『あの・・付き合って欲しいんです』

 そう言うと村田先輩はひどく冷めた顔をしていた。口を真一文字にして固まったように無表情だった。普通告白をされたら、いくら脈なしな相手でも少しぐらいは嬉しくなるものではないだろうか。村田先輩の顔には少しも嬉しそうな色が見えなかった。まるで仕事で同じミスを何度もされて呆れる時みたいな顔だった。そんな顔を見て、一瞬で告白をしたことはミスだったと悟った。
 そして、案の定、NGのお返事があった。告白をされたのに一ミリも嬉しそうじゃない先輩の表情にショックを受けながら別れ、今日はこのまま家に帰りたくない気分だったので、溢れてくる涙を堪えながらそのまますぐ近くのカラオケ店に直行したものの、一人きりでいるのは耐えきれず、仲がいい友人達に連絡しカラオケに誘ってみた。
 普段あまり聞かないが動画投稿専用SNSで流行っていて知っていた"JKに人気”という失恋ソングを五曲ほど歌い終わった頃、三人の友人が集まってくれ、“失恋した柚桜(ゆら)を慰める会”という名の女子会が始まった。

柚桜(ゆら)二回目だよね、振られたの。」
と友人の華菜(はな)
「まあね。それで本当に可能性ないんだな、って思ったよね、うん。」と笑うしかない私。
 一回目に告白して振られた時は三回目の食事に行った帰り。二回目に振られた時、つまり今日は、久しぶりに一緒にラーメンを食べに行った帰りだった。
「でも、村田先輩は予定あったのに会ってくれたんだよね?結局。脈ない相手に予定無理矢理合わせることするかな?」と紗良(さら)
「たしかに。でも私振られたし・・・」
 そこで玲衣奈(れいな)が口を開く。
「後輩としては可愛がってくれてるんじゃない?恋愛としてでなくて、後輩として。みたいな。」
 今までたくさん期待を持つ部分があった。でもそれらは全て後輩として可愛がってくれていただけなのかもしれない。恋愛としてではなかった。玲衣奈(れいな)は励ます意味で言ってくれたのにまた悲しくなり涙が溢れ出す。
「ちょ、柚桜(ゆら)ああ、泣かないでよ!ゆっくり時間掛けて忘れていけるって!うちと華菜(はな)がやっているマッチングアプリ、柚桜もやってみたら??」
「村田さん以上の人見つけられる自信ない・・」
「でもさあ、“あの時”もそう言ってたよ、柚桜(ゆら)。」
「あの時??」
「ほら、|川口先輩の時!あん時もさあ、『川口先輩しか考えられない!!』って言ってたじゃん!」と華菜(はな)
 そう言えばそうだった。華菜(はな)の言うように、川口先輩がいた頃、私は『川口先輩しか考えられない』と話していたし本気でそう思っていた。
 なのに、どうして人は心変わりしてしまうのだろう。
あんなにも本気で本当に好きだったのに、好きな人が変われば、名前だけ変えてまた『○○さんしか考えられない!』と思うんだろう。恋愛なんていっときの気の迷いなんだろうか___。
 ふと考え事に浸っていると、玲衣奈(れいな)が口を開く。
「でも私は川口先輩の時よりも、柚桜(ゆら)があの新谷(しんたに)を好きになった時の方が柚桜(ゆら)本気だったと思う_____」
新谷(しんたに)か・・・」ふと思い出す。新谷(しんたに)は高校生の頃1度だけ同じクラスになった。そして、玲衣奈(れいな)が話していたように本気で好きになった相手だった。でも私は今村田先輩に片思いをしていて“今は”村田先輩に本気で恋をしている。