食堂に置いてある流しっぱなしのテレビからは、10年の時を経て、アイミがあの「ラブ・センセーション」を唄っている。
 しかも、アタシの意見を取り入れたアレンジだ。
 少し酔いが回った状態で聴くと、なお、涙が停めらない。

 そうか。
 今日は、10月20日。アタシの28歳の誕生日だ。
 アイミは、あの時の約束通り、10年後にやっとアタシの言うことを聞いたのか。

 チェッ、もう、どうでもいい。
「いい曲ですね。お客さん、荒木アイミが好きなんですか?」
 食堂の店長が、話しかけてくる。
 女が一人で食堂でご飯を食べながらテレビを見て泣いているから、店長は驚いたことだろう。

「まさか」
「そうでしたか。だって、さっきからテレビを食い入るように見ておられるから、てっきり熱烈なファンかと……」
「チェッ、バカな! この曲はね、昔、アタシが……」
「昔、どうしたんです? まさか、知り合いとか?」
「何でもない。たまたま、聴いていて、いい曲だと思ったんだよ」
 店長は笑う。
 アタシも、笑った。

「ありがとうございました。……とここで、荒木アイミさんから何やら発表があるんですよね?」
 番組の司会は、演奏終わりのアイミに、突然質問をする。
「はい。実は、昔やっていたように、バンドのスタイルでもう一度やってみようかなと思っています」
 は?
 もう、ソロで有名になっているのに、わざわざバンドでやらなくてもいいだろうに。相変わらず、訳が分からん。
「それは楽しみですね」
 司会が軽く受け流そうとしていた瞬間、アタシのケータイが鳴った。
 当時のプロデューサーのヒロシだ。懐かしい。

 チェッ、何だ、今更?
「はい、もしもし。ヒロシさん、久しぶりですね。何ですか、急に?」
「テレビで、今、アイミが……」
「はい、悔しいけど、見ていましたよ」
「じゃあ、話が早い。いけるか?」
「え?」
「ジュンの本当のアオハルは、これからなんだよ」(了)