嫌いなあいつが気になって

「……本当にやるの?」

 図書室のドアを開けると、顔を上げた宮部がびっくりしたようにこっちを見る。

「俺は嘘は吐かないんだよ」

 その横のイスを引いて座ると、宮部はじっとこっちを見てきた。

「……お前も熱あるとか言う?」
「そうじゃないけど……」

 すぐ側でする宮部の声にドキドキし始めてむしろ本当に熱が出る気もする。

「何か昼に女の子たちが騒いでいたから大丈夫かなって」
「あぁ、あいつらは何だかんだ言いたいだけだって。今日は凛華と美空はバイトだし、由良と杏は塾だから大丈夫!」

 笑うと、宮部は特に反応することもなく開いていた教科書を見た。

「……で、何を勉強したいの?」
「何ってのはないんだけど……」

 無言の圧力というか、宮部にただ見られると変に緊張する。
 口ごもると、宮部は開いていた英語の教科書を閉じた。

「行きたい大学とか目標があるなら……」
「お前は?」
「え?」
「お前はどこの大学行くの?」

 ため息混じりに話し出した宮部にこれは!と逃さないように聞く。

「……僕は大学は行かないよ」

 カチャリとメガネを上げて宮部は小さく息を吐いた。

「は?お前みたいな頭いい奴が?そのために勉強してんじゃ……」

 ずっと大学はとてつもないところを受けるんだと思っていたが違うらしい。

「ううん。本当に勉強は他のこと考えないで時間を過ぎさせる手段に過ぎないんだ」

 翳るその表情が気になる。

「マジか……」

 言いつつじっと宮部から目を離さないのに、宮部はこっちを向くことはない。

「うん。僕は卒業したら働いて家を出る。……いや、本当なら今もバイトをしてすぐにでもあの家から出た方がいいのかもしれないけどね」

 宮部のその目はどこを見ているのかわからなかった。