「もう、起きてよ」
「ん?ごめん」
「もう、ユズルくんはいつも寝てるね」
「ここって、日当たりがよくて眠気が増すんだよね」
「ねぇ、学校で何したの?」
「学校?んー、ずっと本を読んでた」
「ユズルくんってやっぱり友達いないでしょ」
「いや、いたよ。明るくてかわいい女の子と、イケメンで女の子が大好きな男の子」
「その女の子のこと、好きだった?」
「好きだったよ。でも、恋愛感情はなかったな。だって、あいつのこと好きだってバレバレだったしねぇ」
「そっか。会ってみたいな」
「んー、どうだろうね」
 何、その顔と笑いながら空を見上げるミヒロ。そんなに面白い顔をしてたんだろうか?
 まずまず、こんなほのぼのとした会話を週に一回するぐらいの仲ではあるけど、俺はミヒロのことをあまり知らない。そして、ミヒロも俺のことを名前しか知らない。彼女のために病院に通っているけども、これも一つの償いにすぎないのかもしれない。
 ずっと、ずっと、後悔を抱えて生きていけばいいと思っている。だから、俺には何もいらない。
「あ、飛行機雲だ!」
 子供みたいに目を輝かせて指さすミヒロを見ていると、思わず口元が緩む。そして、また引き締める。そんなことの繰り返しだ。
「・・・本当になにしてんだろうね」
 自分に対してなのか、それとも別の誰かに対してなのかわからない。
「ん?どうかした?」
 でもこの笑顔を見るたび、この子の前では笑っていよう。この子の思う『ユズル』でいようと思えてしまう。
「ううん。なんでもない」
「ね、しりとりしよう。言われたい言葉しりとり」
「またそれ?」
「うん。じゃあ、ありがとう」
「う、生まれきてくれてありがとう」
「う?うれしい」
「いいね」
「ね、ね、ねぇ、ちゅーしよ?」
「よ、よろしく」
「く、く、く・・・」
「これさ、楽しい?」
「んー、どうだろう?」
「何それ。じゃあ、なんでやろうと思ったの?」
「さあ、なんでだろう?」
「いや、まじで洒落にならないこと、たまに言ってるよ」
遊びだと俺はわかっているからなんとも思わないが、普通の人は「ねぇ、ちゅーしよ」とか言われたら「俺のこと好きなのかな?」とか勘違いする人たちが続出する。
「ミヒロは世間知らずだわ」
「わるかったね、小さいころからずっと入院してたから」
「それにしても世間知らずだよ」
ミヒロはどこか嬉しそうに空を見上げる。先ほどまでの反応とは全く違う。
「機嫌がよくなったらいいよ」