状況が好転することなく、三週間が過ぎた。
 自らいじめはないと断言してしまったせいで、僕に対するいじめが収束することはなかった。それどころか遠山に強要された万引きをクラスメイトに目撃されたせいで、この三週間で事態はさらに悪化したと言っていい。もともとこの教室に僕の居場所なんてなかったけれど、余計に居心地が悪くなって朝から胃が痛かった。
 そこで僕に残された道は、三つある。
 一つ目は、卒業までの約二年半続くであろういじめに耐え抜き、このまま孤独な高校生活を送る。
 二つ目は高校を中退して、定時制、もしくは通信制の高校へ通う。
 そして三つ目は、『自由になる』というものだ。
 僕がこの三週間考えた末に出した答えは、三つ目の選択肢だった。残り二年半耐え抜くのは難しい。僕の心がもたない。中退して別の高校に通うことは逃げたことになる。それに逃げた先でもいじめの標的になる可能性だってあるし、なにより両親に中退する理由を話すのは絶対に嫌だ。
『自由になる』ことは、逃げではない。これは前に進むための、殊勝な行いだ、と変なプライドを押し退()けて、無理矢理自分にそう言い聞かせた。
 僕はその日、死のうと決めていた。迷いはなかった。なぜその日を選んだのか、深い理由はなかった。強いて挙げるなら、今朝父さんと諒也が楽しそうに会話をしている姿を見て、それだけでなんだか死にたくなったのだ。
 不出来の長男に早々に見切りをつけ、僕になんの期待もしていない父さんとは、あんなふうに言葉を交わすことは何年もしていなかった。
 この家にも、学校にも僕の居場所はどこにもない。だからもう、すべて終わりにしたかった。
 人生最後の授業は、当たり前だけどいつもとなんら変わりなく終了した。こんな日にも僕は、遠山に小銭を奪われ肩を殴られた。最後に反撃をしてやろうかと思ったけれど、やめにした。
 僕が自殺したあと、自分のしてきたことを悔いて、罪悪感に(さいな)まれるがいい。それが僕にできる、精一杯の反撃だった。
 放課後、僕は自由を求めて誰もいない屋上へ向かった。優しく吹く風が心地よく、一時間はぼうっとしていたと思う。
 そして僕は、太陽が沈んだ頃に飛び降りた。