(じゃあ、あいつと距離が近かったのはなんだよ。狩谷が距離感近いだけ……? いや、でも、だって、あいつ……あんなに距離近くなかっただろう)
理人が、燈司のこと好きになってあんな行動をしていた?
訳が分からなくなり、俺は額を押さえた。
「凛、何でそう思ったの?」
「だって……お前ら、最近距離近いし。そもそも、あいつが! お前の、恋人知ってるっていったから」
「……理人、口が軽いなあ、もう」
「と、燈司?」
チッと舌打ちが聞こえた気がした。それから、少し鋭い目がこちらに向けられる。
また俺は勘違いしたということだろうか。
球技大会のときは修二のことを、そして最近怪しいって理人のことを。でも、全くの見当はずれで、燈司はそれに呆れているのか。
だったら誰だというのか。
頭の中に、クラスメイトが順に浮かんでは消えていく。何も男子に絞る理由はなかったが、クラスメイトはだいたい燈司のことをかわいい王子様というようにしか見ていない。もちろん、上っ面だけじゃ何もわからないが、多分クラスの女子の中に燈司と付き合っているやつはいない。そんなふうに隠し通せる女子はうちのクラスにはいないのだ。
だからこそ、男子に絞った。燈司は誰とでも仲良くできるやつで、即興でグループを作ることになってもグループワークが難なくできる男だった。
燈司に近い男子から探っていった。それが、あの二人だったのに。
当てがすべて外れ、俺は肩の力が抜け、腕がぷらんと重力に従って動く。
「外れ、外れだよ。凛。ほんと、鈍感だから困っちゃう」
「狩谷じゃない」
「じゃない!! 理人じゃ絶対にない!! だって、理人恋人いるし」
「は、はあ!? そ、そうなのか……いや、そっか。あいつモテるもんな」
「そーだよ。それに、俺のタイプじゃないの。凛、俺のことみてなさすぎ」
ぽこぽこと怒りながら、燈司は俺の横を通っていく。
そのまま外に出て行ってしまうのではないかと思い、俺は腕を伸ばした――が、燈司は数秒もしないうちに自分のキャリーケースを転がして帰ってきた。窓側のベッドサイドにキャリーケースを置くと、ジッパーを下ろし、ベッドの上に下着や明日の服を投げていく。
「そういえば、小さいころはよくどっちかの家にお泊りしたよね」
「あっ、ああ、した。したな。懐かしい」
弾かれたように俺は咄嗟に返答する。
先ほどの雰囲気とは打って変わり、燈司は昔を懐かしむように話を始めた。
幼いころといっても小学校のころだ。一か月に一回は、どっちかの家にお泊りする習慣があった。家は隣同士で簡単に行き来できるから、互いに互いの家が第二の家のようになっていた。だが、やはりお泊りという単語はまだ幼い俺たちには特別なものに感じ、一か月に一回の楽しみを満喫した。
そのときに出る夕飯はいつもより豪華で、手巻きやたこ焼き、ホーム焼肉といったみんなでワイワイ食べられるものだったのを覚えている。昼間に、親に連れてもらって映画に行ったり、クレープを家で作ったり。思い出せばたくさんの楽しい記憶がよみがえってくる。
「凛が俺の家に泊まりに来てくれたとき、深夜まで起きていようって話になったじゃん。あのとき、結局十二時まで起きていられなくて、でも、夜中の二時に目が覚めちゃったんだよね。あのころはまだ、一人で夜中にトイレに行くのも怖くて。凛が付き添ってくれたの……覚えてる?」
「そんなことあった気がする。でも、俺だって怖かったんだぞ。お前の家、暗くて。廊下の電機も届かねえし。学校で作った自家発電機もって廊下に出て一階まで下りたよな」
「そう。ずっと凛は手を握っててくれて。俺が、トイレにいる間ずっといるよねーっていう声に、いるーって返してくれたんだよ。それは覚えてる?」
「記憶にちょっとある」
小学校四年生だったか。
燈司の言ったように理科だったか家庭科だったかで作った自家発電機のハンドルをぐるぐる回しながら、暗い廊下を二人で歩いた記憶がある。燈司は、目をぎゅっと閉じて、俺の服が伸びるくらい掴んでいた。
俺だって、あの時は暗くて怖かった。けど、俺まで怖がっていたらよけいに燈司を怖がらせてしまうんじゃないかって我慢したんだ。
脚もバカみたいに震えてたと思う。
中学生に上がってからでも暗いところは怖かった。でも、小学生のときみたいに一緒にトイレに行くことはなかった。しかし、燈司はトイレから帰ってくると「起きてる?」と聞くのだ。燈司に声をかけられたら起きないわけがない。俺は眠たいながらも「おかえり」と燈司に言ったのを覚えている。そのとき燈司は嬉しそうに「ただいま」っていったんだよな。
遠い昔の記憶が、昨日のように鮮明に浮かび上がってくる。
懐かしい。そんな記憶たちは今でも宝物だし、俺たちはあの頃から変わっていない。昨日のことのように昔のことを思い出せるのだから。
「だからね、凛は昔から俺の王子さまなんだよ」
「またその話かよ。俺は王子さまじゃねえよ。ダサいし、かっこ悪いし。大きいだけ」
「……アピールしてるのに鈍感凛…………変わってないよ。ダサいって思うときもあるけど、そういうのも含めて凛だから」
お風呂どっちが先に入る? と、燈司が優しい声色で聞いてくる。
その前に何か言ったようだが聞き取れなかった。俺は、燈司の言葉を受け「まず、一緒に風呂みにいかね?」と誘った。
理人が、燈司のこと好きになってあんな行動をしていた?
訳が分からなくなり、俺は額を押さえた。
「凛、何でそう思ったの?」
「だって……お前ら、最近距離近いし。そもそも、あいつが! お前の、恋人知ってるっていったから」
「……理人、口が軽いなあ、もう」
「と、燈司?」
チッと舌打ちが聞こえた気がした。それから、少し鋭い目がこちらに向けられる。
また俺は勘違いしたということだろうか。
球技大会のときは修二のことを、そして最近怪しいって理人のことを。でも、全くの見当はずれで、燈司はそれに呆れているのか。
だったら誰だというのか。
頭の中に、クラスメイトが順に浮かんでは消えていく。何も男子に絞る理由はなかったが、クラスメイトはだいたい燈司のことをかわいい王子様というようにしか見ていない。もちろん、上っ面だけじゃ何もわからないが、多分クラスの女子の中に燈司と付き合っているやつはいない。そんなふうに隠し通せる女子はうちのクラスにはいないのだ。
だからこそ、男子に絞った。燈司は誰とでも仲良くできるやつで、即興でグループを作ることになってもグループワークが難なくできる男だった。
燈司に近い男子から探っていった。それが、あの二人だったのに。
当てがすべて外れ、俺は肩の力が抜け、腕がぷらんと重力に従って動く。
「外れ、外れだよ。凛。ほんと、鈍感だから困っちゃう」
「狩谷じゃない」
「じゃない!! 理人じゃ絶対にない!! だって、理人恋人いるし」
「は、はあ!? そ、そうなのか……いや、そっか。あいつモテるもんな」
「そーだよ。それに、俺のタイプじゃないの。凛、俺のことみてなさすぎ」
ぽこぽこと怒りながら、燈司は俺の横を通っていく。
そのまま外に出て行ってしまうのではないかと思い、俺は腕を伸ばした――が、燈司は数秒もしないうちに自分のキャリーケースを転がして帰ってきた。窓側のベッドサイドにキャリーケースを置くと、ジッパーを下ろし、ベッドの上に下着や明日の服を投げていく。
「そういえば、小さいころはよくどっちかの家にお泊りしたよね」
「あっ、ああ、した。したな。懐かしい」
弾かれたように俺は咄嗟に返答する。
先ほどの雰囲気とは打って変わり、燈司は昔を懐かしむように話を始めた。
幼いころといっても小学校のころだ。一か月に一回は、どっちかの家にお泊りする習慣があった。家は隣同士で簡単に行き来できるから、互いに互いの家が第二の家のようになっていた。だが、やはりお泊りという単語はまだ幼い俺たちには特別なものに感じ、一か月に一回の楽しみを満喫した。
そのときに出る夕飯はいつもより豪華で、手巻きやたこ焼き、ホーム焼肉といったみんなでワイワイ食べられるものだったのを覚えている。昼間に、親に連れてもらって映画に行ったり、クレープを家で作ったり。思い出せばたくさんの楽しい記憶がよみがえってくる。
「凛が俺の家に泊まりに来てくれたとき、深夜まで起きていようって話になったじゃん。あのとき、結局十二時まで起きていられなくて、でも、夜中の二時に目が覚めちゃったんだよね。あのころはまだ、一人で夜中にトイレに行くのも怖くて。凛が付き添ってくれたの……覚えてる?」
「そんなことあった気がする。でも、俺だって怖かったんだぞ。お前の家、暗くて。廊下の電機も届かねえし。学校で作った自家発電機もって廊下に出て一階まで下りたよな」
「そう。ずっと凛は手を握っててくれて。俺が、トイレにいる間ずっといるよねーっていう声に、いるーって返してくれたんだよ。それは覚えてる?」
「記憶にちょっとある」
小学校四年生だったか。
燈司の言ったように理科だったか家庭科だったかで作った自家発電機のハンドルをぐるぐる回しながら、暗い廊下を二人で歩いた記憶がある。燈司は、目をぎゅっと閉じて、俺の服が伸びるくらい掴んでいた。
俺だって、あの時は暗くて怖かった。けど、俺まで怖がっていたらよけいに燈司を怖がらせてしまうんじゃないかって我慢したんだ。
脚もバカみたいに震えてたと思う。
中学生に上がってからでも暗いところは怖かった。でも、小学生のときみたいに一緒にトイレに行くことはなかった。しかし、燈司はトイレから帰ってくると「起きてる?」と聞くのだ。燈司に声をかけられたら起きないわけがない。俺は眠たいながらも「おかえり」と燈司に言ったのを覚えている。そのとき燈司は嬉しそうに「ただいま」っていったんだよな。
遠い昔の記憶が、昨日のように鮮明に浮かび上がってくる。
懐かしい。そんな記憶たちは今でも宝物だし、俺たちはあの頃から変わっていない。昨日のことのように昔のことを思い出せるのだから。
「だからね、凛は昔から俺の王子さまなんだよ」
「またその話かよ。俺は王子さまじゃねえよ。ダサいし、かっこ悪いし。大きいだけ」
「……アピールしてるのに鈍感凛…………変わってないよ。ダサいって思うときもあるけど、そういうのも含めて凛だから」
お風呂どっちが先に入る? と、燈司が優しい声色で聞いてくる。
その前に何か言ったようだが聞き取れなかった。俺は、燈司の言葉を受け「まず、一緒に風呂みにいかね?」と誘った。



