嫌いなあいつが気になって

「悪ぃ悪ぃっ!!」

 スマホ片手に謝ると、凛華はプクッと膨らませたほっぺたをすぐに戻して俺の腕に絡み付く。

「遅いよーぉ!ま、でも、カラオケでめっちゃイケボ聞かせてくれたら許すー!」

 こういうところが凛華のかわいいところで、一緒に居て楽なところだ。

「歌う!歌うっ!愛のバラードでも何でも捧げてやるって!何歌って欲しい?」

 その細い腰に腕を回すと、他の女二人は「じゃあ、私たちは塾だから」と申し訳なさそうにした。

「えーっ!塾ー?」
「勉強はあのカタブツにだけやらせとけよなー」

 口を尖らせる凛華に同調するように同意を求めると、「あ!」とポニーテールの方の女が何かを思い出したように声を出す。

「その宮部くんっていつもあの角のファミレスで勉強してるよね」

 提供されたのは何の得にもならない、むしろ、ちょっと鬱陶しい情報。

「は?」

 まさかのあの野郎は学校以外でもずっと勉強をしているらしい。
 マジで嫌味な野郎だ。

「そうそう!凄い勢いだよね!めちゃくちゃ頭いいのに更に勉強して……何でうちの高校に来たんだろう?」

 ショートカットの女もその話に乗ったが、すぐに「あ!本当に時間!!じゃあねっ!」と二人は帰って行った。
 手を振る凛華の後ろ姿を見ながら勉強する宮部を頭に浮かべて舌打ちをする。

「何ー?怒ってんのー?」
「別に。あの宮部って勉強ばっかで嫌味か?ってだけー」

 覗き込んでくる凛華の腰に手を回して引き寄せると、俺はケタケタ笑ってそのままカラオケへと足を向けた。
 静かな通りから雑然としたカラオケへ。
 
「凄いよねぇ!もうあれは別の人種なんだよ!私たちとは別次元での生き物!」
「難しいこと言うなよ」
「ははっ!琉生って本当にバカだもんねー」
「ヒドくね?」

 寄り添ってくる凛華と俺はそのまま声が枯れるまで歌いまくった。