あれからあっという間に一年が過ぎた。でも新谷(しんたに)への気持ちは変わらず、濁らないまま溢れるばかりだった。受験シーズンになり、受験強化クラスという講習を新谷(しんたに)と同じクラスで受けることになり、私は勉強よりも新谷(しんたに)に夢中になり模試でB判定だったところがC判定に落ち、かなり受験ギリギリになって危機感に焦ることになったが、なんとか目指していた第二志望校には合格することができた。
 
 それぞれの進路を胸に抱き、私たちは今日この青春に満ちた高校を卒業する___。

 美術部だったクラスメイトの描いた黒板アート、慌ててヘアアイロンを貸し合っていつもより温度高めにストレートヘアにする女子達、スマホで仲の良い友人や先生と写真を撮る同級生達、制服のブレザーの胸ポケットに紫色のコサージュを入れる。何もかもが非日常だった。
「よっ!木村!ついに今日が来ちゃったな!」
新谷(しんたに)、おはよう。ついに来ちゃったねー。なんかあんまり実感湧かないけど。」
 
 実感なんてなかった。今日で高校を卒業するということも、自分が大学生になるということも、今日でこの学校には通わなくなり新谷(しんたに)に会えなくなるということも。
 
 明日からも変わらず新谷(しんたに)に会いたい。
 明日からも新谷(しんたに)とエストレージャの話も世間話もしたい。そして二人で笑っていたい。ずっと。

 新谷(しんたに)の未来にどうか私がいてほしい。
 私の笑顔がどうか新谷(しんたに)の脳裏に焼きついていてほしい。

「あの、さ・・・」
「ん?」
新谷(しんたに)ってモテるでしょ?第二ボタンほしいとか言われなかった??」
「いや、俺は確かにモテるけどな!はは!第二ボタン隠しちまったんだよ。」
「え、隠した??どういうこと?」
「近藤達でさ、卒業式の思い出にタイムカプセル的な感じで、自分の持ち物を学校内に隠してみようぜってなったんだよ。落書きで済ましたやつもいたけど。」
「へえ・・それで第二ボタンを?」
「おう。隠すなら小さいものがいいかなって思ってそれで第二ボタンにしようって思いついてさ。」
「そうなんだ・・実はね。」
「ん?」
 

今日まで私は新谷(しんたに)に話しかける勇気はあっても想いを伝える勇気はなかった。今日が新谷(しんたに)に気持ちを伝えるラストチャンスだ。
 
 
  私が新谷(しんたに)に告白をし始めようとした、まさにその瞬間だった。
 
秋也(しゅうや)くんっ!ちょっと話せる?」(みお)だった。
「おう。ごめん木村。あとでいい?」
 嫌だ。行かないで。全然後で良くない。きっと告白だ。絶対行かせたらダメに決まっているのに、私は止められなかった。
 
「あ、うん!全然いいよ!大した話じゃなかったし!」
 私の悪いところだ。普段は顔に出やすいくせに、こういう時はうまく嘘の笑顔ができてしまうんだから。

 楽しそうに話し始める新谷(しんたに)(みお)を尻目に、その場を去る。きっとお似合いのカップルになるだろう。

 その後の卒業式はずっと新谷(しんたに)を目で追っていた。席に座っている新谷(しんたに)、卒業証書を受け取る新谷(しんたに)、校歌・卒業ソングを歌う新谷(しんたに)、卒業式会場を退場する新谷(しんたに)。まるでもう二度と見れないものを目に焼き付けるように必死に目で追った。やがて涙が溢れてきたが、友人と離れ離れになるのが悲しいからなのか、新谷(しんたに)と離れ離れになるのが悲しくて切なかったからなのかどっちかもう訳がわからなかった。訳も分からず私はただ涙を流した___。

 卒業式が終わった後、新谷(しんたに)と話そうとしたができなかった。ずっと(みお)が独占してしまっていたからだ。告白したのかしていないのか定かではなかったが、とても私が割り込みに行ける雰囲気ではなかった。
 愛くるしく笑う(みお)に微笑みかける新谷(しんたに)の笑顔は紛れもなく私の太陽のはずだった。でも紛れもなく今は(みお)の太陽になっていた___。