藤木はキョトンとして僕を見た。なに言ってんだ、と言いたそうな顔をしていたので、僕は捲し立てる。
「気がついたのは、数日前なんだけど……、僕、藤木が新川をまた好きになったら嫌だなあって思ったし、胸がチクチクしたんだ。だって、お前の一番は僕であってほしいから。友人としてじゃなくて。今まで通り、一緒にいて楽しく過ごすだけじゃなくて……なんていうか、その……」
顔は熱を持って熱いし、うまく言葉にできない。とにかく、どうやって分かってもらうかを考えれば考えるほど、言葉が出ない。すると、藤木がそっと体を寄せてきた。その瞳が少し潤んでいることに驚く。
「本当に? お前、俺のこと好きなの?」
単刀直入に聞いてくる藤木のその言葉に、僕は大きく頷いた。ここでまた、勘違いされたら困る。それに……今がチャンスた!
「うん。藤木が好きだよ」
すると藤木は僕の体をものすごい勢いで抱きしめた。
「まじか! やった!」
抱きしめる力の強さと、その雄叫びに藤木がどれだけ僕を好きでいてくれたのかが伝わってくる。
ああ、こんなことなら早く気がつけばよかったな。ごめんな、藤木。僕はもっと藤木を喜ばせてやりたいと、付き合って欲しいと言おうとした瞬間……
「付き合ってくれ、福山」
僕の言葉を、藤木が掻っ攫っていく。僕は思わず、藤木の胸板を両手でポカポカと叩いた。
「お、お前っ、僕が言おうとしていたのにっ」
「俺の方が自覚が早かったんだから、言わせてくれてもいいだろ? それで、答えは?」
藤木は嬉しそうに笑顔を見せながら僕の返事を待っていた。その顔は今までの中で一番、幸せそうに見えるのは自惚だろうか。
「……いいに決まってるだろ」
僕の答えを聞いて、藤木は頬がふれるくらいの距離に顔を近づけてくる。そしておでこをこつん、と合わせた。
「嬉しい。ありがとう」
その声が少し震えていたのを、僕はあえて気づかないふりをした。そしてしばらくして抱きしめていた腕を離して、両手で僕の顔を包み込んだ。近づいてくる、藤木の顔。
僕は慌てて目を閉じると、ふにっと柔らかな感触が唇に感じた。少しだけカサついた唇。ああ、これが藤木の唇なんだ。
それはマシュマロより柔らかくて、甘い。僕は自分の手を藤木の後頭部に回す。
「ん……」
甘いキスはほんの少しの時間だったけど、まるで時間が止まったかのように僕と藤木はその感触を楽しんでいた。
数年後。
僕と藤木、稲森と矢沢はスーツを着て海の近くの結婚式場にいた。五月の晴天晴れ。
最高の季節の中、新川の結婚式に参列していた。真っ白なタキシードを着た新郎の新川は今までで一番輝いている。そしてその隣にはベールをつけたウエディングドレスを身に纏った新婦。新川と二年付き合って、この日を迎えた。式場の外の階段で二人を待ち構えて、ライスシャワーを行う。藤木の隣にいる僕に気がついた新川は笑顔で手を振ってきた。その笑顔が幸せそうで、僕は思わず釣られて笑顔になってしまう。そしてそのまま進んでいった二人の後ろ姿を見ながら、僕はつぶやいた。
「こんなに穏やかな気持ちで新川の結婚式に参列できるなんて思わなかったよ」
それを聞いた藤木はそっと僕の手を握る。
「俺もだ」
僕らは顔を見合わせてお互いに笑う。
「お前がいてくれたからだよ、ありがとう」
「あ、僕が先に言おうと思ったのに」
そんなやりとりをしていると後から稲森はぽんと肩を叩いた。
「あーあ、これから結婚ラッシュなんかなー。お前らはもうしているようなもんだし。せめて矢沢よりは先に結婚してやる」
稲森たちには、僕と藤木が付き合っていることを話した。稲森は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたけど、矢沢は何となくそんな予感がしてたぜ、と笑っていた。いまでは二人とも僕らを応援してくれている。
「悪いけど俺、彼女できたから。お前より先に結婚してやっから」
隣にいた矢沢はニヤニヤしながら肘で稲森の腹をつついた。寝耳に水だったのか、稲森は口を大きく開けて驚いている。
「はあ? なんだそれ、聞いてねえぞ!」
騒がしい二人に苦笑いしていると、藤木がこそっと耳打ちする。
「本当の結婚式は難しいけど、あいつら呼んでそういうパーティもいいな」
元々藤木ははしゃぐタイプではないからこの提案に僕は驚いた。この結婚式の雰囲気にのまれて浮かれているのかもしれない。
まあ僕としても超嬉しい提案だけど。
「え、本当に?」
「まあただの飲み会になりそうだけどな」
それでも想像するとなんだか楽しそうだ。新川はきっと喜んでくれるだろう。
なんだか僕は目頭が熱くなってきて、涙が出そうになったのを必死に堪えていた。藤木はそんな僕を見つめている。
「うん。いいな、それ。やりたい」
「じゃあ、約束だな」
ギュッと繋いだ手を強く握ると、藤木も握り返してきた。
【了】
「気がついたのは、数日前なんだけど……、僕、藤木が新川をまた好きになったら嫌だなあって思ったし、胸がチクチクしたんだ。だって、お前の一番は僕であってほしいから。友人としてじゃなくて。今まで通り、一緒にいて楽しく過ごすだけじゃなくて……なんていうか、その……」
顔は熱を持って熱いし、うまく言葉にできない。とにかく、どうやって分かってもらうかを考えれば考えるほど、言葉が出ない。すると、藤木がそっと体を寄せてきた。その瞳が少し潤んでいることに驚く。
「本当に? お前、俺のこと好きなの?」
単刀直入に聞いてくる藤木のその言葉に、僕は大きく頷いた。ここでまた、勘違いされたら困る。それに……今がチャンスた!
「うん。藤木が好きだよ」
すると藤木は僕の体をものすごい勢いで抱きしめた。
「まじか! やった!」
抱きしめる力の強さと、その雄叫びに藤木がどれだけ僕を好きでいてくれたのかが伝わってくる。
ああ、こんなことなら早く気がつけばよかったな。ごめんな、藤木。僕はもっと藤木を喜ばせてやりたいと、付き合って欲しいと言おうとした瞬間……
「付き合ってくれ、福山」
僕の言葉を、藤木が掻っ攫っていく。僕は思わず、藤木の胸板を両手でポカポカと叩いた。
「お、お前っ、僕が言おうとしていたのにっ」
「俺の方が自覚が早かったんだから、言わせてくれてもいいだろ? それで、答えは?」
藤木は嬉しそうに笑顔を見せながら僕の返事を待っていた。その顔は今までの中で一番、幸せそうに見えるのは自惚だろうか。
「……いいに決まってるだろ」
僕の答えを聞いて、藤木は頬がふれるくらいの距離に顔を近づけてくる。そしておでこをこつん、と合わせた。
「嬉しい。ありがとう」
その声が少し震えていたのを、僕はあえて気づかないふりをした。そしてしばらくして抱きしめていた腕を離して、両手で僕の顔を包み込んだ。近づいてくる、藤木の顔。
僕は慌てて目を閉じると、ふにっと柔らかな感触が唇に感じた。少しだけカサついた唇。ああ、これが藤木の唇なんだ。
それはマシュマロより柔らかくて、甘い。僕は自分の手を藤木の後頭部に回す。
「ん……」
甘いキスはほんの少しの時間だったけど、まるで時間が止まったかのように僕と藤木はその感触を楽しんでいた。
数年後。
僕と藤木、稲森と矢沢はスーツを着て海の近くの結婚式場にいた。五月の晴天晴れ。
最高の季節の中、新川の結婚式に参列していた。真っ白なタキシードを着た新郎の新川は今までで一番輝いている。そしてその隣にはベールをつけたウエディングドレスを身に纏った新婦。新川と二年付き合って、この日を迎えた。式場の外の階段で二人を待ち構えて、ライスシャワーを行う。藤木の隣にいる僕に気がついた新川は笑顔で手を振ってきた。その笑顔が幸せそうで、僕は思わず釣られて笑顔になってしまう。そしてそのまま進んでいった二人の後ろ姿を見ながら、僕はつぶやいた。
「こんなに穏やかな気持ちで新川の結婚式に参列できるなんて思わなかったよ」
それを聞いた藤木はそっと僕の手を握る。
「俺もだ」
僕らは顔を見合わせてお互いに笑う。
「お前がいてくれたからだよ、ありがとう」
「あ、僕が先に言おうと思ったのに」
そんなやりとりをしていると後から稲森はぽんと肩を叩いた。
「あーあ、これから結婚ラッシュなんかなー。お前らはもうしているようなもんだし。せめて矢沢よりは先に結婚してやる」
稲森たちには、僕と藤木が付き合っていることを話した。稲森は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたけど、矢沢は何となくそんな予感がしてたぜ、と笑っていた。いまでは二人とも僕らを応援してくれている。
「悪いけど俺、彼女できたから。お前より先に結婚してやっから」
隣にいた矢沢はニヤニヤしながら肘で稲森の腹をつついた。寝耳に水だったのか、稲森は口を大きく開けて驚いている。
「はあ? なんだそれ、聞いてねえぞ!」
騒がしい二人に苦笑いしていると、藤木がこそっと耳打ちする。
「本当の結婚式は難しいけど、あいつら呼んでそういうパーティもいいな」
元々藤木ははしゃぐタイプではないからこの提案に僕は驚いた。この結婚式の雰囲気にのまれて浮かれているのかもしれない。
まあ僕としても超嬉しい提案だけど。
「え、本当に?」
「まあただの飲み会になりそうだけどな」
それでも想像するとなんだか楽しそうだ。新川はきっと喜んでくれるだろう。
なんだか僕は目頭が熱くなってきて、涙が出そうになったのを必死に堪えていた。藤木はそんな僕を見つめている。
「うん。いいな、それ。やりたい」
「じゃあ、約束だな」
ギュッと繋いだ手を強く握ると、藤木も握り返してきた。
【了】



