嫌いなあいつが気になって

 宮部の足が意外と速くてすぐには追いつかず、やっと追いついて捕まえたのは下駄箱だった。

「待てって!」

 ギュッとその腕を掴んでも、宮部はこっちを見ない。

「勝手にスマホ見たのは悪かった!でも、何でも一人で抱えんなよ」
「……」
「お前の家庭の事情だよ!……でも、辛いだろ?そんなん」

 無理矢理こっちを向かせた宮部はかなり眉を寄せていた。
 睨むような、堪えるようなその目をしっかりと見つめる。

「そんな辛いの一人で抱えんな。“苦しい”ってちゃんと助け求めろよ」

 思わず力が入ると、グッと唇を噛んで宮部は目を逸らした。

「あのさぁ、俺、バカだからどうしたらいいかなんてわかんねぇんだよ。でもな、そんなこと言われて家にも帰れないなんて……嫌だよ。俺なら」

 何か俺自身が息苦しくなって声が震える。

「なぁ、一人で苦しむなって」

 掴んでいた腕を離しても、宮部は逃げなかった。

「何で村瀬くんがそんなに辛そうにするの?」

 ため息を吐いてメガネを上げながらこっちを見る。

「実際辛いだろ。……うちなら大丈夫だから。迷惑なんかじゃないから。来いって」

 気を抜いたら泣きそうな気がして、俺は歯を食い縛って顔を上げた。
 何とか微笑むと、宮部も眉を寄せて少し笑う。
 タイミングよく姉ちゃんから電話があって宮部と居ることを伝えると、『それならうちでご飯食べればいいから早く帰って来な!』それだけ言われた。
 漏れ聞こえていたらしく宮部は「ありがとう」と小さく呟く。
 そのまま俺と宮部は並んで学校を後にした。