その後、彩が持参したコーヒー豆を、彩がプレゼントしたミルでひいてくれ、香ばしい香りが部屋に満ちた。
マグにコーヒーが注がれ、手渡される。
「ちゃんと、今の私で人と向き合わないとダメだね」
「彩ちゃん、また変わったね」
「そうかな。でも、変わらないでいてくれる人がいるから、やっとその勇気が持てたのかもね」
彩が言うと、恵美子は「もう、そういうセリフずるい!」と笑いながら肩をつついてきた。
窓の外には、秋の夕暮れが広がっていた。薄くなった陽射しがカーテン越しに射し込み、ふたりの影を淡く染める。
彩はマグを両手で包んだまま、ゆっくりと息を吐いた。
「ねぇ、恵美子。私たち、いつからちゃんと話せる大人になったんだろうね」
「さぁ……わかんないけど、たぶん、痛い思いした数だけじゃない?」
その言葉に二人で、ふっと笑う。
「痛い思いはしすぎてる」
「でもさ、大人になるって、なんかずっとやめないことなのかもって思った」
「やめない?」
「誰かと関わることも、自分で選ぶことも。一度じゃうまくいかなくても、それでもやめないでいること。それが、大人の青春ってやつなんじゃないかなって」
恵美子は少し目を細めて、笑うような、照れるような顔をした。
「ほんと、恵美子のそういうとこ変わんないよね。昔から、大事なときだけ刺さること言うんだから」
「たまたまだよ。言おうと思ってたわけじゃないし」
「……でも、なんか、救われるんだよね、そういうの」
彩はそう言って、ゆっくりマグを口に運んだ。
コーヒーの香りが、ふたりの間に静かに満ちていく。
ほんの少しだけ冷えはじめた秋の夜、
言葉のあとに残ったのは、何も言わなくてもわかる、やわらかな気配だった。
綺麗ごとじゃない。
でも、笑って話せることが少しずつ増えてきた。
正解じゃなくてもいい。
ちゃんと向き合いたいと思える人がいれば、それでいい。
季節が変わるように、自分の心も少しずつ動いていく。
名前のつかない感情を抱えたままでも、それでも、ちゃんと「今」に立っていられる気がするから。
めんどくさくて、やさしい夜は、まだ少しだけ続いている。
マグにコーヒーが注がれ、手渡される。
「ちゃんと、今の私で人と向き合わないとダメだね」
「彩ちゃん、また変わったね」
「そうかな。でも、変わらないでいてくれる人がいるから、やっとその勇気が持てたのかもね」
彩が言うと、恵美子は「もう、そういうセリフずるい!」と笑いながら肩をつついてきた。
窓の外には、秋の夕暮れが広がっていた。薄くなった陽射しがカーテン越しに射し込み、ふたりの影を淡く染める。
彩はマグを両手で包んだまま、ゆっくりと息を吐いた。
「ねぇ、恵美子。私たち、いつからちゃんと話せる大人になったんだろうね」
「さぁ……わかんないけど、たぶん、痛い思いした数だけじゃない?」
その言葉に二人で、ふっと笑う。
「痛い思いはしすぎてる」
「でもさ、大人になるって、なんかずっとやめないことなのかもって思った」
「やめない?」
「誰かと関わることも、自分で選ぶことも。一度じゃうまくいかなくても、それでもやめないでいること。それが、大人の青春ってやつなんじゃないかなって」
恵美子は少し目を細めて、笑うような、照れるような顔をした。
「ほんと、恵美子のそういうとこ変わんないよね。昔から、大事なときだけ刺さること言うんだから」
「たまたまだよ。言おうと思ってたわけじゃないし」
「……でも、なんか、救われるんだよね、そういうの」
彩はそう言って、ゆっくりマグを口に運んだ。
コーヒーの香りが、ふたりの間に静かに満ちていく。
ほんの少しだけ冷えはじめた秋の夜、
言葉のあとに残ったのは、何も言わなくてもわかる、やわらかな気配だった。
綺麗ごとじゃない。
でも、笑って話せることが少しずつ増えてきた。
正解じゃなくてもいい。
ちゃんと向き合いたいと思える人がいれば、それでいい。
季節が変わるように、自分の心も少しずつ動いていく。
名前のつかない感情を抱えたままでも、それでも、ちゃんと「今」に立っていられる気がするから。
めんどくさくて、やさしい夜は、まだ少しだけ続いている。

