白い木製のローテーブルは、料理でいっぱいになった。
 恵美子がひとつひとつ手を添えながら説明してくれる。
「はい、こちらからご説明します」
 声までつくって、いやにかしこまるので、彩も姿勢を正す。
「なーんて。ラムの揚げ餃子でしょー。ラムと野菜の焼きうどん、それから野菜スープ!」
 いきなりくだけた口調になった。
 この短時間に、しかも会話しながら作ってくれたことに今さらながら感動する。
「わー、心していただきます!」
 手を合わせてから、さっそく恵美子が一番に説明してくれた揚げ餃子をお皿にとると、たれなど何もつけずにそのままいただいた。
 揚げ餃子はパリッパリの皮とぷりぷりのお肉でとてもジューシーだった。揚げているはずなのに、全然油っぽくない。
「うまっ」
「そう? よかったー」
「やっぱ、おいしいわー。恵美子の料理久しぶりすぎる」
 恵美子はにこにこしながら、ビールを缶のままぐいっと飲む。
「やだ、ついだのにー。ごめん」
「私にはこれが合ってるのさ〜」
 歌うように言いながら、缶ビールを置くと自分も揚げ餃子に手を伸ばす。
「おー、こんな感じだった。我ながらうまくいったわ。あ、彩ちゃん、ビールのおかわりはセルフでね〜」
「わかってる」
 彩は立ち上がり、冷蔵庫からビールを取り出す。
「そういえば、彩ちゃんの乾杯してなかったね」
「なんの?」
 テーブルに戻ってきて、ビールのタブを引きながら尋ねる。
「推し服キットのヒット。それ聞いたとき、とうとうやったかーって嬉しかったよ。頑張ってたもんね」
「ちょうど推し活が流行ったからっていうのもあるかもしれないけど。でもあの時、恵美子が喝いれてくれなきゃ、それもなかったかもしれない」
 彩が、先のことばかり考えて焦りまくって、仕事もそこそこにただ婚活に奔走していた時。
「彩ちゃん綺麗になったけど、つまらなくなったよ。中途半端なループにハマってる彩ちゃん、見てられないんだけど」
そうバッサリ言われたのだ。
 その時はイラッとしたけれど、恵美子の言葉はど真ん中をついてきたから何も言い返せなかった。
 自分の頭で妄想したことに逃げ込んじゃいけない。だから、自分の気持ちと向き合って、納得行くまで取り組もうと思えた。
 そして、ふっきれてから、再び、ずっと一緒にやってきた外注のデザイン制作会社の小出とともに新しい企画を考え始めたのだ。
 
 それで初めてきちんと通った企画が「推し服着せ替えキット」だった。
 昔、彩がハマった着せ替えと、推し服づくりを組み合わせてみた。服を縫うのではなく、テープで貼り付けるだけで、服が完成する。それにデコパーツなどをつけるとオリジナルの服になるというわけだ。
 推し活用のマスコットなどの流行にのり、SNSで広がったこともあって、商品は久しぶりのヒットとなった。
「そういえば、一緒に住んでる頃の彩ちゃんって、いつも働いてたよね」
 恵美子が懐かしそうに言う。
「うん、まぁ、あの頃はがむしゃらだったかもね」
「大人になって落ち着いたのかねー」
「……そうかな」
 口ではそう返したけれど、胸の奥にちくりとした違和感が残る。
 今の私も頑張っている部分はあるのにな、と。
 それについては聞いてもらえない。