玄関を出ると、冷たい風が頬をなでる。
少しだけ目が潤んだ。それは風のせいか、飲みすぎのせいか、それとも…。
いつものようにイヤホンを耳にさそうとしたけれど、手が止まる。
無音の夜の方が、今日はいい気がした。
「私、ちゃんと好きなのにな」
一人つぶやく。
伝わると思ってた。でも、伝える努力を怠っていたのは、彩の方だったのかもしれない。
ちゃんと関わるためには優しさだけじゃ足りない。
言葉にして、時には傷つけて、それでも向き合うことなんだ。
それがわかっているのに、やっぱり怖くて、本音で向き合うことから逃げていた。嫌われて、一人になるのが怖かったから。
セフレと言われたのは、彩自身がそれを否定してこなかったからかもしれない。
涙が出るほどちゃんと向き合いたいと思える人がいるのは、多分、すごいことだ。
「私、ちゃんと話したい」
その一言をLINEの返信欄にそっと打ち込む。
でも、すぐには送信しない。もう少し考えたかった。
そのとき、ふと思い出したのは、恵美子の言葉だった。
「自分に優しくできると、人にも優しくできるようになるよ」
人に優しく自分に厳しくなんて、まっすぐすぎて逆に信じられない。
今、私は、私にちゃんと優しくできてるかな。
駅前に到着して、LINEのメッセージを送信する。
ピコピコ🎵
送った瞬間、着信音がなり、びくっとする。
「さっきはごめん。今から会えないかな」
返信じゃない。幸太からのメッセージは思った以上にまっすぐだった。
夜の川沿いは、空気が乾いていた。夏の湿り気が抜けて、どこか肌寒い風が吹いてくる。
遠くから、金木犀の匂いがふわりと漂ってきた。
彩は、ゆっくりと遊歩道を歩きながら、前方のベンチに目を向けた。
幸太がいた。コートを羽織るには少し早いけれど、シャツの襟を立てて、風を避けるようにしていた。
「……待った?」
「ん。ちょっとだけ」
顔を上げた彼の声は、やわらかく、そして少し頼りなかった。大きな体をして、その不器用な感じが今の彼のまっすぐさにも思えて、少しだけ緊張がほどける。
ベンチの横に座る。目の前で、川の水がゆるやかに流れる音がする。
夜風にまじって、虫の声もかすかに聞こえた。
「……ごめん。さっき」
彩が先に口を開いた。
「俺の方こそ。あんなこと言ったら……な」
「うん。びっくりはした」
笑いながら言ったけど、胸の奥にはまだちょっとだけ棘が残っていた。
「でもさ、あぁやって言われて……そう思われても仕方ないのかも、とも、どこかで思ったんだよね」
「なんで?」
「私が、自分から踏み込むのを避けてたから、かな」
風がまた吹く。木の葉が、足元でかさりと音を立てた。
「傷つかないように言葉を選んで、優しさっていうベールで包んで、何も壊さないようにしてた」
「俺も、たぶんそう。彩は俺のこと、そんなに好きじゃないんだと思ってても、触れようとしなかったし」
「平気なふりとかスルーするのってさ、便利だけど、だんだん自分まで騙されてくるんだよね」
「……わかる。俺も大丈夫なふりしてたもんな」
しばらく沈黙が流れる。
でも、本音を言ったのに、最近のいつもの沈黙よりも気まずさはない。
幸太がぽつりと続けた。
「全部わかりあえるなんて思ってないし、全部心の中ぶちまけなきゃいけないとも思ってない。でもさ、何度でも話せる関係にはなりたい」
何度でも。
その言葉が、やわらかく胸にしみた。
彩は、少しだけうつむきながら言う。
「それって……ちゃんとつながろうって思ってる証拠だよね」
「そうなのかな。彩が何考えてるか、わかんないなって思うこと、正直あった。でも、わかんなくてもいいから、一緒にいたいって思った」
「ん……」
二人の間を、静かな秋の風が通り抜けた。川面に映る街灯が、さざなみに揺れている
「手、つないでいい?」
幸太がそっと言った。
「え……? まぁ、うん」
指先が触れ合い、そっと重なる。ちょっと冷えていた手が、じんわりと温かさを取り戻していった。
少しだけ目が潤んだ。それは風のせいか、飲みすぎのせいか、それとも…。
いつものようにイヤホンを耳にさそうとしたけれど、手が止まる。
無音の夜の方が、今日はいい気がした。
「私、ちゃんと好きなのにな」
一人つぶやく。
伝わると思ってた。でも、伝える努力を怠っていたのは、彩の方だったのかもしれない。
ちゃんと関わるためには優しさだけじゃ足りない。
言葉にして、時には傷つけて、それでも向き合うことなんだ。
それがわかっているのに、やっぱり怖くて、本音で向き合うことから逃げていた。嫌われて、一人になるのが怖かったから。
セフレと言われたのは、彩自身がそれを否定してこなかったからかもしれない。
涙が出るほどちゃんと向き合いたいと思える人がいるのは、多分、すごいことだ。
「私、ちゃんと話したい」
その一言をLINEの返信欄にそっと打ち込む。
でも、すぐには送信しない。もう少し考えたかった。
そのとき、ふと思い出したのは、恵美子の言葉だった。
「自分に優しくできると、人にも優しくできるようになるよ」
人に優しく自分に厳しくなんて、まっすぐすぎて逆に信じられない。
今、私は、私にちゃんと優しくできてるかな。
駅前に到着して、LINEのメッセージを送信する。
ピコピコ🎵
送った瞬間、着信音がなり、びくっとする。
「さっきはごめん。今から会えないかな」
返信じゃない。幸太からのメッセージは思った以上にまっすぐだった。
夜の川沿いは、空気が乾いていた。夏の湿り気が抜けて、どこか肌寒い風が吹いてくる。
遠くから、金木犀の匂いがふわりと漂ってきた。
彩は、ゆっくりと遊歩道を歩きながら、前方のベンチに目を向けた。
幸太がいた。コートを羽織るには少し早いけれど、シャツの襟を立てて、風を避けるようにしていた。
「……待った?」
「ん。ちょっとだけ」
顔を上げた彼の声は、やわらかく、そして少し頼りなかった。大きな体をして、その不器用な感じが今の彼のまっすぐさにも思えて、少しだけ緊張がほどける。
ベンチの横に座る。目の前で、川の水がゆるやかに流れる音がする。
夜風にまじって、虫の声もかすかに聞こえた。
「……ごめん。さっき」
彩が先に口を開いた。
「俺の方こそ。あんなこと言ったら……な」
「うん。びっくりはした」
笑いながら言ったけど、胸の奥にはまだちょっとだけ棘が残っていた。
「でもさ、あぁやって言われて……そう思われても仕方ないのかも、とも、どこかで思ったんだよね」
「なんで?」
「私が、自分から踏み込むのを避けてたから、かな」
風がまた吹く。木の葉が、足元でかさりと音を立てた。
「傷つかないように言葉を選んで、優しさっていうベールで包んで、何も壊さないようにしてた」
「俺も、たぶんそう。彩は俺のこと、そんなに好きじゃないんだと思ってても、触れようとしなかったし」
「平気なふりとかスルーするのってさ、便利だけど、だんだん自分まで騙されてくるんだよね」
「……わかる。俺も大丈夫なふりしてたもんな」
しばらく沈黙が流れる。
でも、本音を言ったのに、最近のいつもの沈黙よりも気まずさはない。
幸太がぽつりと続けた。
「全部わかりあえるなんて思ってないし、全部心の中ぶちまけなきゃいけないとも思ってない。でもさ、何度でも話せる関係にはなりたい」
何度でも。
その言葉が、やわらかく胸にしみた。
彩は、少しだけうつむきながら言う。
「それって……ちゃんとつながろうって思ってる証拠だよね」
「そうなのかな。彩が何考えてるか、わかんないなって思うこと、正直あった。でも、わかんなくてもいいから、一緒にいたいって思った」
「ん……」
二人の間を、静かな秋の風が通り抜けた。川面に映る街灯が、さざなみに揺れている
「手、つないでいい?」
幸太がそっと言った。
「え……? まぁ、うん」
指先が触れ合い、そっと重なる。ちょっと冷えていた手が、じんわりと温かさを取り戻していった。

