(まあ、このクラスのやつら別に仲悪いってわけじゃねえけど……)
もうすでにチームを決めたのか、女子たちはキャッキャッと騒いでいるし、部活動が一緒の男子や、中学校からの知り合いは固まってすでにチームを結成しているようだった。
そうなってくると、誰ともチームを組めなかったか、あるいは七人という定員をオーバーしてしまったか……残っているやつは、奇しくもはみ出してしまったやつだろう。
そいつらとチームを組むのは問題ないが、相手も、俺たちも気まずくなってはチームの団結が固まらない気がする。行事ごとははっちゃけるタイプではないが、やるからには勝ちたい。そのためには、強いやつを引き抜く必要があった。
「燈司、誰か誘いたいやついる? てか、友だちいるか?」
「酷いよ、その質問。俺に友だちがいないみたいな……」
「わりぃ。お前は友だち百人いるよな!」
「そんなには……でも、凛より友だちは多いかもだけど」
「それもひでえ話だな!……ああ、燈司ちょっと」
「今度は何?」
俺は、燈司の肩をグイッと引き寄せてコソコソと耳打ちした。
「お前の恋人誘わなくていいのか? これ男女混合でもチームくめるんだろ? いや、お前の恋人が誰かも分かってないんだけどさ」
燈司も、先ほど俺と同じように教室を見渡していた。ということは、燈司は恋人を誘う気だったんじゃないだろうか。
俺はそう推測したが、燈司はきょとんとした顔で俺を見る。
燈司が恋人を誘ってくれれば、彼の恋人が誰だかすぐに判明するのでいいと思った。だが、燈司がそんな凡ミスをするわけない。
俺が「どうなんだよ?」と聞くと、燈司は俺の耳たぶを引っ張り「俺の恋人当てる気ないでしょ」と怒鳴った。耳を引っ張られたため、いつもより鼓膜がピンと張っていて、ダイレクトに燈司の声が頭の中に響く。
「バレた?」
「バレバレ。ダメだよ。それはズルだよ」
「いけると思ったんだけどなー」
俺たちがそんなこそこそ話をしていると、まだ後ろにいたのか秀人が「昼間からいちゃつかないでくださーい」とヤジを飛ばしてくる。
「秀人……ダメだ。あいつら熟年夫婦だもん。俺らがヤジ飛ばしても痛くもかゆくもないって」
「それもそーか」
「うんうん。熟した白雪姫カップルだもん。凛ちゃんジュクジュクのぐじゅぐじゅリンゴだもーん。俺たち、同じチームになったら目の前でイチャイチャされちゃうかも」
「困るなあーあいらの……とくに、凛ちゃんの顔面にボール落ちねえかなあ」
「おい! だから外野! お前ら、それかなり酷いこと言ってるからな!!」
燈司の肩を組んだまま指摘すると、二人は、んべ、と舌を出して素知らぬふりをした。
外野のせいで、燈司との会話にまったく集中できない。
燈司の声でスッキリ起きることができなかったせいもあり、頭がガンガンに痛い。低気圧も関係しているだろうか。
そんなことを思っていると、ツンツン俺の頬がつつかれる。
「あのさ、凛、凛」
「んー? なんだ、燈司」
「俺はさ、恋人と同じチームがいいっていうよりかは、恋人にかっこいい所見せれたらいいって思う人間なんだよね」
「ほーん。やっぱり、燈司ってロマンチストだな」
「これってロマンチストっていうのかな?」
燈司は小首をかしげて、少しだけ唇を突き出した形で俺を見ていた。
丸くて大きな瞳はきれいだし、眉毛も少し眉尻が下がっているのがかわいい。
(燈司って、恋人にかっこいいって思われたいんだな)
十分かっこいいと俺は思う。些細な気配りができるところとか、優しい口調とか。その性格の良さは、男女ともに好かれるものだろう。
俺なんかとは大違いだ。
「んじゃ、どうする? あと二人探さねえと。本当は、あのバカ二人とは組みたくねえけど」
秀人と光晴はすでにいなくなっていた。おなかが空いて耐えきれなくなって購買にでも行ったのだろう。あいつらの昼飯はだいたい購買で買ったサンドイッチかおにぎりだ。
「でも、秀人と光晴って凛と同じ部活だし運動神経いいんだよね。彼らがチームから抜けちゃうと、逆に俺たちが他の足りていないチームに組み込まれちゃうかも。俺、凛とはいっしょがいいな。ほら、去年は凛が引き抜かれちゃったし」
燈司は伏し目がちにそう言って、ネクタイを弄った。
燈司がそんなことを思っていたなんて、俺は考えもしなかった。
去年も同じクラスだったし、燈司は俺とは違い引く手あまただった。燈司のチームは決勝トーナメントまで進んでいたし、和気あいあいとした空気かんで羨ましかったのを覚えている。俺はさんざん「身長が高いくせに、へたくそ!」とバレー部の奴らにこっぴどく叱られた。ちょうど七人チームだったので、基本的に補欠。決勝トーナメントも初戦敗退で、燈司たちのチームよりも成績が悪かった。やっぱり、チームの結束力は必要だ。
(確かに、あいつらと組んでればあと二人来てくれるだけでチームが成立するし、固まっておいたほうがいいよな……)
あいつらだってどこかのチームに引き抜かれるかもしれない。
俺はそんなことを思っていると、ぐううううと大きな腹の音が鳴ってしまった。燈司はぱちくりと目を瞬かせ「俺たちも買いに行く?」と言ってくれる。どうやら燈司は今日、購買に行きたいらしく俺の服の裾をちょんとつまんでいた。
もうすでにチームを決めたのか、女子たちはキャッキャッと騒いでいるし、部活動が一緒の男子や、中学校からの知り合いは固まってすでにチームを結成しているようだった。
そうなってくると、誰ともチームを組めなかったか、あるいは七人という定員をオーバーしてしまったか……残っているやつは、奇しくもはみ出してしまったやつだろう。
そいつらとチームを組むのは問題ないが、相手も、俺たちも気まずくなってはチームの団結が固まらない気がする。行事ごとははっちゃけるタイプではないが、やるからには勝ちたい。そのためには、強いやつを引き抜く必要があった。
「燈司、誰か誘いたいやついる? てか、友だちいるか?」
「酷いよ、その質問。俺に友だちがいないみたいな……」
「わりぃ。お前は友だち百人いるよな!」
「そんなには……でも、凛より友だちは多いかもだけど」
「それもひでえ話だな!……ああ、燈司ちょっと」
「今度は何?」
俺は、燈司の肩をグイッと引き寄せてコソコソと耳打ちした。
「お前の恋人誘わなくていいのか? これ男女混合でもチームくめるんだろ? いや、お前の恋人が誰かも分かってないんだけどさ」
燈司も、先ほど俺と同じように教室を見渡していた。ということは、燈司は恋人を誘う気だったんじゃないだろうか。
俺はそう推測したが、燈司はきょとんとした顔で俺を見る。
燈司が恋人を誘ってくれれば、彼の恋人が誰だかすぐに判明するのでいいと思った。だが、燈司がそんな凡ミスをするわけない。
俺が「どうなんだよ?」と聞くと、燈司は俺の耳たぶを引っ張り「俺の恋人当てる気ないでしょ」と怒鳴った。耳を引っ張られたため、いつもより鼓膜がピンと張っていて、ダイレクトに燈司の声が頭の中に響く。
「バレた?」
「バレバレ。ダメだよ。それはズルだよ」
「いけると思ったんだけどなー」
俺たちがそんなこそこそ話をしていると、まだ後ろにいたのか秀人が「昼間からいちゃつかないでくださーい」とヤジを飛ばしてくる。
「秀人……ダメだ。あいつら熟年夫婦だもん。俺らがヤジ飛ばしても痛くもかゆくもないって」
「それもそーか」
「うんうん。熟した白雪姫カップルだもん。凛ちゃんジュクジュクのぐじゅぐじゅリンゴだもーん。俺たち、同じチームになったら目の前でイチャイチャされちゃうかも」
「困るなあーあいらの……とくに、凛ちゃんの顔面にボール落ちねえかなあ」
「おい! だから外野! お前ら、それかなり酷いこと言ってるからな!!」
燈司の肩を組んだまま指摘すると、二人は、んべ、と舌を出して素知らぬふりをした。
外野のせいで、燈司との会話にまったく集中できない。
燈司の声でスッキリ起きることができなかったせいもあり、頭がガンガンに痛い。低気圧も関係しているだろうか。
そんなことを思っていると、ツンツン俺の頬がつつかれる。
「あのさ、凛、凛」
「んー? なんだ、燈司」
「俺はさ、恋人と同じチームがいいっていうよりかは、恋人にかっこいい所見せれたらいいって思う人間なんだよね」
「ほーん。やっぱり、燈司ってロマンチストだな」
「これってロマンチストっていうのかな?」
燈司は小首をかしげて、少しだけ唇を突き出した形で俺を見ていた。
丸くて大きな瞳はきれいだし、眉毛も少し眉尻が下がっているのがかわいい。
(燈司って、恋人にかっこいいって思われたいんだな)
十分かっこいいと俺は思う。些細な気配りができるところとか、優しい口調とか。その性格の良さは、男女ともに好かれるものだろう。
俺なんかとは大違いだ。
「んじゃ、どうする? あと二人探さねえと。本当は、あのバカ二人とは組みたくねえけど」
秀人と光晴はすでにいなくなっていた。おなかが空いて耐えきれなくなって購買にでも行ったのだろう。あいつらの昼飯はだいたい購買で買ったサンドイッチかおにぎりだ。
「でも、秀人と光晴って凛と同じ部活だし運動神経いいんだよね。彼らがチームから抜けちゃうと、逆に俺たちが他の足りていないチームに組み込まれちゃうかも。俺、凛とはいっしょがいいな。ほら、去年は凛が引き抜かれちゃったし」
燈司は伏し目がちにそう言って、ネクタイを弄った。
燈司がそんなことを思っていたなんて、俺は考えもしなかった。
去年も同じクラスだったし、燈司は俺とは違い引く手あまただった。燈司のチームは決勝トーナメントまで進んでいたし、和気あいあいとした空気かんで羨ましかったのを覚えている。俺はさんざん「身長が高いくせに、へたくそ!」とバレー部の奴らにこっぴどく叱られた。ちょうど七人チームだったので、基本的に補欠。決勝トーナメントも初戦敗退で、燈司たちのチームよりも成績が悪かった。やっぱり、チームの結束力は必要だ。
(確かに、あいつらと組んでればあと二人来てくれるだけでチームが成立するし、固まっておいたほうがいいよな……)
あいつらだってどこかのチームに引き抜かれるかもしれない。
俺はそんなことを思っていると、ぐううううと大きな腹の音が鳴ってしまった。燈司はぱちくりと目を瞬かせ「俺たちも買いに行く?」と言ってくれる。どうやら燈司は今日、購買に行きたいらしく俺の服の裾をちょんとつまんでいた。



