担任の先生が教室に入ってきてホームルームを始め、新しいクラスということで先生の提案で全員がみんなの前で自己紹介をするという地獄が終えたところでチャイムが鳴り休み時間になった。玲衣奈(れいな)は私の1つ後ろの席だった。玲衣奈(れいな)がこっそり言う。「で?話ってどんな?」
「ちょっと部室行こう。」高校2年生の教室は演劇部の部室と同じ階にあったので10分しかない休み時間の間でも行って話ができる距離だ。
 部室に入ると早速本題に入る。
「前に玲衣奈(れいな)に、川口先輩のことで嫉妬して言い過ぎちゃったことあるでしょう?あんなに嫉妬しといて急にって思うかもしれないんだけど・・・好きな人ができたの、違う人。」いくら親友の玲衣奈(れいな)が相手でも、好きな人ができた報告は緊張して早口になってしまう。真剣に聞いてくれていた玲衣奈(れいな)は、私が言いきると目をぱっちり見開き、
「ええっ?!違う人好きになったの?!あんなに好きだったのに?何があったの?え、本当に??誰?私知っているかな??」私がどれほど川口先輩を好きでいたか隣でずっと見守ってくれていた玲衣奈(れいな)は、相当衝撃だった様子で、質問攻めを始めた。
「さすがに驚くよね。うん、玲衣奈(れいな)も絶対知っているよ。去年同じクラスだった新谷(しんたに)。」そう答えると、さっきよりも目を見開いて驚かれた。
「え!!あの新谷(しんたに)?川口先輩とタイプ違う気がするけど・・でも応援するよ!新しい恋おめでとう!」
 親友の玲衣奈(れいな)に、また自分に好きな人ができただけで祝福されて、嬉しくなる。でも好きな人ができるって実は普通のことではなくで、とても喜ばしいことなんだと思う。春に激しい雨で桜が降られ、それでも桜が全部は散らずに綺麗に咲き続けるぐらいに素敵なことなんだと思う。恋には嬉しい時も悲しい時もあるものだけれど、私は好きになれるような人に出会えることがとても幸せに思う。
 チャイムが鳴り慌てて教室に戻る。この新しいクラスになれるまではどのくらいかかるのだろう。まず顔すら見慣れないクラスメイトが多く、先生が来ていないため賑やかな教室中を見渡す。
 すると一際目立つ美少女がいた。黒髪だがうっすら茶髪も混じっていて、髪はロングで話すたびにサラサラなびき、明るく綺麗な声で愛くるしく笑う。目はぱっちりと大きく、見目麗しい子だ。何という名の子だろう。あの子を見た人全員が全員そう思うだろう。間違いなくクラスのマドンナになるだろう。そう思うながら見つめてしまっていると、その美少女がこちらを向いた。そしてニコッと笑いかけてこっちに来る。
「木村さんだよね?演劇部の!初めまして!私、(みお)っていうの、よろしくね!」
「あ、うん、木村柚桜(ゆら)です。よろしくね。」
「下の名前、柚桜(ゆら)ちゃんっていうんだ!あっ、じゃあ柚桜(ゆら)りんって呼んでいい?響き可愛くない?」
「あ、うん、いいよ。」
 するとここで先生が教室に入ってきた。
「あ、じゃあまたあとでね!柚桜(ゆら)りん!」
 可愛らしすぎる呼び方をされて照れ臭かったが、なんだか嬉しかった。私は人見知りだし自分からはうまく話しかけられないので急に美少女に話しかけられて緊張した。

 それから(みお)はよく話しかけてくれるようになった。柚桜(ゆら)りんと気さくに呼んできて愛らしい笑顔で笑う(みお)は、女の私でさえドキッとする時があるくらいに見目麗しかった。(みお)と話しているときは男子からもちらちら視線を感じる。
 
 そんなある日、三時間目の休み時間に(みお)と話し込んでいると衝撃的なことを打ち明けられた。玲衣奈(れいな)はその時三組に行って紗良(さら)華菜(はな)と話し込んでいた。
「ねえ柚桜(ゆら)りんってさあ、好きな人いる?」
「・・・いるよ。」(みお)はクラスの男子がチラチラつい目で追ってしまうほど、見目麗しい見た目で性格も明るくて優しく、否の打ちどころがなかった。(みお)はクラスの一軍女子に所属していたが、こんなに完璧な(みお)となら苦手な一軍に所属してようが仲良くなりたいと思い始めていた。だから好きな人がいることを打ち明けた。
「え!誰??このクラスの人?」
(みお)はいるの?」名前を言うのはさすがに恥ずかしく話を逸らす。
「私?実はいるんだあ。秋也(しゅうや)君って知ってる?」
 新谷(しんたに)だ、新谷(しんたに)は下の名前を秋也(しゅうや)と言う。
新谷(しんたに)か!去年同じクラスだったよ!新谷(しんたに)みたいな男子がタイプだったんだね!」
「うーん、チャらく見える人はタイプじゃなかったんだけど、体育の授業中に具合悪くなって保健室行った時に秋也(しゅうや)君がいて、秋也(しゅうや)君は足擦り抜いて絆創膏貼りに来てたみたいで、それで初めて話したんだけど、かっこいいなあって思ったの。一目惚れみたいな感じかなー。」
 きっとこの話を盗み聞きしている男子がいたら、間違いなく絶望しているだろう。クラスのマドンナ・(みお)が学年で1番モテている新谷秋也(しんたにしゅうや)に片想いしているなんてあまりにも悲報すぎるから。でも、それは他の誰よりも私がそう思っていた。だって私は新谷秋也(しんたにしゅうや)が好きだ。そのことに気づいたばかりだったのに____。
「で、私のことより柚桜(ゆら)りんの好きな人は誰なの?」
 言えるわけない。この場で『私だって新谷(しんたに)が好きなの!あなたはライバルです!』なんて宣言できるわけない。

 だから嘘をついた。

(みお)は知らないと思う。演劇部の先輩だったんだけど、去年高校3年だったから卒業しちゃった。」つい嘘をついてしまった。川口先輩のことを話した。たしかに好きだったのは本当だがその時はもう好きと言う気持ちはなかった。だって新谷(しんたに)が好きとは(みお)には言えない。
「卒業しちゃったんだ!第二ボタンとかもらった?」
「第二ボタン?なんで?もらっていないけど・・・。」
「ええー卒業式の日に好きな人から第二ボタンもらうのは定番じゃん!!」
「そうなんだ、じゃあ貰えば良かったなぁ。」
 思ってないことを口にする。私は(みお)には嘘をつき続けなければならないのかもしれない。せっかく仲良くなれてきたのに、好きな人がかぶっているって知られたら、きっと口を聞いてくれなくなる。それだけじゃない。きっと噂が広まって、白い目で見られることになるだろう。“(みお)にライバル宣言した身の程知らずな女”として。

 放課後、部室に行くと、川口先輩や柳田(やなぎだ)先輩ら3人の先輩たちがいなくなり、一気に部室が寂しくなった。部員は他にもいるが学校の行事である新入生歓迎会の劇の上演でどうにか新入生を迎え入れたいところだ。でも今はそのことよりも気がかりなことがあった。(みお)のことだ。
 部室にはまだ他の部員が来る前だったので玲衣奈(れいな)(みお)と話したことを相談してみる。
(みお)ちゃんも新谷(しんたに)のこと好きなんだ・・・かなり強いライバル登場って感じだね。」
「うん・・・(みお)にはまだ川口先輩のことが好きってことになっている。好きな人いるって答えたあとで引っ込みつかなくて・・・」
「そういうことにして正解じゃない?(みお)ちゃんに同じ人好きってバレたら最悪だよ。」
「うん・・・(みお)は優しいしこのまま仲良くしていたい。でも新谷(しんたに)のことは諦められない・・・。」
「別に諦めなくてもいいんじゃない?あの新谷(しんたに)だよ?新谷(しんたに)のこと好きな女子なんてたくさんいるんだよ?1人くらいクラスメイトで好きな人被りしても当然だよ!諦めないでアタックしなよ!」玲衣奈(れいな)はいつも私を応援してくれて背中を押してくれる。本当にどこまでも優しい親友だ。
「ありがとう。私なりにアタックしてみるよ。」
「うん!頑張れ柚桜!」

 玲衣奈(れいな)に、新谷が好きだと言うことを打ち明けた日、玲衣奈(れいな)と“どうやって私が新谷(しんたに)にアピールするか”について私の家で会議をした。そして決まった“新谷(しんたに)へアピール作戦”のリストがこれだ。
 ①頻繁に三組に顔を出してなるべく新谷(しんたに)の視界に意図的に入る。②新谷(しんたに)に毎朝必ず挨拶をする。 ③新谷(しんたに)と同じ係になる。同じ何かを始める。④新谷(しんたに)にLINEの連絡先を聞く。⑤恋に関わるイベント(誕生日やバレンタイン、クリスマス)にはさりげなくプレゼントを渡す。そして気持ちを伝える。

 次の日から私は毎朝必ず駅か学校で新谷(しんたに)に会ったら「おはよう!」と声をかけるようになり、休み時間には3組に頻繁に顔を出すようになった。これで“新谷(しんたに)へアピール作戦”の①②はクリアだ。
 紗良(さら)華菜(はな)に話すために三組に顔を出すことは時折あったが、二人とはメールでやり取りしていたり週末に一緒に遊びに行ったりして仲は変わらず続いていたから、わざわざ三組にしょっちゅう顔を出していたわけではなかったが、(みお)がライバルと知り、(みお)よりも新谷(しんたに)との距離を縮めたいという思いがあり、頻繁に三組に顔を出すようになった。玲衣奈(れいな)と一緒に紗良(さら)華菜(はな)達に話しかけに行き、話ながらも新谷(しんたに)を目線で追っていた。どうにか話すネタが欲しい。
 すると、玲衣奈(れいな)がこっそり私の背中をポン!と叩く。玲衣奈(れいな)を見ると頷いてみせた。話すネタがなくたってただ話しかければいい。「おはよう」ってただ挨拶すればよっぽど人見知りでもなければ、話は続くものだ。
新谷(しんたに)ー!おっすー」新谷(しんたに)に駆け寄る。
「おう!おっす!木村、最近良く三組に来るよな!」
「うん!紗良(さら)華菜(はな)とクラス違くなっちゃったし、寂しくて玲衣奈(れいな)と一緒に絡みに来てる!」
「なるほどな!そういやさあ、木村は今年係決めた?おれ迷ってんだよねー!あんま忙しいのは部活に支障出て先輩に怒られるしさ!」
「係?」たしかにまだ決めていなかった。
 
 係は学年が変わるたびに新しく決めなければいけない。もちろん去年と同じ係でも良いことにはなっている。とにかく何かしら係りの仕事をやることが私の学校では義務付けられている。去年私は新聞係をやっていてやり甲斐があったが、毎月学校新聞を見る人がいないのに書き続けなければいけないのが虚しかった。だから他の係に比べて楽ではあったが、今年は違う係にしたい。でも新聞係は選ぶ人が少ないから先生に今年も新聞係やってほしいと頼まれていた。そうは言っても新谷(しんたに)と同じ係になりたい。そうすれば自然と話せる機会が増える。
「係は・・まだ決めてないや。去年と同じ係にしようかなとは思っているけど・・・。」
「まじで?俺何気に木村が書いた新聞読んでたんだけど!木村字うまいし読んでて面白かったぜ!」
「ええっ?!読んでくれたんだ、びっくり」
「意外だった?」
「うん。ありがとう!」
「新聞係って忙しい?」
「ううん、あんまり忙しくなかったよ。毎月新聞出すけど、分担して書くところ決めて書くから一人当たり書く文量はそんなにないし、新聞書く時だけ係りの集まりに顔出すって人がほとんどかな。」
「まじ?!めっちゃ楽じゃん!俺新聞係にしようかな!」
「ほんと?助かる!新聞係選ぶ人絶対少ないから・・・」
 
 こうして新谷(しんたに)と私は同じ係りになった。これで新谷(しんたに)と話せる機会が増える。大きな成果だと思う。二週間後の放課後、早速新聞係の集まりがあった。それに新谷(しんたに)と一緒に行く。新聞係は専用に集まる場所はないし、図書室で集まることになっている。ただし、図書室では基本的におしゃべり厳禁だからヒソヒソ声で話す。
「今日は五月号の新聞で書くことを決めようと思うんだけど、何か案あるかな?」
 新聞係に集まった人たちに聞いてみる。誰も何も話さないから私がリーダーシップを取る羽目になった。そして誰も答えてくれない。いつものことだ。みんなイヤイヤ新聞係になったのだ。いわば余り物の係り。そう思っていると___。
「新入生歓迎会のこととか体育祭のことは?」と新谷(しんたに)が発言してくれる。みんなが新谷(しんたに)を見る。
「あ、ありがとう。たしかに、新入生歓迎会の開催報告と、体育会のプログラムとか書いてみたらいいかも。他、何か意見ありますか?」
「賛成でーっす!」また新谷(しんたに)が発言してくれる。これではまるで新谷との2人会議だ。
 周りがみんな発言しないから困っている私を見て、新谷は積極的に発言してくれたのだ。本当に新谷(しんたに)はチャラい見かけによらず優しい。そういうところも好きだ。
 これで“新谷(しんたに)へのアピール作戦”の③『 新谷(しんたに)と同じ係になる。同じ何かを始める。』がクリアだ。
 次は④の『新谷(しんたに)にLINEの連絡先を聞く。』だ。LINEの連絡先を聞くなんてハードルが高すぎる。でも、LINEを交換できたら学校以外の場所でもLINEで語り合ったりできるのだ。どうすればいいんだろう。

「うちらこんなに話すのにLINE交換していなかったよね!交換しよう!そう言えばいいんだよ!」と華菜(はな)が言う。
「そっか、なるほど、でもやっぱり緊張する・・・」
「早くがんばって進展しないとライバルに先越されるよ!ただでさえ新谷(しんたに)モテるんだから」と紗良(さら)に釘を刺される。
「それか新聞係一緒になったんだし連絡用としてみたいな感じで言ったら交換しやすいんじゃない?」と玲衣奈(れいな)
「あ!それなら違和感ないね!いいかも」と紗良(さら)
 玲衣奈(れいな)と家で新谷のことで会議をした後、紗良(さら)華菜(はな)も信頼できる友人だから、新谷(しんたに)が好きであることを打ち明けることにしたのだ。打ち明けると、二人ともあまり驚いていなく、不思議に思い聞いてみると、「だって柚桜(ゆら)急に三組にたくさん来てくれるようになったし、話しててもずっと新谷(しんたに)のこと目で追っているしバレバレだったよ。」と笑っていた。
 私と玲衣奈(れいな)紗良(さら)華菜(はな)の休み時間の溜まり場となっていた演劇部の部室から出て、私は紗良(さら)華菜(はな)と一緒に三組に行き、男子達に囲まれて話している新谷(しんたに)に近づく。
「あ、おっす!木村!」先に新谷(しんたに)が気づいてくれる。
「おっす・・あのさ、私たち係一緒になったじゃん?集まりの日はわりと不定期だし、連絡用にLINEの連絡先知っといたほうがいいかなって・・・」
「あ!助かる!じゃあ俺QRコードだすわ!」
「あ、うん!・・・・・追加できた!スタンプ送っとく!じゃあね。」
「おう!さんきゅうな!」
 なんとか無事に作戦4つ目の『新谷(しんたに)にLINEの連絡先を聞く。』をクリアできた。 ほっと胸を撫で下ろし1組の教室に向かおうとして教室を出ると、1組の教室の前の壁に背中を預けながらこっちを見ている(みお)と目が合った___。