嫌いなあいつが気になって

「きみは恩人だったはずなのに……」

 一度俯いてから顔を上げる宮部。

「……あの時の笑顔が頭から離れなくて……あの日から何日もずっと……僕はドキドキし続けていた」

 照明の僅かな光で見るメガネのない宮部の横顔。

「初めて触れた人の優しさに気が高ぶっているんだって……そう思っていたよ?」

 どんな顔でそんな話をしているのかしっかり見たくなって、こっちを向かないか?なんて思ってしまう。
 なのに、宮部はゆっくり瞼を伏せて、またゆっくりと時間をかけて開いた。
 それさえもちょっと特別に見える。

「……高校に入って、同じクラスに村瀬くんが入って来て……僕の後ろに座った時なんてもう……」

 フルフルと体を震わす宮部がかわいくて仕方ない。

「……心臓が飛び出した気がした」

 思い出すように話す宮部を俺はただ見つめる。
 珍しくよく喋る宮部。
 しかも、それが俺のことだなんて……夢のようだ。

「……気持ちが爆発するんじゃないか、と思って……」

 ポツポツと話すのなんて、これまでの俺ならかなり急かしている。
 なのに、これについては宮部のペースで話される言葉をこのままちゃんと聞いていたかった。

「……目が合わないように……声を聞いて舞い上がらないように……もう目の前の教科書を必死で読んだんだよ」

 ふふっと小さく笑って宮部はこっちを向く。