「地滑りが起こるという確証は?」
「は?」
「地滑りが起きて民に被害が出ると、誰かに吹き込まれたの?神からお告げを受けたとでも?」
「お告げなんかあるか」
「では、信ずるに足らず。私は神に祈り、神の許しを得て雨乞いを行ったのよ」
「神様が目の前に現れたとでも言うのか?」
「いいえ。でも道を指し示してくださるの…詳しいことは言えないけれど」
「隠し事をするとは… "信ずるに足らず" だな」
と、静の言葉をそのまま返し、少年は上機嫌に笑う。
「なんだか…随分と傲慢ね」
「俺のどこが?それを言うならおまえだろ、無知な女のくせに」
「その言い方。歳も変わらないはずなのに一丁前に物事を語るなんて、自信家というより気取り屋ね。どこかの寺で修行をしているのでしょう、出家前のようだけれど山に籠りっきりの生活であれば、山のことは案じられても世を知らないようね」
「それは白拍子のお方にも同じこと。毎日舞って神に祈るばかりでは、人の気持ちなんて考えられるものか。だから母親にしか心を開けず、孤立するんだよ」
静は驚きと共に恐怖する。
何故、自分のことを知っているのか。
この時が初対面のはずだが、まるで静のことをよく知っているかのようだ。
この少年は、一体何者なのか。
「先ほどの問いに、一つだけ答えてやる。俺に世の理を吹き込むのは、神でも仏でも、人間でもない」
「…何を言っているの?」
「俺に世の理を吹き込んだのは、天狗だ」
天狗とは日本の妖怪で、山に住むと言われている。
顔は怒るように真っ赤で鼻は高く、鳥のような嘴と羽を持って自由に飛び回ることが出来るとされている。
しかし伝説に過ぎず、静は勿論多くの民はその姿を見たことがない。
「戯れ言ね」
「そう思いたければ思っていればいい」
少年の背後から、雨音に紛れて男の呼び声が聞こえる。
「遮那王様!遮那王様ー!」
その声に少年は振り向く。
見知った顔を見つけ、別れも告げずに足早に立ち去ってしまった。
「遮那王…生け簀かない子」
静も踵を返し、家を目指した。

