ」
「俺パーな、皆ノートさんきゅ〜、他に出してないやついるか〜?」
あっさりとノート救出劇に成功した俺は残ったクラスメイトに声を掛けながら冊数をチェックする傍らまだ続く茶番を見守る
「グハッ、この俺が見破られるとはっ」
「馬鹿だろお前」
「そんじゃ俺職員室行くから〜」
地面にひれ伏す友人を馬鹿にしながらも肩に手を置いて慰めに入りそれを見て周りを囲んでいた奴らはゲラゲラと笑い、そして一連の流れを目撃していたであろう室内に残ったクラスメイトにはクスクスと笑い声が響いた
(時間とったなぁ)
達者でな〜なんて呑気に送り出され職員室を目指す
それでもこのクラスの陽気でアットホームな感じが嫌いじゃなかった
「〜♪〜よ♪」
ただ職員室に行きたいだけだった
いつもなら通り過がる外に面した渡り廊下から聴こえてきた音階に釣られてそちらを見る
「ぁ〜♪〜かな〜」
見なければよかったと後悔しても時すでに遅く風に靡かれる栗色の長い髪、小柄な背、見覚えのある顔その桜色に色付いた1部から漂う軽快な音色
(聴きたくない、聴きたくない...)
サビ前の一説、つい最近もうみくんと話したばかりだ、それをこの女の子が紡ぐ意味とは何なのか、壁に背を預けてズルズルとしゃがみ込む、腕に顔を埋めても届く声に頭がグルグルして心が冷えていく
(ヤメテヤメテ、それ以上...)
胃が熱くなって喉が詰まる感覚と抑えが効かない涙腺は勝手に緩まる
「お待たせ〜!ご飯行こ〜!」
「も〜遅いよぉ」
「ごめんって〜、でもひなの今歌ってたでしょー?」
「聴いてたの!?恥ずかしいじゃん!」
「なになに〜彼氏の影響ー?聞かせなさいっ」
サビを歌い終えた所で第三者の明るい声が間に入った、楽しい喋り声にハッとして一刻も早くここから立ち去ろうと身体を持ち上げると1冊のノートが腕から滑り落ちる
(早く職員室行かないと...)
「うーん、まぁそうかもっ、うみくんが教えてくれたんだぁ〜」
キャーとかワーとか相手の言葉は耳を通過して拾ったノートを抱え直すと転げるように階段を駆け下りた
(何、何、わかんない)
あの曲が流れた時、一気に寒さを感じて大切な思い出に土足で踏み込まれたような気持ちになったのに今はうみくんがあの女の子とその曲を共有したと思うと身体の先まで熱が巡るような感覚を覚える
(寒いだけじゃない、もっと別の...苦しい?)
心から抜け落ちてぽっかり空いた穴を認めさせてくるような突き刺さる冷たい風ではなくもっと熱いものが湧き上がって辛くなる、今すぐこの苦しさを吐き出したい
「失礼しました」
職員室をピシャリッと扉を閉める指先にも普段より力が篭っている気がする
「うみくん!」
「うわっ、つゆちゃん?」
「うみくんっ、うみくん」
つかつかと歩み寄って腰掛けている椅子が傾く程強く強く抱き締めた
「っ」
「ん」
「ちょっと、まっ」
犬が飼い主の顔を舐めるのに似ているななんて頭に過ぎりながら気持ちを還元するかの如く薄い唇に熱を分ける、この熱はうみくんから生まれたものだからだ
「つゆちゃん嬉しいんだけど、流石に苦しい」
「う"ぅーー」
「えぇ...どうしよ」
引き剥がされても駄々を捏ね続ける俺に困った声と優しい掌がポンポンと落ちてくる
「しっと」
「え?」
「嫉妬した」
「はぃ?」
「嬉しいの、でも悔しいよ〜」
この感情に名前をつけるならその言葉がピッタリだと思った
「どうしよう...よく分かんないけど可愛すぎる」
「俺も困ってる」
うみくんに対してこういう気持ちが出てくる事は素直に嬉しいと思える、それでも俺達の関係を疑うような事はしたくない感情の行き場とは難しいものだ
「あー、えっとこれは?」
「解決策?」
「何で首傾げてるの、あとこれは色々とまずいと思うのですが...」
ギューギュー抱きついていたのが膝に乗り上げるほどぴたりとくっ付いて襟元を探ると小さなプラスチック板が指先に当たり摘んで力を入れると簡単にリボンが外れた
「い"っった!はあ〜??そこは違くない!?なんかえっちな感じだったじゃんっ!」
ゆっくり両手で外したボタンからはだけて覗いた白い首元に思い切り歯を立てて満足する
「ははっ、何想像してるのかな〜、うみくんのえっち」
「っ、はぁぁ〜〜、何それずるい可愛い」
紅く染った白い肌に触れる手が温もりを持って滑るように背後に回す、耳、額、頬、鼻リップ音が子気味よくリズムを刻んでその度擽ったそうに身を捩るのが面白かった
「ちょ、なに」
「仕返し?」
「くすぐったいぃ、えっ」
綺麗な顔の造形や今日のメイクなんかを楽しんで気が逸れている間にスルッと侵入していた手が撫でるように脇腹を掴んで驚きに手を止めようとすると先程後ろに回した手がシャツに差し込んだことによる弊害で簡単に抜けない
「んー?」
「噛もうとしてる?」
「仕返し?お返し?だからね」
片手で簡単にネクタイを緩めて器用に一つ二つボタンに手を掛ける
「...やだ、いたいの」
開けられた襟元から鎖骨をなぞる様に這わせた指が肩を顕にして意地悪な顔を近付けたので少し怖くなって顔を逸らした
「ぁ"〜〜〜」
「うみくん、噛むの?」
あ"ーとかう"ーとか繰り返して俺の肩口に顔を埋めてしまったうみくんにもう一度確認を取るが自分は良くて相手はダメというのもポリシーに反するので出来る事なら噛む前に合図して欲しい
「つゆちゃんが、ソンナミダラナッ...ハレンチの暴力だぁ...」
「おーい、大丈夫?」
「大丈夫だけど...あんまそーゆー事しないで、あと噛まないから安心していいよ」
何だか息が切れていなくもないけど復活したみたいなのでこれ以上は聞かない事にした
「うん?...っ〜〜!?」
安堵に身体から力を抜いた時添えられていた手が肩に移動して熱い息が首にぶつかり柔らかく湿ったものが耳まで移動する
「可愛い」
声にならない声と思わず避けた顔を捕まえるように顎を押えて耳に流し込まれた声色とリップ音はさっきまでの行いが子供の戯れに感じる程、強制的に劣情を表に引きずり出すような暴力的な色気を感じた
「っだめ!それ禁止!!」
「ごめんごめん、泣かないで」
潤んでいたらしい俺の目尻を撫ぜるように笑う顔と声は長い付き合いで見たことの無い色香を残していてドキドキ煩い心臓を落ち着けるためにも暫く床の染みを数える羽目になった
その言葉に授業もろくに聞かず机上で青いシャープペンをクルクル回していた手が止まる
うんざりしたのも束の間で終わりのチャイムが響いて号令が掛かった
「日直?」
「そ〜なんだよ、だから先行ってて」
「一緒に運ぼうか?」
「いんや、それがちょっと時間掛かりそうだからさ」
「そっか、じゃあ待ってるね」
サラッと頭を撫でて去っていく後ろ姿を眺めて視線の先にニヤニヤしている軍団を捉える
「おーおー、つゆりくんよ〜このノートが欲しいかぁ?」
「そ〜だな、そのノートをこっちに寄越して貰おうか」
どこぞのチンピラの真似かノートをヒラヒラさせながら悪ノリしているクラスメイトに立ち向かう正義の主人公にでもなった気持ちだ
「しゃっー、んじゃこのジャンケンに勝てたら返してやるよ〜!」
「ぶはっジャンケン」
「ジャンケンはダセーよお前」
「うるせー」
集まっている外野が茶々を入れるが何事も楽しめるこの雰囲気が嫌いじゃない、寧ろ予め全員のノートが集まってそこに男女問わず追加で重ねられていくのだから有難いし分け隔てがない良好なクラスである
「最初はグーーッ!」
体勢を低くして大袈裟に拳を腰辺りに引き付ける
「ジャンッ!」
「ケンッ!」
これはもしかして某アニメキャラの必殺技なのではないだろうか...そう考えると出される選択は1つに絞られた
「グーーッ」
「俺パーな、皆ノートさんきゅ〜、他に出してないやついるか〜?」
あっさりとノート救出劇に成功した俺は残ったクラスメイトに声を掛けながら冊数をチェックする傍らまだ続く茶番を見守る
「グハッ、この俺が見破られるとはっ」
「馬鹿だろお前」
「そんじゃ俺職員室行くから〜」
地面にひれ伏す友人を馬鹿にしながらも肩に手を置いて慰めに入りそれを見て周りを囲んでいた奴らはゲラゲラと笑い、そして一連の流れを目撃していたであろう室内に残ったクラスメイトにはクスクスと笑い声が響いた
(時間とったなぁ)
達者でな〜なんて呑気に送り出され職員室を目指す
それでもこのクラスの陽気でアットホームな感じが嫌いじゃなかった
「〜♪〜よ♪」
ただ職員室に行きたいだけだった
いつもなら通り過がる外に面した渡り廊下から聴こえてきた音階に釣られてそちらを見る
「ぁ〜♪〜かな〜」
見なければよかったと後悔しても時すでに遅く風に靡かれる栗色の長い髪、小柄な背、見覚えのある顔その桜色に色付いた1部から漂う軽快な音色
(聴きたくない、聴きたくない...)
サビ前の一説、つい最近もうみくんと話したばかりだ、それをこの女の子が紡ぐ意味とは何なのか、壁に背を預けてズルズルとしゃがみ込む、腕に顔を埋めても届く声に頭がグルグルして心が冷えていく
(ヤメテヤメテ、それ以上...)
胃が熱くなって喉が詰まる感覚と抑えが効かない涙腺は勝手に緩まる
「お待たせ〜!ご飯行こ〜!」
「も〜遅いよぉ」
「ごめんって〜、でもひなの今歌ってたでしょー?」
「聴いてたの!?恥ずかしいじゃん!」
「なになに〜彼氏の影響ー?聞かせなさいっ」
サビを歌い終えた所で第三者の明るい声が間に入った、楽しい喋り声にハッとして一刻も早くここから立ち去ろうと身体を持ち上げると1冊のノートが腕から滑り落ちる
(早く職員室行かないと...)
「うーん、まぁそうかもっ、うみくんが教えてくれたんだぁ〜」
キャーとかワーとか相手の言葉は耳を通過して拾ったノートを抱え直すと転げるように階段を駆け下りた
(何、何、わかんない)
あの曲が流れた時、一気に寒さを感じて大切な思い出に土足で踏み込まれたような気持ちになったのに今はうみくんがあの女の子とその曲を共有したと思うと身体の先まで熱が巡るような感覚を覚える
(寒いだけじゃない、もっと別の...苦しい?)
心から抜け落ちてぽっかり空いた穴を認めさせてくるような突き刺さる冷たい風ではなくもっと熱いものが湧き上がって辛くなる、今すぐこの苦しさを吐き出したい
「失礼しました」
職員室をピシャリッと扉を閉める指先にも普段より力が篭っている気がする
「うみくん!」
「うわっ、つゆちゃん?」
「うみくんっ、うみくん」
つかつかと歩み寄って腰掛けている椅子が傾く程強く強く抱き締めた
「っ」
「ん」
「ちょっと、まっ」
犬が飼い主の顔を舐めるのに似ているななんて頭に過ぎりながら気持ちを還元するかの如く薄い唇に熱を分ける、この熱はうみくんから生まれたものだからだ
「つゆちゃん嬉しいんだけど、流石に苦しい」
「う"ぅーー」
「えぇ...どうしよ」
引き剥がされても駄々を捏ね続ける俺に困った声と優しい掌がポンポンと落ちてくる
「しっと」
「え?」
「嫉妬した」
「はぃ?」
「嬉しいの、でも悔しいよ〜」
この感情に名前をつけるならその言葉がピッタリだと思った
「どうしよう...よく分かんないけど可愛すぎる」
「俺も困ってる」
うみくんに対してこういう気持ちが出てくる事は素直に嬉しいと思える、それでも俺達の関係を疑うような事はしたくない感情の行き場とは難しいものだ
「あー、えっとこれは?」
「解決策?」
「何で首傾げてるの、あとこれは色々とまずいと思うのですが...」
ギューギュー抱きついていたのが膝に乗り上げるほどぴたりとくっ付いて襟元を探ると小さなプラスチック板が指先に当たり摘んで力を入れると簡単にリボンが外れた
「い"っった!はあ〜??そこは違くない!?なんかえっちな感じだったじゃんっ!」
ゆっくり両手で外したボタンからはだけて覗いた白い首元に思い切り歯を立てて満足する
「ははっ、何想像してるのかな〜、うみくんのえっち」
「っ、はぁぁ〜〜、何それずるい可愛い」
紅く染った白い肌に触れる手が温もりを持って滑るように背後に回す、耳、額、頬、鼻リップ音が子気味よくリズムを刻んでその度擽ったそうに身を捩るのが面白かった
「ちょ、なに」
「仕返し?」
「くすぐったいぃ、えっ」
綺麗な顔の造形や今日のメイクなんかを楽しんで気が逸れている間にスルッと侵入していた手が撫でるように脇腹を掴んで驚きに手を止めようとすると先程後ろに回した手がシャツに差し込んだことによる弊害で簡単に抜けない
「んー?」
「噛もうとしてる?」
「仕返し?お返し?だからね」
片手で簡単にネクタイを緩めて器用に一つ二つボタンに手を掛ける
「...やだ、いたいの」
開けられた襟元から鎖骨をなぞる様に這わせた指が肩を顕にして意地悪な顔を近付けたので少し怖くなって顔を逸らした
「ぁ"〜〜〜」
「うみくん、噛むの?」
あ"ーとかう"ーとか繰り返して俺の肩口に顔を埋めてしまったうみくんにもう一度確認を取るが自分は良くて相手はダメというのもポリシーに反するので出来る事なら噛む前に合図して欲しい
「つゆちゃんが、ソンナミダラナッ...ハレンチの暴力だぁ...」
「おーい、大丈夫?」
「大丈夫だけど...あんまそーゆー事しないで、あと噛まないから安心していいよ」
何だか息が切れていなくもないけど復活したみたいなのでこれ以上は聞かない事にした
「うん?...っ〜〜!?」
安堵に身体から力を抜いた時添えられていた手が肩に移動して熱い息が首にぶつかり柔らかく湿ったものが耳まで移動する
「可愛い」
声にならない声と思わず避けた顔を捕まえるように顎を押えて耳に流し込まれた声色とリップ音はさっきまでの行いが子供の戯れに感じる程、強制的に劣情を表に引きずり出すような暴力的な色気を感じた
「っだめ!それ禁止!!」
「ごめんごめん、泣かないで」
潤んでいたらしい俺の目尻を撫ぜるように笑う顔と声は長い付き合いで見たことの無い色香を残していてドキドキ煩い心臓を落ち着けるためにも暫く床の染みを数える羽目になった
