翌日、一緒に夜ご飯をうちで食べないか、と誘ってきたのは藤木の方からだった。一瞬、身構えたのだが、八宝菜を作ってくれるという。藤木は中華料理の腕前がピカイチなので、断る選択肢がなくなってしまった。
「うんまあ! やっぱりお前の作った八宝菜は最高だな」
「おーー、もっと褒めてくれ」
二人で八宝菜を食べながらいつもの時間を過ごす。僕が藤木への片想いを自覚した以外は何も変わっていない。テレビを見ながら美味い飯を食べて、片付けが済んだらゲームに切り替えて深夜まで続ける。そうして眠くなった頃に、部屋に戻るのだ。
しかし今日は夕食を食べた後、ゲームをしようとしたら藤木が突然話したいことがあると畏まってきたので、僕は息を呑んだ。
もしかしたら新川のことではないだろうか。動悸が激しくなっていく。テーブルを片付けたあとコーヒーが入ったマグカップが置かれる。いい香りが鼻腔をくすぐるが、僕は気が気ではない。そして隣に座った藤木が口を開く。
「あのさあ、新川のことなんだけど」
ほらきた! やっぱり新川の話なんだ。僕は顔を見ることができなくてわざとマグを持ち、コーヒーに視線を落とした。
「う、うん? 何」
「……高校の時、俺らって新川に彼女できたから諦めたじゃん。今回、フリーになったから福山はどうするのかなって」
先にこっちの出方を聞いてくるなんて、ずるいなあ。僕はあえて鎌をかけてみた。
「どうする、って……それってまたライバルに戻るってこと?」
ライバルに戻る……つまり、お互いに新川にアタックするかってこと。藤木が新川をまだ諦めていないなら頷くだろう。あえて僕が新川を恋愛対象にしていないことは伏せたままで聞いてやろう。
すると、しばらくの間があって藤木は口を開いた。
「そうか……。分かった」
え、分かったって、どういうことだよ。僕は思わずマグから顔を上げて藤木の顔を見る。するとなんだか悲しそうな笑顔を浮かべ、僕の頭をぽん、と撫でてきた。
「安心しろ。俺はもう新川のことはとっくに吹っ切れて親友としか思っていない。だから……俺、お前の想いが今度こそ新川に届くように応援してやるよ」
「いや、ちょ、待って」
マグを置き、藤木のシャツを掴み取る。
やばい、完全に勘違いさせてしまった! 僕が好きなのは、新川じゃなくて、お前だって!なんで片想いの相手に応援してもらわないといけないんだよ!
「遠慮すんなって」
「だから、ちが……」
「だってお前、改札に迎えにきてた新川見るなり見惚れてたしさ。それにカラオケの時だってチラチラ見てたし……」
チラチラ見ていたのは新川がかっこよくなっていたからであって、吹っ切れていたのは僕も同じだよ、ばかっ! ってすぐ言えばいいんだけど言葉が出ない。多分このまま口を開いたら勢いで好きなのはお前だって言ってしまいそうだから。
「シャツ、伸びるから手を離せよ」
「お、お前こそ吹っ切れてないだろ、だって新川がフリーになったって言った途端、すごい真剣に見てたし! それにファミレスから出る前に二人でこっそり、いなくなってさあ!」
ようやく出た言葉に、今度は藤木がギョッとしていた。
「トイレ行っていただけだって」
「それにしては長かったじゃん。僕、見てたんだからな。二人が長い間いなかったの」
「……こわ」
「うるさい! そ、それよりどうなんだよ、まだ新川のこと、好きなんだろ」
「吹っ切れてるよ。親友でしかない」
「そんなわけ……」
すると藤木は僕が引っ張っていたシャツを引っ張って僕の体を手繰り寄せた。
「あの時、二人で話していたのはお前のことなんだよ!」
普段あまり大きな声を出さない藤木の大声に驚いて僕は思わず目が点になる。僕のこと? なんであのタイミングで僕の話をする必要があったんだ?
藤木の瞳が至近距離で僕を見つめるので鼓動が速くなる。しばらくすると藤木は目を閉じ眉を顰めた。
「……もうこうなったら、全部話してやる。だけど、いいか? 絶対引くなよ」
「うんまあ! やっぱりお前の作った八宝菜は最高だな」
「おーー、もっと褒めてくれ」
二人で八宝菜を食べながらいつもの時間を過ごす。僕が藤木への片想いを自覚した以外は何も変わっていない。テレビを見ながら美味い飯を食べて、片付けが済んだらゲームに切り替えて深夜まで続ける。そうして眠くなった頃に、部屋に戻るのだ。
しかし今日は夕食を食べた後、ゲームをしようとしたら藤木が突然話したいことがあると畏まってきたので、僕は息を呑んだ。
もしかしたら新川のことではないだろうか。動悸が激しくなっていく。テーブルを片付けたあとコーヒーが入ったマグカップが置かれる。いい香りが鼻腔をくすぐるが、僕は気が気ではない。そして隣に座った藤木が口を開く。
「あのさあ、新川のことなんだけど」
ほらきた! やっぱり新川の話なんだ。僕は顔を見ることができなくてわざとマグを持ち、コーヒーに視線を落とした。
「う、うん? 何」
「……高校の時、俺らって新川に彼女できたから諦めたじゃん。今回、フリーになったから福山はどうするのかなって」
先にこっちの出方を聞いてくるなんて、ずるいなあ。僕はあえて鎌をかけてみた。
「どうする、って……それってまたライバルに戻るってこと?」
ライバルに戻る……つまり、お互いに新川にアタックするかってこと。藤木が新川をまだ諦めていないなら頷くだろう。あえて僕が新川を恋愛対象にしていないことは伏せたままで聞いてやろう。
すると、しばらくの間があって藤木は口を開いた。
「そうか……。分かった」
え、分かったって、どういうことだよ。僕は思わずマグから顔を上げて藤木の顔を見る。するとなんだか悲しそうな笑顔を浮かべ、僕の頭をぽん、と撫でてきた。
「安心しろ。俺はもう新川のことはとっくに吹っ切れて親友としか思っていない。だから……俺、お前の想いが今度こそ新川に届くように応援してやるよ」
「いや、ちょ、待って」
マグを置き、藤木のシャツを掴み取る。
やばい、完全に勘違いさせてしまった! 僕が好きなのは、新川じゃなくて、お前だって!なんで片想いの相手に応援してもらわないといけないんだよ!
「遠慮すんなって」
「だから、ちが……」
「だってお前、改札に迎えにきてた新川見るなり見惚れてたしさ。それにカラオケの時だってチラチラ見てたし……」
チラチラ見ていたのは新川がかっこよくなっていたからであって、吹っ切れていたのは僕も同じだよ、ばかっ! ってすぐ言えばいいんだけど言葉が出ない。多分このまま口を開いたら勢いで好きなのはお前だって言ってしまいそうだから。
「シャツ、伸びるから手を離せよ」
「お、お前こそ吹っ切れてないだろ、だって新川がフリーになったって言った途端、すごい真剣に見てたし! それにファミレスから出る前に二人でこっそり、いなくなってさあ!」
ようやく出た言葉に、今度は藤木がギョッとしていた。
「トイレ行っていただけだって」
「それにしては長かったじゃん。僕、見てたんだからな。二人が長い間いなかったの」
「……こわ」
「うるさい! そ、それよりどうなんだよ、まだ新川のこと、好きなんだろ」
「吹っ切れてるよ。親友でしかない」
「そんなわけ……」
すると藤木は僕が引っ張っていたシャツを引っ張って僕の体を手繰り寄せた。
「あの時、二人で話していたのはお前のことなんだよ!」
普段あまり大きな声を出さない藤木の大声に驚いて僕は思わず目が点になる。僕のこと? なんであのタイミングで僕の話をする必要があったんだ?
藤木の瞳が至近距離で僕を見つめるので鼓動が速くなる。しばらくすると藤木は目を閉じ眉を顰めた。
「……もうこうなったら、全部話してやる。だけど、いいか? 絶対引くなよ」



