「私たち、つきあって2年半くらいになるのね。でも、幸太……あ」
「ラガーマンね」
「そう、ラガーマン。彼と付き合い始めから今まで全然変わらないの、態度が」
「へー、贅沢な話じゃん」
「そうなんだけどね。最終的にどっちかの家に行くのに、必ずその前にどこかに遊びに行ったり、ごはんを食べに行ったりするんだ」
「ダメなの?」
「ダメじゃないよ。ダメじゃないんだけど、家に行っても泊まらないことの方が多いから、その日じゅうに帰らなきゃいけないでしょ。お互いに仕事もけっこう忙しいから、余計な時間を使いたくないなって思うの」
口に出してみて、ふと思う。自分は、目的のないことに対して、「余計な時間」だと思っていたのかと。
「いつも通りになんとなく食べて、なんとなく帰って……。なんか関係が止まってる気がするんだ」
恵美子は口をはさまず黙って聞いてくれていたので、そのまま続ける。
「……私、今までちゃんと付き合ってるつもりだった。でも……今日、幸太に言われて……傷つかない距離を、キープしすぎてたのかもって」
言葉にして初めて、自分が何に怯えていたのかが、少しだけ見えた気がしたのだ。
彩の言葉に、恵美子は珍しく神妙な顔をしていて、一生懸命その状況を想像してくれようとしているのがわかる。
やがて、ぽつりと口を開いた。
「会いたくないわけじゃないんだよね?」
「うん」
「別れたいとかでもないよね?」
「もちろん」
「でもって、彩ちゃんは昔でいうバリキャリってわけじゃないんだよね?」
「バリキャリ? それ死語じゃない?」
バリキャリ――バリバリ働くキャリアウーマンのことだ。いまやそんな感じの人いるんだろうか? イクメンも増えてきたし、ワークライフバランスを重んじる今、少ない気もする。
「そう? バリキャリとかゆるキャリとかってまだまだ言うよ? でも彩ちゃんはそうじゃないってことでしょ」
「もちろん仕事は大切だし、頑張りたい。恋愛だって向き合いたいよ。でも、どっちにも『私』がいないと意味がないと思うんだよね。幸太と会ってる時も自分の時間だって言うかもしれないけど、肌のお手入れしたりネイルしたり、本読んだり動画配信みたり――、そういう超プライベートな時間っていうかな、自分づくりの」
「うん、わかる。それでこそ彩ちゃんって感じ」
そうなったのは恵美子の喝以来だ。
生き方にブレがない恵美子の言葉は、それはそれは体の芯がシビれるくらいだった。でも、そのおかげで、今、仕事と恋愛と結婚はそれぞれ独立したものとして考えられるようになった。
そんな考えになってから幸太と付き合うようになったから、お互いわかりあえてると思っていたのに……。
「自分の時間を大切にしたいっていうのは、踏み込まない言い訳だったのかも。自分を守ることだけに精一杯だったのかな」
「わかるわかる。私も圭介に『おまえはいつもひとりで完結する』って言われたことあるよ」
恵美子はぶんぶんと首を縦に振った。
「ラガーマンね」
「そう、ラガーマン。彼と付き合い始めから今まで全然変わらないの、態度が」
「へー、贅沢な話じゃん」
「そうなんだけどね。最終的にどっちかの家に行くのに、必ずその前にどこかに遊びに行ったり、ごはんを食べに行ったりするんだ」
「ダメなの?」
「ダメじゃないよ。ダメじゃないんだけど、家に行っても泊まらないことの方が多いから、その日じゅうに帰らなきゃいけないでしょ。お互いに仕事もけっこう忙しいから、余計な時間を使いたくないなって思うの」
口に出してみて、ふと思う。自分は、目的のないことに対して、「余計な時間」だと思っていたのかと。
「いつも通りになんとなく食べて、なんとなく帰って……。なんか関係が止まってる気がするんだ」
恵美子は口をはさまず黙って聞いてくれていたので、そのまま続ける。
「……私、今までちゃんと付き合ってるつもりだった。でも……今日、幸太に言われて……傷つかない距離を、キープしすぎてたのかもって」
言葉にして初めて、自分が何に怯えていたのかが、少しだけ見えた気がしたのだ。
彩の言葉に、恵美子は珍しく神妙な顔をしていて、一生懸命その状況を想像してくれようとしているのがわかる。
やがて、ぽつりと口を開いた。
「会いたくないわけじゃないんだよね?」
「うん」
「別れたいとかでもないよね?」
「もちろん」
「でもって、彩ちゃんは昔でいうバリキャリってわけじゃないんだよね?」
「バリキャリ? それ死語じゃない?」
バリキャリ――バリバリ働くキャリアウーマンのことだ。いまやそんな感じの人いるんだろうか? イクメンも増えてきたし、ワークライフバランスを重んじる今、少ない気もする。
「そう? バリキャリとかゆるキャリとかってまだまだ言うよ? でも彩ちゃんはそうじゃないってことでしょ」
「もちろん仕事は大切だし、頑張りたい。恋愛だって向き合いたいよ。でも、どっちにも『私』がいないと意味がないと思うんだよね。幸太と会ってる時も自分の時間だって言うかもしれないけど、肌のお手入れしたりネイルしたり、本読んだり動画配信みたり――、そういう超プライベートな時間っていうかな、自分づくりの」
「うん、わかる。それでこそ彩ちゃんって感じ」
そうなったのは恵美子の喝以来だ。
生き方にブレがない恵美子の言葉は、それはそれは体の芯がシビれるくらいだった。でも、そのおかげで、今、仕事と恋愛と結婚はそれぞれ独立したものとして考えられるようになった。
そんな考えになってから幸太と付き合うようになったから、お互いわかりあえてると思っていたのに……。
「自分の時間を大切にしたいっていうのは、踏み込まない言い訳だったのかも。自分を守ることだけに精一杯だったのかな」
「わかるわかる。私も圭介に『おまえはいつもひとりで完結する』って言われたことあるよ」
恵美子はぶんぶんと首を縦に振った。

