嫌いなあいつが気になって

 玄関を開けると「お帰りー!」と母さんの声が聞こえてくる。
 宮部と靴を脱いでリビングに入ると、母さんは皿をダイニングに運びながらもう一度「お帰り!」と明るく出迎えてくれた。

「ただいま」

 はにかむ宮部がちょっとかわいい、と思いつつ俺はリュックを投げてソファーに座る。
 宮部は丁寧にリュックを下ろすと、ネクタイを外して手を洗いに行った。
 そのまま手伝いを始める宮部を俺は目で追う。


 あっという間に季節は夏で、夏休みも近い。
 この一学期、中間も期末も赤点はなく、授業もサボらなかった俺に工藤はかなり驚いていた。
 だが、宮部と一緒の姿も何度も見られているからか、

「お互いよかったな」

 ホッとしたように言われて、俺は理解ができない。
 工藤に意味を尋ねたが、それは教えてくれなかった。
 お互い……?
 宮部が俺と居てプラスになった何かとは……飯か?
 考えているとスマホが鳴って、俺はポケットから取り出してその画面を見る。
 凛華からのメッセージを見て、『気が向いたら』それだけを返してスマホは机に置いた。

「ちょっと村瀬くんもこっちを持って」
「はーぁ?何で俺が」

 面倒臭そうに返事をしながらも、箱からホットプレートを出そうとして引っかかったまま苦戦している宮部の姿にはキュンとする。
 学校では見ないそんな姿。

「せいくんが手伝ってくれてるんだから琉生も手伝いなさい」
「へいへい」

 母さんにも言われて、俺は渋々腰を上げた。
 “聖人”は宮部の母親が忘れられない男の名で、たぶん自分の父親の名であるというのを聞いたのは少し前。
 母さんたちはそんなことまでは聞いていないくせに、いつの間にか宮部を“せいくん”と呼ぶようになっていた。