――で、何がどうしてどうしてこうなった。
「はぁ、はっ……待ったか? 燈司」
「ううん。俺が早く来ていただけだから。じゃあ、いっこっか『デート』に」
「デ、デートねえ……」
燈司から恋人がいるというカミングアウトを受けた次の日金曜日、朝から「日曜日にデートしよう」と燈司から言われた。何でも恋人ができたものの、初めてデートするとき失敗したくないから事前に練習したいというのだ。
そんなデート練習相手に、幼馴染の俺は選ばれた。
燈司の必死な頼みともあれば、幼馴染である俺が腰を上げないわけにもいかない。
だが、『デート練習』であっても、デートであることには変わりない気がする。そのため実質初デートはその恋人とじゃなくて、俺になるんじゃないかと懸念点はあった。
しかし、燈司はそれでもいいといった。ただ、念入りに「デート練習だから」と俺にくぎを刺してきたのは記憶に新しい。
家が隣同士だが、恋人とのデートを想定し、待ち合わせ場所で落ち合うこととなった。俺たちがどこかに遊びに行くなら、家の前で待ち合わせをすればいい。
待ち合わせ場所で落ち合う……ということは燈司の家から遠い恋人ではないかと予想ができる。でも、そんなやつ、三十四人の中にかなりいる。俺たちの高校は遠いところからきているやつはたくさんいるし、通学が大変で寮に入っているやつもいる。やはり、絞り込むことはできない。
(にしても、あざといなあ……その服……)
オーバーサイズのグレーのパーカーは、袖が余って萌え袖になっている。今日のために新調したらしいベージュのスニーカーも、きれいにリボン結びされている。
何よりも今日は、耳に髪の毛を引っかけて髪型もおしゃれだ。
「何見てんの?」
「んん? いや、そうだよなーって思って。デートは勝負着からだよな」
「凛はふつーだけどね。ダサい」
「俺は別にいいだろ! 動きやすいし」
「恋人が学校のジャージズボン履いてきたらどう反応すればいいか分かんないでしょ……はあ、減点」
「いやあ、わりぃ、わりぃ。頭回ってなかったわ」
嘘である。
本当は、デートだからおしゃれをしようと思った。昨日の二時ぐらいに鏡の前でファッションショーをしたが、そもそも服をそこまで持っていないことに気づいた。好きだったジーンズもほつれてて、左の尻あたりに穴が開いていたため捨てた。
それで悩みに悩んだ結果、ズボンは学校の指定ジャージ。上は無難なTシャツにしてきたのだ。
燈司はがっかりと肩を落としていた。
(確かに、デートって服からだよなあ。待ち合わせして、恋人がかわいい服着てきたら、褒める。分かる、分かる)
燈司は頑張って俺の服の褒めどころを探していたみたいだが、見つからなかったようだ。再度ため息をついて、とんと俺の胸に人差し指を当てた。
「凛、これはデートなんだよ。練習とはいえちゃんとして。練習相手という自覚を持ってくれなきゃ困る」
「今度から気を付ける……って、今度はねえのか」
「……今度。一回デートして改善点が見つかったら、また練習しようと思ってる。そのとき、声かけるよ」
「そっか。でも、お前ならデート練習しなくても成功するだろう。だって、”王子さま”なんだろ?」
「周りがそう言ってるだけだよ……ふっ、凛、寝癖かわいい」
燈司は、俺の胸から指を離すと、俺の髪を背伸びしてチョンとつまんで人差し指と親指で弄った。
「寝癖なんてかわいくねえだろ」
「かわいいんだよ。凛のことだから、夜遅くまで起きてて、ヘアセットするなんて頭になかったんでしょ? てか、いつもしてないもんね」
燈司に指摘され、俺は首を横に触れなかった。
燈司は、面白がって俺の寝癖をぴょこぴょこと弄っていた。
指摘された通り、俺は朝が弱いしヘアセットなんてしたことない。水を頭につけて寝癖を押さえる程度だ。今日はし令嬢に、遅刻しないことだけを考え家を出た。そのせいで、余計に髪が乱れてぼさぼさだ。
いつもはこんなこと気にしないのだが、燈司の言うようにこれは『デート練習』だ。練習相手として、誠心誠意をもって臨まなければ失礼である。
「お前のモーニングコールがなかったら爆睡してただろうな」
「恋人に遅刻されても、俺は、懐のふか~い男だから怒らないよ?」
「いや、怒れよ。燈司は、俺よりも早くついてたみたいだし?」
「うん。デートが楽しみでね」
「……っ、は、はは。それも、恋人にかける言葉の練習?」
一瞬どきりとした。
上目遣いのくせに、妙に大人っぽい顔でみあげてきたからだ。きりっと眉が上に上がって、口角も心なしか上がっている。
かわいい燈司が、かっこよく見えた。
俺は心の中でぶんぶんと首を横に振る。これは『デート練習』。本番、恋人にかける言葉を俺に言って練習しているだけ。きっとそうだ。
とにかく、ここは感想を……評価を返さなければ。
熱くなった顔を手で仰ぎながら「今のはキュンときた」と返せば、燈司は満面の笑みを浮かべる。
燈司は、俺が感想を返す前にそっと手を握る。最初こそ普通につないでいたものの、細い指を俺の指の隙間に忍ばせ、ぎゅっと握った。いわゆる恋人つなぎだ。
「じゃあ、いこっか」
「お、おう」
燈司は行こうかと俺の手を引っ張った。小さな背中がたくましく見える。何だか、エスコートされているみたいだ。
(燈司の恋人もこんなことされたらキュンとするだろうな……)
俺ですらきゅんとしたのに。
俺は、また彼の背中を追いながら少し歩幅を狭め、燈司の歩くスピードに合わせた。
「はぁ、はっ……待ったか? 燈司」
「ううん。俺が早く来ていただけだから。じゃあ、いっこっか『デート』に」
「デ、デートねえ……」
燈司から恋人がいるというカミングアウトを受けた次の日金曜日、朝から「日曜日にデートしよう」と燈司から言われた。何でも恋人ができたものの、初めてデートするとき失敗したくないから事前に練習したいというのだ。
そんなデート練習相手に、幼馴染の俺は選ばれた。
燈司の必死な頼みともあれば、幼馴染である俺が腰を上げないわけにもいかない。
だが、『デート練習』であっても、デートであることには変わりない気がする。そのため実質初デートはその恋人とじゃなくて、俺になるんじゃないかと懸念点はあった。
しかし、燈司はそれでもいいといった。ただ、念入りに「デート練習だから」と俺にくぎを刺してきたのは記憶に新しい。
家が隣同士だが、恋人とのデートを想定し、待ち合わせ場所で落ち合うこととなった。俺たちがどこかに遊びに行くなら、家の前で待ち合わせをすればいい。
待ち合わせ場所で落ち合う……ということは燈司の家から遠い恋人ではないかと予想ができる。でも、そんなやつ、三十四人の中にかなりいる。俺たちの高校は遠いところからきているやつはたくさんいるし、通学が大変で寮に入っているやつもいる。やはり、絞り込むことはできない。
(にしても、あざといなあ……その服……)
オーバーサイズのグレーのパーカーは、袖が余って萌え袖になっている。今日のために新調したらしいベージュのスニーカーも、きれいにリボン結びされている。
何よりも今日は、耳に髪の毛を引っかけて髪型もおしゃれだ。
「何見てんの?」
「んん? いや、そうだよなーって思って。デートは勝負着からだよな」
「凛はふつーだけどね。ダサい」
「俺は別にいいだろ! 動きやすいし」
「恋人が学校のジャージズボン履いてきたらどう反応すればいいか分かんないでしょ……はあ、減点」
「いやあ、わりぃ、わりぃ。頭回ってなかったわ」
嘘である。
本当は、デートだからおしゃれをしようと思った。昨日の二時ぐらいに鏡の前でファッションショーをしたが、そもそも服をそこまで持っていないことに気づいた。好きだったジーンズもほつれてて、左の尻あたりに穴が開いていたため捨てた。
それで悩みに悩んだ結果、ズボンは学校の指定ジャージ。上は無難なTシャツにしてきたのだ。
燈司はがっかりと肩を落としていた。
(確かに、デートって服からだよなあ。待ち合わせして、恋人がかわいい服着てきたら、褒める。分かる、分かる)
燈司は頑張って俺の服の褒めどころを探していたみたいだが、見つからなかったようだ。再度ため息をついて、とんと俺の胸に人差し指を当てた。
「凛、これはデートなんだよ。練習とはいえちゃんとして。練習相手という自覚を持ってくれなきゃ困る」
「今度から気を付ける……って、今度はねえのか」
「……今度。一回デートして改善点が見つかったら、また練習しようと思ってる。そのとき、声かけるよ」
「そっか。でも、お前ならデート練習しなくても成功するだろう。だって、”王子さま”なんだろ?」
「周りがそう言ってるだけだよ……ふっ、凛、寝癖かわいい」
燈司は、俺の胸から指を離すと、俺の髪を背伸びしてチョンとつまんで人差し指と親指で弄った。
「寝癖なんてかわいくねえだろ」
「かわいいんだよ。凛のことだから、夜遅くまで起きてて、ヘアセットするなんて頭になかったんでしょ? てか、いつもしてないもんね」
燈司に指摘され、俺は首を横に触れなかった。
燈司は、面白がって俺の寝癖をぴょこぴょこと弄っていた。
指摘された通り、俺は朝が弱いしヘアセットなんてしたことない。水を頭につけて寝癖を押さえる程度だ。今日はし令嬢に、遅刻しないことだけを考え家を出た。そのせいで、余計に髪が乱れてぼさぼさだ。
いつもはこんなこと気にしないのだが、燈司の言うようにこれは『デート練習』だ。練習相手として、誠心誠意をもって臨まなければ失礼である。
「お前のモーニングコールがなかったら爆睡してただろうな」
「恋人に遅刻されても、俺は、懐のふか~い男だから怒らないよ?」
「いや、怒れよ。燈司は、俺よりも早くついてたみたいだし?」
「うん。デートが楽しみでね」
「……っ、は、はは。それも、恋人にかける言葉の練習?」
一瞬どきりとした。
上目遣いのくせに、妙に大人っぽい顔でみあげてきたからだ。きりっと眉が上に上がって、口角も心なしか上がっている。
かわいい燈司が、かっこよく見えた。
俺は心の中でぶんぶんと首を横に振る。これは『デート練習』。本番、恋人にかける言葉を俺に言って練習しているだけ。きっとそうだ。
とにかく、ここは感想を……評価を返さなければ。
熱くなった顔を手で仰ぎながら「今のはキュンときた」と返せば、燈司は満面の笑みを浮かべる。
燈司は、俺が感想を返す前にそっと手を握る。最初こそ普通につないでいたものの、細い指を俺の指の隙間に忍ばせ、ぎゅっと握った。いわゆる恋人つなぎだ。
「じゃあ、いこっか」
「お、おう」
燈司は行こうかと俺の手を引っ張った。小さな背中がたくましく見える。何だか、エスコートされているみたいだ。
(燈司の恋人もこんなことされたらキュンとするだろうな……)
俺ですらきゅんとしたのに。
俺は、また彼の背中を追いながら少し歩幅を狭め、燈司の歩くスピードに合わせた。



