白馬のプリンスくんには、どうやら好きな人がいるらしい

 なかなか取れないおにぎりのラップに苦戦しつつ、俺は「恋愛相談どーぞ」と燈司に話題をふる。
 燈司はしばらく俺の手元を見たのち「俺が剥がしてあげよっか?」と、手を伸ばす。
「んじゃ、お言葉に甘えてそうしてもらおっか……っ!?」
 俺は、燈司の言葉に甘えおにぎりを彼に渡そうとした。すると、先に燈司指先がちょんと俺の指に触れた。くすぐったかったのか、驚いたのか自分でも分からない。俺は指先が触れたことにびっくりして、おにぎりを床に落としてしまった。
「さ、三秒ルール!」
「あ、ごめん。凛……」
「いやいや、いいって。俺がびっくりしただけだし。いやぁ、はい。じゃあ、ラップ剝がすの頼む」
「うん。いいけど」
 燈司におにぎりを渡し終え、俺は深呼吸をした。
(なんか、俺のほうが緊張してる?)
 俺は燈司のきれいな手でおにぎりのラップをはがしていく様子を見つめていた。俺はがさつで神経質なタイプじゃないと思っていたのに、なんだか変だ。
 燈司は、バスケをやっているが、彼から突き指したという話を聞かない。爪もきれいに切ってあって、でも利き手の中指にペンだこができている。
 燈司は、カリカリとラップの境目に爪を立てあっという間におにぎりのラップを剥がしてくれた。
「はい、取れたよ。凛って、昔からわかめと紫蘇おにぎり好きだよね」
「そういう燈司は、卵サンドがお気に入りだよな。粒コショウ入りの」
 燈司の一段目の弁当箱には卵サンドがみっちり入っている。燈司はそれを取り出して一口だべる。燈司の一口は小さいが食べるのは早いため、吸い込まれるようにしてサンドイッチは消えていった。
 俺は、おにぎりに口をつけつつ、どのタイミングで燈司が恋愛相談を切り出すのか見計らっていた。
「凛、見すぎ」
「い……や、だって。いや、燈司が恋愛相談するっつったのに言わないからだろ」
「それ、関係ないじゃん。そんなに聞きたい?」
「聞きたい! つか、それ。最初に話題ふってきたやつがいうセリフじゃないだろ」
 俺がそういうと、燈司はむっとしてサンドイッチに伸ばした手を引っ込めた。
「そういう凛は、恋愛話とか興味ない? 恋してる人とかは?」
 俺は言葉を失った。まさか燈司からそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
 今まで告白されたことはあったが、いまいちピンと来なくて誰とも付き合ったことはない。そもそも、好きという気持ちがよくわからなかった。
 クラスメイトに告白されたとき思ったのは、フッてクラスでのその子との付き合いがどうなるのだろうという不安だった。雰囲気が悪くなるのは嫌だ。けど、付き合うまでには至れなかった。
 俺に告白してくれた子は俺のどこが好きだったんだろうか。聞くにも聞けなかった。告白の言葉は「付き合ってください」だけだったから。
(燈司は、その気持ちよく知ってんだろうな……)
 燈司が告白したのか知らないが、燈司は少なくとも恋とか好きという感情を知っているのだろう。
 なんだか羨ましい。
「いない。告白されたことあるけど、恋愛とかよくわかんないし」
「……そっか」
「燈司の話聞いて勉強するわ。今後の参考に」
 俺は、ちらりと燈司を見る。すると、燈司は何故か暗い顔をし一瞬だけ俯いた。しかし、なんともなかったようにサンドイッチに手を伸ばして口を開く。
「参考にする日が来ればいーね……凛だから聞いてほしいんだよ。幼馴染だから。俺のこと全部知っていてくれなきゃ困る」
「いや、ならもっと早く言えよ。恋人出来た日に」
 俺がそういうと、燈司は少し強くサンドイッチを掴んだようで、具がはみ出してしまっていた。
「ああ、いや! 俺、燈司の知らないことあるの嫌かも! だから、聞かせてほしい。参考とか、参考じゃないかって関係なく。お前のこと知りたい」
「そうこなくっちゃ。話した意味がないもん」
「そ、それで、相手って誰? 同じクラスの奴? それとも、バスケ部? 先輩、後輩?」
「切り替えはやーい。質問攻めにしないでよ。凛」
 きゃ~とわざと照れ臭そうに言う燈司。ピンクに染めた頬に手を当てて首を横に振っている。
 (なんだよ畜生。かわいいな、おい!)
 ぶりっこしていても幼馴染はかわいい。何だかそれだけ、燈司って得している気がする。とにかくこんなかわいい顔を見せられたら、誰でもコロッと行きそうだ。
 あてられるものなら当てたいが、まったく見当がつかない。
「そんなに嬉しそうってことは、付き合えて嬉しいんだろ」
「逆に付き合えて嬉しくない人とかいるの?」
 至極当たり前な質問をするな、とでもいうようにスンと燈司は表情を落とした目で俺を見た。
 まあ、そりゃ付き合えて嬉しいから舞い上がっているのだろうし、話を聞いてほしいと思うのだろう。嬉しいことがあったら自慢したくなるのは、ごく普通の心理だ。
「んで、誰なんだよ」
「当ててみてよ」
「いや、だから情報少なすぎて当てるも何も……」
「当てたら褒めてあげよう」
「褒められても嬉しくねー」
 そんなゲーム形式にして燈司は楽しいのだろうか。いや、楽しいからこそ俺に投げかけてきたのだろう。
 燈司は、大きな目をくりくりとさせ、期待のまなざしを俺に向けていた。
 どうやら、俺が当てなければ次に進めないらしい。
(燈司の恋人、好きな人……燈司のタイプ……てか、燈司の好きなタイプってどんなのだ?)
 こんな話一度もしたことがなかった。
 恋愛とは無縁で育ってきたため、幼馴染の好きなタイプについて聞いたこともない。皆目見当がつかなかった。
 燈司は目を離すことなく、時々クスクス笑って俺を見ている。その目に映っているのは確かに俺だったが、燈司の目に映った俺は酷く狼狽えていた。 
 結局、俺は、答えることができず、弁当も半分残したまま、そのまま昼休みを終えてしまった。
 もちろん、燈司は答えを聞かせてくれず「放課後続きね」と嬉しそうに自分の席に戻っていった。燈司の弁同箱は俺とは違って空になっていた。