青とオレンジの合間を濃紫に染った雲が広がりひぐらしの鳴く声と心地よい風が白いワンピースの裾を揺らした
「うみくん」
前を歩く少年と共に広がったスカート首を傾げる彼の顔に靡く金髪が見蕩れてしまう程夕焼けとマッチしていて一枚の絵を見ている気持ちになる
「手、繋ご」
ギュッと握った手にちゃんとここに存在しているんだと不思議とその腕を前後に揺らしながら薄暗くなって行く道を歩く
「あっ、可愛い」
「ほんとだ、わんちゃん」
散歩中の犬がこちらに興味を示したのか飼い主を引き摺って近寄ってきたので許可を得てもふもふの体に触れる
「もふもふだなぁお前〜可愛い〜」
「柴犬かな?可愛いね」
「うわっ、擽ったいよ」
とても人懐っこい犬のようでサービス精神旺盛にグイグイ来てくれるのが可愛くて撫で回しているとしゃがんだ膝に乗り上げて顔をぺろぺろ舐められた
「わんわん可愛かったね」
満足いくまで撫でさせてもらい動物の癒しを存分に味わうと名残惜しく感じつつも目的地への歩みを進める
「うっはぁ〜、結構風あるね〜火消えないかな?」
「消えたら消えたで考えよう」
まだ完全に真っ暗とまではいかない時間帯で空と同化するような藍色に包まれた海と潮風を肺一杯に吸い込んだ
「お、全然いけそーだよ」
「やった、何からやる?」
「うーん、やっぱ無難にこれからじゃない?」
そう言って手とったのは先端に付いた紙がフワフワしているカラフルな色合いの花火
「だよね〜!流石うみくん」
「大袈裟だなぁー、はい」
棒の先端に火を当ててしばらくするとシュワシュワ音を立て始めて光が溢れる、堰を切ったように放物線を描いて燃えるような弾けるような独特の音と煙の匂いが鼻をついた
「すっご〜、今年初花火だぁ〜」
「俺も」
初めの一本二本は食い入るようにその明かりを観察していたけれど相手の火を貰ったり貰われたり、そんな事をしていると火が移り変わる間もなく終わってしまったりして何でもない事で笑えてくる
「お〜い〜また火ぃ消えたんだけど〜」
「つゆちゃんが遅いから」
「なんだと〜もっかい!もっかい!今度は二本」
二本同時に火を付けて颯爽と海辺でグルグル回ってみる、花火の光が自分の身体の装飾品になったみたいだ
「うみく〜ん」
「なにー」
さほど離れてない距離で片手間に花火をするように脚に肘ついて傍観を決め込む人物の注目を惹き付ける
「流石にクサイ?」
「そうだね」
「こんにゃろっ」
未だに火をキラキラ放出する棒を頭上から下に大きく曲線を描いて対になるマークを送ったのだがよく考えると大分恥ずかしい事をした気がして終わった花火を手にうみくんに駆け寄った
「うわっ、ちょ、濡れた!」
「ははっ、冷たぁ〜」
手を引いて強引に浜辺に連れ出すと寄せる波が足元を濡らして冷たい潮水に晒される
「やっば、サンダル流される〜!」
「つーゆちゃんっ」
「つっっめたぁっ!!」
軽い水飛沫が顔に当たり咄嗟に腕で顔を隠す、隙間から見えた悪戯顔はとても楽しそうで本来の目的から脱線している事も気付かずに遊び続けた
「「ただいまー」」
「ふはっ、まじうみくん水滴ってるっ」
「笑い事じゃないよ、まったくー、俺風呂」
玄関に水溜まりを作るのが一人だけの理由は俺が加減というものを知らないだけじゃなくハーフパンツに対して裾の長いワンピースは水に浸かる面積が多かっただけという事にしておきたい
(とりあえず着替え着替え...)
洗濯機に着ていた服を投げ込むと濡れタオルで身体を拭いて新しい服に着替える
今日はとてもいい日なのでご機嫌のまま寝室に置かれたギターを手に取った
「〜♪」
久しぶりに弾いたギターはぎこちないながらも指が形を覚えているのか音色を紡いでいく、気持ちよくたまに鼻歌を混じえながら弾き続けているとトンッと背中に微かな熱が重なった
「珍しいね」
「うん、ちょっと弾きたくなって借りてた」
「いいよ、つゆちゃんが弾くと自分で弾くよりいい音に聴こえる」
「めっちゃ間違えてるのに?」
四六時中ギターを続けてきたうみくんと比べたら天と地ほどの差があると思うのだが彼にそう言われて悪い気はしない
「でもやっぱ俺はうみくんが弾いてるのがいいなぁ」
強請るようにギターを彼の手に託すとしょうがないとでも言うように笑って隣に腰掛ける
「〜♪」
胡座の上に乗ったギターは本来の定位置に戻ったとばかりに嬉しそうに見えてあれからうみくんは少しだけ素を見せてくれるようになったと思う
(いいなぁ)
低く団子に纏められた金髪にいつもよりはっきりと顔が顕になり、メイクの彩りを無くすと鼻や顎の造形が際立ってその骨感が殊更男らしさを強調した
「かっこいいねうみくん」
一瞬スピードダウンした演奏に横目でチラッとこちらを見るとまた一定のテンポに帰っていく
「つゆちゃんは可愛いね」
今日の温度感と心の波長、流れる曲に誘われて薄いお腹に腕を回してピッタリと背に頬を預ける
「ね〜あれ言ってほし〜」
「...つゆちゃんはと〜っても可愛いから」
「うん」
途端に切り替わった口調はよくポイントを捉えていて脳裏にすぐさま一人の少女が得意気に話しかけてくる
「大きくなったら"私"のバンドに入れてあげる」
「うん」
「小さな箱で、好きな人を集めて」
「うん」
「好きな曲を歌う...」
弾むような言葉が踊っているような彼女は本当に蝶のような人で気侭に飛び回って周りを振り回す所が言葉に滲み出てる気がして切なくて寂しい
「ほんと勝手な人」
「俺もそー思う」
「でも人の事言えないなぁ、俺も勝手だから」
間髪入れずに同意してきたうみくんに思わず苦笑いしてしまう、彼が欲しいと強要しておいてまだ思いを馳せる俺をどう思うのだろう
「じゃー俺もそーだね」
「...でもそんな所が今でも忘れられないんだ」
「俺は嬉しいよ、つゆちゃんが忘れないでいてくれる事、ありがとう」
「そんな感謝なんて...言わないでよ、俺酷い奴なんだから」
何処をとっても謝罪を求められる事はあれど感謝される程の事はしていないと思うのだが丁寧にギターを置いたうみくんが振り返る
「つゆちゃんは優しいね、優しくて可愛い、そんな子を誑かして俺の方が悪い奴かもしれないよ?」
サラリと頬に触れた手に視界の端で夜風に靡くカーテンがチラチラと映り込む
「そうなの?」
「そうだよ?」
「じゃあ大丈夫だね」
俺にとってかけがえの無い人が自分よりも余っ程出来た人間よりも一緒ならばもっと嬉しい
「大丈夫なの?だめじゃない?」
「だって元から一緒なら俺達変わらないでしょ?」
うみくんにもこの思いが伝わればいいと強く抱き締める
「俺つゆちゃんが心配だなー、俺以外の悪い人について行ったりしちゃダメだからね?」
「もぉ〜、子供じゃないんだからしないって!そもそもうみくん以外触れないんだから無理だよ!」
人たらしだ何だとぶつくさ言いながらも気持ちが伝染したように覆われてその胸に包み込まれた、安心する腕の中で心がぽかぽかして顔に当たる夜風が心地良い、遊び疲れた身体はゆっくりと微睡みの中重くなっていった
「うみくん」
前を歩く少年と共に広がったスカート首を傾げる彼の顔に靡く金髪が見蕩れてしまう程夕焼けとマッチしていて一枚の絵を見ている気持ちになる
「手、繋ご」
ギュッと握った手にちゃんとここに存在しているんだと不思議とその腕を前後に揺らしながら薄暗くなって行く道を歩く
「あっ、可愛い」
「ほんとだ、わんちゃん」
散歩中の犬がこちらに興味を示したのか飼い主を引き摺って近寄ってきたので許可を得てもふもふの体に触れる
「もふもふだなぁお前〜可愛い〜」
「柴犬かな?可愛いね」
「うわっ、擽ったいよ」
とても人懐っこい犬のようでサービス精神旺盛にグイグイ来てくれるのが可愛くて撫で回しているとしゃがんだ膝に乗り上げて顔をぺろぺろ舐められた
「わんわん可愛かったね」
満足いくまで撫でさせてもらい動物の癒しを存分に味わうと名残惜しく感じつつも目的地への歩みを進める
「うっはぁ〜、結構風あるね〜火消えないかな?」
「消えたら消えたで考えよう」
まだ完全に真っ暗とまではいかない時間帯で空と同化するような藍色に包まれた海と潮風を肺一杯に吸い込んだ
「お、全然いけそーだよ」
「やった、何からやる?」
「うーん、やっぱ無難にこれからじゃない?」
そう言って手とったのは先端に付いた紙がフワフワしているカラフルな色合いの花火
「だよね〜!流石うみくん」
「大袈裟だなぁー、はい」
棒の先端に火を当ててしばらくするとシュワシュワ音を立て始めて光が溢れる、堰を切ったように放物線を描いて燃えるような弾けるような独特の音と煙の匂いが鼻をついた
「すっご〜、今年初花火だぁ〜」
「俺も」
初めの一本二本は食い入るようにその明かりを観察していたけれど相手の火を貰ったり貰われたり、そんな事をしていると火が移り変わる間もなく終わってしまったりして何でもない事で笑えてくる
「お〜い〜また火ぃ消えたんだけど〜」
「つゆちゃんが遅いから」
「なんだと〜もっかい!もっかい!今度は二本」
二本同時に火を付けて颯爽と海辺でグルグル回ってみる、花火の光が自分の身体の装飾品になったみたいだ
「うみく〜ん」
「なにー」
さほど離れてない距離で片手間に花火をするように脚に肘ついて傍観を決め込む人物の注目を惹き付ける
「流石にクサイ?」
「そうだね」
「こんにゃろっ」
未だに火をキラキラ放出する棒を頭上から下に大きく曲線を描いて対になるマークを送ったのだがよく考えると大分恥ずかしい事をした気がして終わった花火を手にうみくんに駆け寄った
「うわっ、ちょ、濡れた!」
「ははっ、冷たぁ〜」
手を引いて強引に浜辺に連れ出すと寄せる波が足元を濡らして冷たい潮水に晒される
「やっば、サンダル流される〜!」
「つーゆちゃんっ」
「つっっめたぁっ!!」
軽い水飛沫が顔に当たり咄嗟に腕で顔を隠す、隙間から見えた悪戯顔はとても楽しそうで本来の目的から脱線している事も気付かずに遊び続けた
「「ただいまー」」
「ふはっ、まじうみくん水滴ってるっ」
「笑い事じゃないよ、まったくー、俺風呂」
玄関に水溜まりを作るのが一人だけの理由は俺が加減というものを知らないだけじゃなくハーフパンツに対して裾の長いワンピースは水に浸かる面積が多かっただけという事にしておきたい
(とりあえず着替え着替え...)
洗濯機に着ていた服を投げ込むと濡れタオルで身体を拭いて新しい服に着替える
今日はとてもいい日なのでご機嫌のまま寝室に置かれたギターを手に取った
「〜♪」
久しぶりに弾いたギターはぎこちないながらも指が形を覚えているのか音色を紡いでいく、気持ちよくたまに鼻歌を混じえながら弾き続けているとトンッと背中に微かな熱が重なった
「珍しいね」
「うん、ちょっと弾きたくなって借りてた」
「いいよ、つゆちゃんが弾くと自分で弾くよりいい音に聴こえる」
「めっちゃ間違えてるのに?」
四六時中ギターを続けてきたうみくんと比べたら天と地ほどの差があると思うのだが彼にそう言われて悪い気はしない
「でもやっぱ俺はうみくんが弾いてるのがいいなぁ」
強請るようにギターを彼の手に託すとしょうがないとでも言うように笑って隣に腰掛ける
「〜♪」
胡座の上に乗ったギターは本来の定位置に戻ったとばかりに嬉しそうに見えてあれからうみくんは少しだけ素を見せてくれるようになったと思う
(いいなぁ)
低く団子に纏められた金髪にいつもよりはっきりと顔が顕になり、メイクの彩りを無くすと鼻や顎の造形が際立ってその骨感が殊更男らしさを強調した
「かっこいいねうみくん」
一瞬スピードダウンした演奏に横目でチラッとこちらを見るとまた一定のテンポに帰っていく
「つゆちゃんは可愛いね」
今日の温度感と心の波長、流れる曲に誘われて薄いお腹に腕を回してピッタリと背に頬を預ける
「ね〜あれ言ってほし〜」
「...つゆちゃんはと〜っても可愛いから」
「うん」
途端に切り替わった口調はよくポイントを捉えていて脳裏にすぐさま一人の少女が得意気に話しかけてくる
「大きくなったら"私"のバンドに入れてあげる」
「うん」
「小さな箱で、好きな人を集めて」
「うん」
「好きな曲を歌う...」
弾むような言葉が踊っているような彼女は本当に蝶のような人で気侭に飛び回って周りを振り回す所が言葉に滲み出てる気がして切なくて寂しい
「ほんと勝手な人」
「俺もそー思う」
「でも人の事言えないなぁ、俺も勝手だから」
間髪入れずに同意してきたうみくんに思わず苦笑いしてしまう、彼が欲しいと強要しておいてまだ思いを馳せる俺をどう思うのだろう
「じゃー俺もそーだね」
「...でもそんな所が今でも忘れられないんだ」
「俺は嬉しいよ、つゆちゃんが忘れないでいてくれる事、ありがとう」
「そんな感謝なんて...言わないでよ、俺酷い奴なんだから」
何処をとっても謝罪を求められる事はあれど感謝される程の事はしていないと思うのだが丁寧にギターを置いたうみくんが振り返る
「つゆちゃんは優しいね、優しくて可愛い、そんな子を誑かして俺の方が悪い奴かもしれないよ?」
サラリと頬に触れた手に視界の端で夜風に靡くカーテンがチラチラと映り込む
「そうなの?」
「そうだよ?」
「じゃあ大丈夫だね」
俺にとってかけがえの無い人が自分よりも余っ程出来た人間よりも一緒ならばもっと嬉しい
「大丈夫なの?だめじゃない?」
「だって元から一緒なら俺達変わらないでしょ?」
うみくんにもこの思いが伝わればいいと強く抱き締める
「俺つゆちゃんが心配だなー、俺以外の悪い人について行ったりしちゃダメだからね?」
「もぉ〜、子供じゃないんだからしないって!そもそもうみくん以外触れないんだから無理だよ!」
人たらしだ何だとぶつくさ言いながらも気持ちが伝染したように覆われてその胸に包み込まれた、安心する腕の中で心がぽかぽかして顔に当たる夜風が心地良い、遊び疲れた身体はゆっくりと微睡みの中重くなっていった
