嫌いなあいつが気になって

 あれから図書室で勉強したり、うちにそのまま来て勉強したり。
 とにかく少し勉強をしてうちで夕飯を食べるのは日常になった。

「琉生に勉強させてくれてるなんて……夕飯だけじゃお礼にもならないわよ!」

 母さんがそう言ったこともあって、さすがの宮部も渋らなくなった。

「今日は餃子だってよ。朝から母さん、張り切ってたぞ」

 ニシシッと笑うと、宮部はメガネを上げてからトントンと教科書を叩く。

「それならせめてこのページは終わらせないとね」
「何でだよ」
「何もやってないのに夕飯だけ頂く訳にはいかないだろ」
「真面目かっ!」

 ツッコんでみても宮部は真剣な顔をしてただ教科書を指さしていた。

「……わかったよ」

 ため息を吐いて問題を見る。
 だが、そもそも聞かれている問題の意味さえもわからない。
 解く以前の問題だ。
 ガシガシと頭を掻いて、更にトントンと爪先で机を叩いてしまうせいでカタカタと音をたてて揺れる。

「村瀬くん、わからないならわからないと……」
「あーもーっ!わかんねぇよっ!」

 喚くと、宮部は少し笑った。

「うん、昨日もやったけどもう一度やろうか?」

 何度だって説明してくれて、面倒臭がることもなく少しずつ俺のペースに合わせてくれる。

「……サンキュ」

 呟くと、宮部はきょとんとしてからペンを置いてこっちを見た。

「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ。ありがとう」

 こんな穏やかにふわりと笑う宮部は初めて見た気がする。

「村瀬くんのお陰で今、僕は寂しくも、辛くもないよ。温かい村瀬くんのお家で『お帰り』って言ってもらえるのが本当に嬉しいんだ」

 その笑顔を見ただけで、何かドキドキしてきて俺は胸を押さえた。

「な、ならさっさとうちに行こうぜ!」
「ダメだよ!このページはやるって言っただろ?」

 目を逸らして片付けようとすると、その手を押さえられて更に心臓が騒ぐ。
 真面目過ぎる宮部はただ勉強を教えたいだけだ。
 なのに、俺はその宮部との時間が楽しくて、こうやって触れる度にドキドキしてしまう。
 頭が沸騰してしまった俺は結局問題を解き終わるまでかなりの時間がかかった。