タイムトリッパーズ〜いつの時代も必ず君に逢いにいく〜 第四章 KAMAKURA〜義経の影武者〜




自宅へ帰る道中、若い男から突然声をかけられた。
容貌は静と近い齢、十三、四歳ほど、修行僧のような白装束を土で汚している事から、遊んでいるのかやんちゃであることが伺える。
髪を一つに結っており元服(げんぷく)前と思われる。
白い肌の美しい少年だが、その目は静を睨みつけている。

「あなた、誰?」
「俺の質問に答えろ。何故雨を降らせたりしたんだ、法皇の命令に従ったのか?」
「白拍子が雨乞いの舞いを踊るのは当然の事」
「そうではない。本当に雨が必要だったのかと言っているんだ」
「あなたは、雨は不要だと言いたいの?」
「国中の民全てが雨を望んでいるとでも思ってるのか?」

質問を質問で返すやり取りに、静は戸惑っていた。
この少年が何を言いたいのかわからない。
雨を降らす事は民の総意のはず。
実際に全ての民から話を聞いたわけではないが、雨が降らなければ水が不足するし、作物も育たない。
恵の雨を批判する人間がいるとは思えなかった。

「この日照りが長く続いている状態で、雨を嫌う者がいるとすれば、如何なる理由なのかしら」
「その信じて疑わない態度、傲慢だと言われた事はないのか」
「傲慢だなんて…無礼な!」
「白拍子の小娘には無縁かもしれないが、日照りで乾いた山々に突然豪雨が降り注いだら、どうなると思う?」
「小娘って…同じ歳くらいでしょう?」
「乾いた土に大量の雨水が流れ込むと、水捌けが追いつかず、地滑りを起こすことがある。悪ければ山の上の社寺や、麓に住まう民家を潰す事になりかねない」
「でも、その山の木々や作物は」
「山の木々は水を溜め込む術を心得ている。我らの住まう何千年も昔からこの地に在るのだ、この程度の日照りで枯れるような事はない。稲や作物の不作を心配しているらしいが、元凶は流行り病による凶作続き、加えて地主の重い取立だ。雨乞いだ白拍子だとのたうち回る前に、己の政を正せと、法皇に伝えるべきだ」

この少年は随分と上から物を言うものだ、と静は苛立ちを募らせる。
どこの誰かは知らないが、寺の修行中の身であることは間違い無いだろう。
普段山に籠り修行三昧であるはずの未熟な少年が、あろうことか時の法皇についての意見を述べている。
井の中の蛙、夜郎自大とはまさにこの事。
身の程を知らない少年に、滅多に感じない胸の(くすぶ)りを覚えた。