一週間後、中庭で久しぶりにちんちくりんを見かけた。泣いていた。

「どうかした?」
 俺は思わず声をかけた。
 驚いた顔をして涙を拭きながらちんちくりんは言った。
「懐かしい雲の形だったから…」
「…は?」

「あぁ、ははッ。ゴメン。行くね…」
 そう言って校舎に走り去った。
 俺は何となくその雲を見た。

「…あぁ、クジラみてぇだな」

 くだらねぇとかバカバカしいとか…そんな風には思わなかった。

 G.W、新しい服につられて母親とアウトレットに来た。
 時間を決めて別行動し、いくつかの店を見て回った。

 人がすごくてうんざりし始めた頃、人混みが左右に開きモーセが現れた。
 よく見たらそれは、不恰好な傾き方で幼児を肩車したちんちくりんだった。

「ちょ‼︎何…」
 ちんちくりんと幼児を合わせても俺より低い。
「あ、中道くん…」
 ヨタヨタとふらつきながら近づいて来る。
「何?弟?」
「違う。迷子なの…」
「は?」
「肩車してって言うから」
 ちんちくりんの頭にしがみついている男児の顔に涙の跡がある。

「すっ転んで大怪我させそうだな…」
 俺はちんちくりんの後ろに回り男児を抱き上げた。
 そしてそのまま自分の肩に乗せた。

「おー‼︎高ーい‼︎」
「え⁈」
「親、探すの?迷子センター連れてくの?」
「たろくん、ママ見える?」
「んー?」
 俺は"たろくん"のためにゆっくり一周まわった。
「いたか?」
「んー…いなーい」
「元いた場所に戻ってみるか?」
「あ、うん。そうだね」

 すでに人で埋め尽くされてしまった〈モーセが開いて来た道〉を戻って行く。
「ありがとう。助かった…」
「しっかし、すげぇ肩車だったわ」
 思い出して笑った。

「親と逸れて、すごく不安だったと思う…」
「優しいんだな…」
「それを言うなら中道くんだって…」
 そう言って、ちんちくりんはたろくんを優しい目で見つめた。

 元の場所に戻り切る前に無事に母親に会えた。

 たろくんを下に降ろすと、泣きながら母親に駆け寄って行った。
「どうした?」
 ちんちくりんが泣いていた。
「あぁ、ははッ。会えて良かったと思って。ゴメン」
 俺は黙って、たろくんにぐちゃぐちゃにされた髪を整えてやった。
「ホント、助かった。ありがとう‼︎」
 涙を拭いてちんちくりんが去って行った。

 俺は小さな後ろ姿を見えなくなるまでずっと見ていた。